三十四話 (視点クィム)
少しの沈黙の後、エンリケス殿が口を開いた。
テントの外では、エルメネジルド達が言いつけ通り訓練をしているらしく、荒い掛け声が聞こえてくる。
「ナサンとクィムにロドリゴが話したことにはなるけど、魔石というのは魔法使いが魔力を込めた石のことだ。
そもそも魔法使いは、言葉の意味や本質を正しく扱えなければ魔法使いにはなれない。そうして言葉の本質を知った魔法使いは、生きている限り魔力が体に蓄積していく……。
……それは、その人の生命力と同等だ。
戦争の止まっている今、魔法使いたちはその魔力を魔石に変えている。ここ数年まで表立って取引されていなかったから知っている人は少ないし、大した額にはならない。」
そういうとエンリケス殿は、持ってきたカバンの中から緑色の石を取り出した。
「これが僕の魔石だ。魔法使いにも得手不得手はあって、僕の魔石は植物に関することにしか使えない。僕は植物に関する魔法が得意だから……。」ロドリゴ殿も、エンリケス殿と目を合わせてから、カバンから真っ赤な石を取り出し「俺の魔石だ、俺は火に関する魔法が得意だから、この魔石は火に関することにしか使えない。」と机に置く。
一拍おいて、イゴールは「植物に関する魔法ということで伺いたいのだが……」とエンリケス殿を見る。
「あなたの魔石を植物の代わりにして、水をきれいにすることは可能か?
例えば……水辺に生える植物の性質を、再現するとか」そう聞かれたエンリケス殿は首を振る。
「僕の魔石にはそういう作用はない……僕が使ってたのは、店で出してたコーヒー、その熟成とか……」と考え込む。
「あの、よろしいですか?」と口を挟むと、全員の視線が集中して体がこわばる。
「コーヒー豆の熟成に使われていたのですよね?
であれば……湿地に育つ植物、あるいは根が発達している植物を、急激に成長させたり……あるいはその働きを強めることは、できませんか?」そう言うと、イゴールもエンリケス殿も目を丸くした。
「それなら、可能かもしれない……、試してみないとわからないけど……。」そうエンリケス殿が頷くと、イゴールは「ロドリゴ殿、あなたの魔石はどういう作用がある?」とロドリゴ殿に視線を移した。
「火おこしに使ったり、後は燃料の代わりといったところだろうな……。」と、値踏みするような視線でこちらを見る。
「……なるほど。」イゴールは少し考えてから「エンリケス殿、ロドリゴ殿……お二人に我々の計画に協力いただきたい。
もちろん、協力いただいている間も、後も、お二人の身の安全は保障しよう。
クィム、設計図を出してくれるか?」とこちらを見た。
私は頷いて、イゴールから預かった杖を取り出した。
ナサン殿と机の上に設計図を広げると、全員の視線がそこに集まる。
「これは、大魔法使いであり天才機械技師だったバプタイズという男が、ここにいる弟子、ナサンに残した設計図だ。
彼は、そして我々はこれを錬成器と呼んでいる。」




