五十五話 (視点ナサン)
テントに戻る頃には、少女たちもようやく落ち着きを取り戻していた。
どうやら二人は姉妹らしく、姉が魔法使いで妹はまだ読み書きを習っていないらしい。
テントにいたメンバーには事情を説明したが、イゴールたちが戻ってこないことにはどうすることもできない。
ガブリエルが「さっき怖い目にあったんだから、大人の男どもは外せ」と言うと、エンリケスとロドリゴを筆頭に大人の男たちはテントから追い出された。
そして姉妹は、同じ女性であるマルセラたち――劇団のバレエダンサーに連れていかれた。
「んで、どうするんだ?団長はどこに行った?」とガブリエルに聞かれても俺たちは黙っていることしかできなかった。
「はぁ?まさかそれも分かんねぇのかよ!?」と呆れたような顔で見られる。
クィムがしどろもどろに「その……エルメネジルドと、男たちを追いかけてどこかに行ってしまって……私たちは何か食わせてやれと預かっただけで……その……」と答える様子に、ガブリエルは頭を掻きながらため息をついて。
「もう分かった、分かったから、一旦全員の分のテ・コン・レチェ用意するからお前たちは手伝え!」と俺たちを引っ張っていった。
用意しながらクィムは「……決めました!」と突然大きな声を出した。
「急にどうしたんだよ、お前……」と聞いた俺に、クィムは意を決した顔で「やりたいことです!」と返事をした。
「そりゃよかった、レチェを溢すなよ。」
ガブリエルはそう言って、クィムの持っていた瓶を取り上げた。
クィムは構わず「私、帝国に行って魔法や魔法使いについて学びたいです!
さっきの状況を見て、思いました。たとえ……魔法使いの素質がなくとも、私が勉強することで国民の意識や考えを変えるきっかけになると思うんです。
この計画以外にももっと、きっかけを作ることができると思うんです。
だから、私のやりたいことは――帝国に留学することです!」と宣言した。
その顔は、さっき路地裏で怒ってた時とも、初めて会った時の正論ばっかり言ってる王子様の顔つきとも違った。
ちゃんと、自分なりに前に進むことを決めた奴の顔だ。
「ふーん、お前らしいな」と俺は頷いて。
出来たテ・コン・レチェをクィムに手渡し「じゃあ、俺の分もお前に勉強してもらわねぇとな。」と言ってみると、三人しかいないテントの中に笑いが広がった。




