三十一話 (視点ナサン)
「マジで、どうなることかと思った……。」俺は腰に手を当て、兵が撤退した広場で座り込むクィムを見下ろした。
広場は、さっきまでの騒ぎが嘘のように皆静まり返っていた。
広場に出てきていた人たちは、皆クィムや俺たちを遠目に見ている。
この空気感は、やっぱり好きになれない……。静かだけど、好奇の目で見られて、まるで自分たちがこの世界に一人ぼっちになってしまったような、寒気のする感覚。
「申し訳ありません、どうしても、いてもたってもいられず……。」クィムは兵が撤退して緊張が解けたのか、へなへなと座り込んだまま息を吐いている。
大声を上げていた喉は、さっきまでのことが嘘のように掠れてしまっていた。
先ほどまでのクィムと今目の前にいるクィムはまるで別人みたいだ。
すると、先ほどのオジャ・ロタの店主と女将が恐る恐る近づいてくる。
二人とも怪我をしていて、髪の毛も掴まれて引き摺られたのかぼさぼさだ。
「あの……ありがとうございました。」と頭を下げる店主に続いて、「あの時は、王子様だとは存じ上げず……。」と女将も頭を下げる。
クィムは一瞬戸惑ったような顔をして、ゆっくりと立ち上がると「いいえ、一人の人間として為すべきことをしただけです。」
そう言い切った声は穏やかだったが、指先はまだ強く握られていた。
「それにあなた達の食堂でいただいたムケッカ……今まで食べた物の中で、一番温かくて一番おいしかった。
全てが終わったら、また食べに行かせてください。王子ではなく、ただのクィムとして。」 と笑った。
その笑顔は、兵たちに向かって叫んでいた時とは違って、穏やかでそして優しかった。
俺とロドリゴ、エンリケスはそんなクィムを見守っていた。
「ほら、さっさと合流地点に行くぞ?一日でも早く、上手いムケッカとか、城じゃ食えねぇもん食いたいだろ?」そう声をかける。
振り返ったクィムはきょとんとして、それから向日葵の花のような笑顔で「……はい!」と頷いた。
さっきまでのことで思った、この少年は確かに王子だ。
でも、普通の怖がりで、人前で緊張する。それでも、ただ普通のことを嬉しく思って、普通のことを楽しんで、普通のことをうらやましがる、ただの一人の少年だった。
だから、その選択が、俺たちをどこへ連れていくか分からなくても――。
それがどれほど危うい道だとしても……俺と、俺たちと一緒にいる間は、王子じゃなくて、ただのクィムという一人の少年でいさせてやりたかった。
それが、俺が一緒に錬成器を作る相棒にできる唯一のことだった。




