二十九話 (視点ナサン)
クィムを止めようとしても、もう遅かった。
この一歩で、自分が何を失うか分かっていたはずなのに。
「――剣を、下ろしてください!」そう言ってクィムは兵と店主たちの間に入っていった。
「なんだぁ?このガキ」剣を構える若い兵はクィムに悪態をつく。
「俺たちはな?ジョアン殿下の命を受けて、バプタイズとかいう反逆者を守ってる悪いやつらに罰を与えてんだよ!
見せしめに何人か斬りゃあ、残りは口を割る。
それが一番早いんだよ、邪魔するんじゃねぇよ!」とクィムを怒鳴りつける兵に、俺ですら足がすくみそうになる。
しかしクィムは「お前たちは、何に忠誠を誓った?」と声が途端に低くなる。
クィムを助けようと立ち上がろうとしたネリオやエンリケスも動きを止めた。
兵は剣を構えたまま「はぁ?」と半笑いでクィムを睨む。
「王子の名か?信仰か?それとも……弱き者の守護のためか?」もうローブのフードも脱げてしまっているクィムは自分よりも背の高い兵を睨みつけて聞いている。
広場にいる兵たちは、誰一人として答えず黙ったままだ。
「答えられぬならば、この場にいる騎士たち全員に、その剣を持つ資格はない!!」とクィムは声を荒げる。
「今、そなたたちの持つ剣は――
武器を持たぬ者の喉元に突きつけるためのものか!?
そのために、そなたらは騎士になったのか!?
王子の名は、……天使の名は!無抵抗な民を殺せと命じるためのものではない!
こんなことをしてまで、そなたらは騎士を名乗りたいのか!?
初めて剣を手に取った日のことを!剣を与えられた日のことを思い出せ!」
剣先が、ひとつ、またひとつと下がっていく音がした。その言葉に剣を地面に落とす兵もいた。
クィムは再び目の前の兵を睨みつけ「彼らを、解放してください。」そう言うと兵は後ずさる。
若い兵の後ろに立っていた老兵にクィムは目を向け。向日葵のような目を見開いた。
「――クィム・フェルナンド・アウグスト・デ・アレンカールが命じている!今すぐに民衆を解放しろ!」その声は、広場に落ちた剣よりも重く響いた。




