三十五話 (視点ナサン)
「なるほどな、でも魔石はそこにいるマルセラ嬢の家がやってる商団からも手に入るだろ?」とロドリゴは腕を組んでマルセラを見る。
「えっ……!?あ、もしかして……?」とマルセラは目を丸くする。
「あの頃は髭がなかったから分かんなかったけど、もしかしてロドリゴさんて……エドゥアルド様のお兄様!?」とマルセラは急に姿勢を正す。
ガブリエルは「もしかして、そのエドゥアルドってやつ……前にお前が話してた、ムカついたからってぶん殴った挙句、婚約破棄になって家を追い出された原因になったっていう男か?」とやれやれという顔をした。
マルセラはガブリエルの後ろに隠れるようにして立って「恥ずかしいから、その話は……」と顔を覆う。
「もしかして、うちの愚弟のせいで……」とロドリゴは言葉を切り、唇を噛んだまま黙り込んだ。
しかし、ガブリエルは「お前、こいつの元婚約者の兄貴なのになにも知らないのか?」と首をかしげる。
ロドリゴは「貴族のしがらみが嫌で、弟の婚約直後に家出してるからな……」そう言ってエンリケスをちらりと見た。
「はぁ……、こいつは自分じゃ言わなそうだから、俺が言うけど……。
マルセラに“その活発過ぎる性格を何とかしろ”って、無理難題を突きつけたんだ。お前の弟がな。
そんで、マルセラはそれに腹が立ってぶん殴ったんだってよ、お前の弟。
だから、殴られたのはマルセラじゃない。
それと勘違いするなよ。お前の弟は、女に手を上げるようなクソ野郎じゃない。」そう言ってガブリエルはマルセラを前に出す。
「ともかく、こいつもお前と一緒で貴族のしがらみってのが嫌だったんだそうだ。これを機に仲よくしたら?
まあ、そんなわけあって――今は、魔石の調達にこいつの実家は使えないってわけ。」とガブリエルも腕を組んだ。
「そう……か、愚弟の代わりに謝罪させてくれ、マルセラ嬢……。
本当に申し訳なかった。」そう言ってロドリゴは頭を下げた。
頭を下げるロドリゴを見て、胸の奥が少しざわついた。
貴族というものを、俺はまだよく知らない。
マルセラは首を左右にぶんぶんと振って「やめてやめて!そもそも、私が令嬢らしくなかったのが婚約破棄の原因なんだから!
今は団長に拾われて、普通の女の子のマルセラとして生きてるんだし!
大好きなバレエもできてるんだから、十分楽しく生きてるよ!」そう言ってにっこり笑う。
その笑顔は、過去を断ち切った人間のものだった。




