三十六話 (視点クィム)
「でも、僕らが持ってきた魔石で足りるかな?」そう言うとエンリケス殿はボストンバッグを二つ椅子に乗せた。
全員一瞬動きを止めて、顔を見合わせる。
ナサン殿は「なんだっけ?確かマルセラは握りこぶし一個分の魔石で一か月は火おこしができるって言ってたよな……?」とマルセラ殿を見た。
マルセラ殿は頷き「そうだね。ただ……それはお父様から聞いた話で、実際に試したわけじゃないから……」と、視線を落として考え込む。
「俺の魔石なら、体感だが……だいたいそれぐらいの効果はある」そう言ったロドリゴ殿は、眉間にしわを寄せて――「ただ、この錬成器はどこに作るんだ?」と我々を見た。
「国境沿いの川、下流じゃなくてもう少し上のほうだな」ナサン殿のその答えに、ロドリゴ殿も小さく頷いた。
するとエンリケス殿は「でも、それなら……。」と何かをひらめいたようで。
「もしかしたら、僕の魔石みたいに熟成とかを速められるような水の魔石……。
つまり、水の魔石を水流の調節、水の循環を速めることに使えるような水の魔石があれば、もっと早く川をきれいにできるんじゃないかな?って思うんだけど……」その言葉を聞いてハッとした。
私自身も水の魔法については盲点だった、魔法というものについて書かれた本は、城のと書斎にはなかったからだ。
するとガブリエル殿は手を上げて「それだったら心当たりがあって、ちょうど話そうとしてたんだ。
前に酒場で合ったんだが、酔いつぶれたヤツがいてそいつに水を出してやろうとしたんだけどさ、そいつの近くにいたヤツが先に水を飲ましてたんだよな。」と話す。
「ですが、それは自分の水を飲ませたのではないのですか?」そう尋ねると、ガブリエル殿は首を振る。
「言ったろ?ステージからは、客席がよぉく見えるんだよ。
俺も糞ジジイも、そいつに水は渡してない。何なら、あの酒場で水を自分から注文するのは――」そこで一度言葉を切り、にやりと笑ってマルセラ殿を見る。
「――マルセラぐらいだな」
マルセラ殿はゲッとした顔をするが、ガブリエル殿はお構いなしといったように「そいつ、見覚えがあったんだ。
壁の街で直し屋してるやつ、たしか……カフェ・オガル?って店の三軒隣の店のおっさん。」そう言うと、エンリケス殿とロドリゴ殿は一瞬言葉を失ったように、互いの顔を見た。
「……今、なんて言った?」とエンリケス殿が身を乗り出すようにして聞き返して、ガブリエル殿もナサン殿も驚いた顔をしていた。




