二十六話 (視点クィム)
エンリケス殿はすぐには答えず、指先でカップの縁をなぞった。
「……わかったよ。」そういうエンリケス殿の声に驚いて顔を上げると、ロドリゴ殿も信じられないと言いたげにエンリケス殿を見ていた。
エンリケス殿はロドリゴ殿を見て「ナサンはバプタイズ様が命を賭してまで守ろうとしたお弟子さんだ、そのお弟子さんとお弟子さんが信頼している相手、そんな二人の頼みなんだ……すぐには断れないし、もう考える時間も残されてないんだろう?第一王子様の兵がすぐに壁の街に来るってなるとさ……。」
ロドリゴ殿が何か言うのを止めるようにエンリケス殿は「ただし、話は無事に劇団についてから。それまでは、僕たち二人のボディガードになってくれるかな?」そう鋭い目をこちらに向けた。
私とナサン殿は力強く頷く。
荷物をまとめてくるから待っていてほしいと言われて店内で待っていると、外が騒がしくなってくる。
ちらりと外を見ると、兵隊に連行される壁の街の住人が見えた。
それに、子供の声で「やめて!母さんと父さんを連れて行かないで!」と泣き叫ぶ声が聞こえる。
この騒ぎの中で出れば目立つ。そう思い、ナサン殿に「城の兵です、表口から出るのはやめた方がいいとエンリケス殿たちに伝えましょう!」と言えばナサン殿も頷き、勝手に入るのは申し訳ないと思いながらも厨房を抜けて部屋へと入る。
「城の兵がもう近くまで来ています、表口からの出入りはできません。裏口はありませんか?」と言えばロドリゴ殿は顔をしかめ「裏口はあるが、劇団のテントまでは遠回りだし、治安のよくない地域を突っ切ることになる……。」と答えた。外から、金属がぶつかるような音が聞こえた。
ロドリゴ殿が何か話そうとして言葉を止める。
背中に一筋、嫌な汗が伝う。しかし、この状況では手段を選んでいられない。ナサン殿も「この状況じゃ、城の兵がうろついてる方が危険だろ?
俺も護身用のナイフぐらいしかないが、ずっとこの街で生まれ育ってきた。危険には慣れてる。
それに、こいつも覚悟決めてんだ、俺たちが何とかテントまで送り届ける。」そう頷けば、エンリケス殿とロドリゴ殿も荷物をまとめ終えたようで「じゃぁ行こう、裏口はこっちだ。」そのエンリケス殿の声を合図に私たちは奥へ進んだ。
裏口から外に出ると、表口側とは違って生ごみのにおいがきつい。
「ひとまず、ここからオジャ・ロタっつー食堂を目指すぞ、そこは劇団のテントに近い。
クィム、お前と俺で二人を挟んで移動しよう、ここは通路も狭いからな。」そういうナサン殿を先頭に広い通路を目指す。




