四話 (視点ナサン)
「詳しいことは、中で。」と店主らしき二人の男性に続いて中に入る。
たしかに日当たりのいい場所にある、温かみと彩りのある飲食店だった。
「バプタイズっていうじいさんについて話が聞きたい、あんたらは何者だ?」と俺が聞けば、ネリオが口を開く。
「俺がギャングを抜ける少し前、じいさんが会いに来てこの店のことを教えてくれた。
ついでに、なんかの劇団のポスターを渡してきた。まあ、俺は読み書きできないからよく分かんないままこの人らに渡したんだが。」そう言うと、一人の男が続けて言った。
短い黒髪の男は「俺はロドリゴ、こっちはエンリケスだ。改めて礼を言う。」と頭を下げた。
クィムと顔を見合わせてあっけにとられていると、エンリケスと紹介された金髪の男は「実は僕たち、帝国から逃げてきたんだよ…困っていたところを、バプタイズ様に助けてもらった恩があるんだ。」と気まずそうに続けた。
「じいさんに?でもじいさんからあんたらの話は聞いたことないぞ?」と詰めよれば、ロドリゴとエンリケスは顔を見合わせ、エンリケスは口を開く。
「バプタイズ様から預かったものをとってくるから、少し待っていてくれないかい?」そう言って裏に引っ込んだエンリケスに続いて、ロドリゴは「コーヒーとポン・デ・ケイジョしか出せないが、いいか?」と厨房へ向かった。
クィムは出されたコーヒーとポン・デ・ケイジョの湯気に驚きながらも嬉しそうな顔を見せた。それが俺には少し不思議だった。
エンリケスは戻ってくると、手に何か劇団のポスターを持っていた。エンリケスがポスターに手を置いて何かつぶやくと文字が浮かび上がる。
クィムは驚いて立ち上がり後ずさる。「魔法使い……!?」エンリケスに敵意の目を向けるクィムに対して、エンリケスは目を伏せ「この劇団の団長、イゴールに大事なものを預けた。ナサン、お前にすべてを託す。って書かれているよ。ナサンとは、君のことだね?」と俺を見る。
「俺たちは、元々帝国に住んでた。少年、一度落ち着いて座ってくれ。悪いことはしない。」とクィムにロドリゴは言い聞かせた。
クィムが恐る恐る座ると、二人は話を続ける。「俺はもともと帝国の男爵家の次男でな。エンリケスは平民なんだが、魔法使いの素質があったから学院ってとこで出会ったんだ。なんだかんだで気が合ってお互いが好きになって付き合うことになった、王国へ移住して結婚したいという話を俺の親にしたとき、猛反対された。
お前たちはずっと王国育ちだからわからんだろうがな、帝国は王国に比べて貧富の差がない分、身分差とか同性同士の交際だとかに厳しいんだ。だから俺はエンリケスを連れてここに家出をして、困ってたところをバプタイズ様が助けてくれたってわけだ。」という話を聞かされる。ネリオはずっと前から知っていたんだろう、驚く様子もなく熱いコーヒーを飲んでいる。
ちらりとクィムを見たら、さっきは魔法使いに怖がって飛びのいたのかと思ったが、二人の生い立ちを真剣な目で聞いている。膝に置いた手を固く握って、全部を受け止めるという覚悟を決めた目だっていうのは俺にもわかった。
「それが俺たちとなんの関係があるっていうんだよ。」と聞けば、エンリケスが真剣な顔で口を開く。
「なぜ、男爵家のロドリゴと、平民の僕が同じ学び舎で勉強ができたと思う?」そこにクィムが「それは、帝国では魔法使いは必要な存在だからでは?」と震える声で答えるとエンリケスは頷いた。
「帝国ではね、魔法使いの素質があれば平民であろうと高水準の教育が受けられる。それはね?
魔法使いが“言葉”を武器にしているからだ。」そう言われてクィムは考え込んでいる様子だった。
俺がわかっていない顔をしているのを二人は見抜いたんだろう、ロドリゴに「この王国では魔法使いは悪だから、あまり教えていないんだろうな?ナサン、お前はきっとバプタイズ様から読み書きを教わらなかったんだろう?」と聞かれて驚きながら頷くと、エンリケスは「魔法使いというのは、単純に力があるから魔法が使えるんじゃないんだ。魔法使いは言葉の意味や由来を正しく扱えなくてはならない、本質を知っている言葉が漸く魔法として扱える。そうなると読み書きは必須になるんだ。
なぜ君にこの話をしたのかというと、ナサン、君が魔法使いの素質があるっていうことをバプタイズ様から聞かされたからだよ。」と俺の目をしっかりと見て真剣な顔でそう言った。




