三十八話 (視点クィム)
外から大きな音が聞こえてナサン殿とともに飛び起きた。
疲れがたまっているだろうということで、マルセラ殿が貸してくれた部屋で仮眠をとっていたら、まだ朝日も昇り切っていないというのにテントの外から突然大木でもなぎ倒されたような音が響いたのだ。
急いでナサン殿と外に出ると、ほかの劇団員も皆外へ出てきていた。
カランという音の方へ目を向けると、木刀が転がっていた。転がってきたであろう方へ、たどるように目を向ければ、イゴールが立っている。
「どうした?戦場ではもう死んでいるぞ!王家に仕える騎士の実力とはこの程度か!」膝をつき、肩で息をしている騎士たちに向かって声を上げるイゴールは言葉で言い表せない迫力があった。
隣に立っていたナサン殿は、その声に体をびくりと震わせていた。
私は無意識に背筋を伸ばし、指先に残っていた眠気を握りつぶした。
イゴールも王弟とはいえ、一度は戦場に出たことのある身なのだ。戦場の過酷さを誰よりも知っている。戦後に生まれ、城で幽霊のように生きてきた私よりも深く。
彼の言葉は騎士に対する叱責である以前に、私の立つ場所そのものを照らし出すように感じられた。
大きな音の正体は、訓練中にイゴールに弾き飛ばされた騎士がぶつかったことで、積み上げられていた木箱が倒れた音だった。木箱からは小道具があふれて地面に転がっていた。
イゴールは周囲に目をやると、汗を拭きながら「皆を起こしてしまったな、申し訳ない。
お前たち、今日はもう戻れ。事情は話した通りだ、理解したものは夕方またここへ来い。」そう言い残して団長用のキャラバンへと戻っていった。
私もナサン殿も、言葉を発せずにただ出発時間までテントで過ごすことしかできなかった。
もう一度寝ようという気にはなれず、ただぼんやりとテントの天井を眺めていた。
出発の時間、「ロドリゴ、エンリケス、そしてマルセラ、留守を頼んだ。」そのイゴールの言葉を合図に、私たちは壁の街へと出発する。
男の顔を知っていて、直し屋の場所を知っているガブリエル殿を先頭に、四人で向かうことになったのだ。
正体不明の直し屋、ロドリゴ殿もエンリケス殿も知らない魔法使いの存在、正真正銘の得体のしれない者に対峙する恐怖。
今の私には、これからのことを考える余裕も、王族としての自分の在り方を考える余裕も、何一つ持ち合わせてはいなかった。




