二十五話 (視点ナサン)
カフェ・オガルに着いたころにはもう朝日が昇っていた。
街はすでに動き始め、人々のざわめきが遠くから聞こえる。息を切らしてカフェのドアを叩くと、ロドリゴが出てきて、眉をひそめながら俺たちをじっと見た。
「突然で悪いな、とにかく中に入れてくれ、協力してほしいことがあって戻ってきた。」息を切らして言う俺を不思議に思ったのかエンリケスまで出てくる。
俺の後ろでクィムもまた息を切らしながら「あなた方二人の安全にもかかわる話なんです!どうか、話を聞いてください!」そう言うとロドリゴとエンリケスは俺たちを中に入れた。
事情を説明すると、ロドリゴは腕を組んだ。
「なるほどな、だからまずは魔石について教えてほしいと?」その言葉に妙に緊張してしまう。
「あぁ……頼む、魔石ってどんなものなんだ?」口の中がカラカラだ、でもそんなことよりも先に、一秒でも早くじいさんが残した錬成器を完成させなければという気持ちが勝っていた。
ロドリゴはエンリケスと顔を見合わせてから、息を吐いてしゃべりだした。
「……ここまで踏み込む話をするつもりはなかったが」とテーブルに肘をついてから話始めた。
「簡単に言ってしまうと、魔石ってのは魔法使いが魔力を込めた石って事だ。
魔法が使えるようになった魔法使いってのは、生きてる限り魔法を使わないと魔力が体に溜まっちまう。溜まりすぎると、上手く魔法が使えなくなるし、最悪の場合魔力爆発ってのが起きて自分も周囲も危険になる。戦時中は、魔法使いはみんな戦争に出兵していたから魔石を作る必要はなかったけどな。
だから時々魔石に変えて売ったりしているんだ。ここ数年までは表立って取引されることもなかったから、今でも存在を知らねぇやつのほうが多いんじゃねぇかな?
魔石ってたいそうな名前がついてても、大した金にはならねぇけど。」
じいさんは魔石の存在を知らなかったから、魔石を使うという想定で設計図を描いていなかったのか……。内心納得していると、クィムは考え込みながら聞いた。
「魔石とは、帝国ではどのように使われているんでしょうか?
魔法が使えない者であっても、魔石があればどんな魔法も使える……ということではないのですよね?」
それを聞いてエンリケスは頷く「君は勘がいいね。
一口に魔法使いといっても、魔法使いには得意な魔法と不得意な魔法がある。
僕は植物に関する魔法、ロドリゴは火に関する魔法が得意で……僕が作る魔石はどうしても植物に関することにしか使えないし、同様に、ロドリゴの作る魔石は火に関することにしか使えなくてね。」
そこでロドリゴは首をかしげて、睨むようにこちらを見る。「それで、この魔石とさっき話した内容、それがどうして俺たちの安全にかかわるんだ?」
多分俺たちが二人の秘密をばらしたのかと警戒しているんだ……、しかしどう誤解を解けばいいのかと悩んでいると、クィムが真っ先に口を開いた。
「義兄の兵が、もうじき壁の街に入ってくるので。」その言葉にロドリゴとエンリケスは目を丸くする。
「お兄さん?」と首をかしげるエンリケスに、クィムは椅子から立つ。そして一度、深く息を吸った。「あなた方を、レロフ・デ・スエニョスという劇団で保護する代わりに、協力をお願いしにまいりました。
改めて、クィム・フェルナンド・アウグスト・デ・アレンカール、と申します。
バプタイズ殿の遺した錬成器の設計図を、義兄ジョアン・ミゲル・アルヴァレス・デ・アレンカール第一王子の手から守るために壁の街へ来た次第です。
私とナサン殿は、錬成器の動力源を魔法ではなく魔石にして完成させるつもりです。
どうか、魔法使いとして、我々に魔石に関する正しい知識を授けてくださいませんか?
お願いいたします!」そう言って頭を下げた。
俺も続いてクィムの隣に立ち、「頼む、この国と帝国の戦争を完全に終わらせられる唯一の方法なんだ、力を……貸してください。」と頭を下げた。




