四十七話 (視点ナサン)
「王位を失っても……」クィムがふと呟いた。設置予定地を見に行った帰り、テントに向かう途中にずっと無言だったクィムは急に国王の言っていたことを口にしたのだ。
「なんだよ、急にどうしたんだよ。」ガブリエルはこちらを振りかえった。「それだけ、お前たち……いや、俺たちに期待してるってことなんじゃねぇの?」とガブリエルは続けた。
「……そう、なんでしょうか?」と俯くクィムに、「成人してない子に国の命を背負わせられないって言ってたじゃん?」とマルセラも続いた。「それに、“提案”って言ってた。“命令”じゃなくてさ……」とガブリエルも腕を組む。「あ……」とクィムは気づいたように顔を上げる。
「たぶん、さ?」とマルセラはテントに入りながら「ガブリエルも言ってたけど……国王様が止めなかったのは、信じてるってことだよ!」と笑顔を見せる。「……は?」思わず驚いて立ち止まる。「信じて……?」とクィムも驚いて立ち止まっている。
「だってそうでしょ?信じてなかったら止めてるじゃん!それに、“劇団を利用するようで悪いが”って言ってたし、提案を受け入れてもらえるのか自信なかったのかもしれないよね……。」そういうマルセラにクィムは自信なさげに「そうだったら、いいですよね……。」と答える。
「いや、そうとしか俺には思えないけどな。」とガブリエルは答える。驚いた顔のクィムとイゴールに「ちゃんと、お兄ちゃん、お父さんになりたかったんじゃねぇの?」と言うとほかの劇団員に呼ばれて外に出ていった。
静まり返ったテントの中、イゴールは小さな鍋を火にかけた。
「……私は、兄上が……私が身分を捨てたときに、どんなことを考えていたのか考えたことがなかった。……ようやく、思い知らされたよ。」とイゴールは呟いた。
「……俺は一緒に住んでたの、じいさんしかいなかったけどさ。」と掠れた声で話しかけてみる。
「……じいさんが、死んだとき。……俺は、じいさんのこと、クィムに会うまで考えないようにしてた。」喉の奥が絞まるような感覚だった。目元が熱くなって、正直頭のなかもぐちゃぐちゃだ。
「でも、さ……もう会えないのは、寂しいっ。もう、新しい話が出来ないのも……一緒に歩けないのも、温かいメシだって、一緒に食えねぇし……くだらないやりとりだって、もう出来ねぇんだから。
だから、国王様は、もしかしたら……もう会えないかもって、思って……だから、俺みたいに考えないようにして……」違う、考えないようにじゃない。
考えないふりだ、いつだってどこかで俺はじいさんの影を追いかけてた気がする。喉が焼けてるみたいに熱い、息が上手く吸えない。
「ナサン殿!」目の前にクィムの顔があった。焦っているような、憐れんでいるような顔を見て、俺は目を逸らすことしかできなかった。
「悪ぃ……。」そう言って俺は、頭を冷やそうとテントを出た。




