二十二話 (視点クィム)
部屋に落ちた沈黙は、重く、息苦しかった。
誰もが口を開けずにいる中、殿下――イゴールは、ゆっくりと視線を巡らせる。
「……それで、まずはガブリエル」
名を呼ばれ、ガブリエル殿の肩がわずかに揺れた。
「君は、何を望んでこの劇団に来た?」
鋭い視線に射抜かれ、ガブリエル殿は一瞬だけ唇を噛み、やがて目を逸らす。
「あの酒場の、糞ジジイから逃げたい……」
一度、言葉を切る。
「血がつながってるかもしれないあいつに、使われ続けるのはもうごめんだ」
拳を握りしめて、吐き出すように続けた。
「だから……自分の力が試せる場所に行きたかった」
声は低く、どこか諦めを含んでいた。
「だから……この劇団に来た」
マルセラ殿が、堪えきれないように一歩前に出る。
「団長も、聞いたでしょ!? ガブリエル、本当にすごいんだよ!」
必死な声だった。
「この子の歌を聞いた瞬間、私、この子の歌で踊りたいって思ったの!だからお願い……何とかして!」
イゴールは深くため息をついて「分かった、何とかしよう……君の事情は何となく察した。
話が付いたら、君は見習い団員からだ。うちの劇団は皆そこからスタートだ、特別扱いはしない。劇団員全員に実力を認めてもらったら見習いを卒業できる。異論はないな?」と話す。ガブリエル殿は力強く頷いた。
「次に、お前たちだ。改めて聞く、この設計図を……錬成器をどうするつもりだ?」そう言われ、私はナサン殿と顔を見合わせ、無言で頷いた。
ナサン殿はまっすぐにイゴールを見て「俺が完成させる。ただ、じいさんの設計図通りには作らない。」と答えた。
私も続けて「私は、ナサン殿の代わりに設計図を読みます。」と答えるとイゴールは息を吐き、「分かった。ただ、お前たちだけでは不安だ。それに、バプタイズの設計図通りに作らないとはどういうことだ?」眉間にしわを寄せてこちらを見る。
「俺は魔力を動力にするつもりはない、だからまずは魔石についての情報を集める。」ナサン殿ははっきりと答えた。
次にイゴールは私を見て、「もう二度と城に戻れないかもしれない、それでもいいのですか?第二王子殿下」と聞いた。
「もう城へ、私に見向きもしてくれなかった母の元へは戻れないことはもう分かっています。その覚悟で出てきましたから。」というと全員の視線が私に集中する。
「城では、まるで幽霊のように生きてきたんです。
所謂、私生児ですから……本当に国王陛下の血を、王家の血を引いているのかはわからない身です。それでもこうして壁の街へと出てきたのは、もしかしたら最初は、家族の気を引きたい子供のような動機だったのかもしれません。
何か功績の一つでもあげれば、国王陛下はきっと私を見てくれる。
そしてたった一日だけでもいい、私のことを本当の家族のように扱ってくれるかもしれない、そう思っただけなのかもしれません。
きっと、物語の中で見た家族のように、何かあったらお互いを思いやる……ということに憧れたのかもしれませんね……。
母も、側室として迎えられてからは陛下の気を引くことに必死で、母と子として会話をした記憶はありませんから……。
……。
でも、今は違います。
はっきりと私のやるべきことがわかりました。功績とか、家族の関心とかはどうでもいい、この国と帝国のために、壁の街のために、錬成器を完成させる。それだけが、目的です。私の本当にやりたいことです。」これだけは自信をもって言うことができた。
イゴールは、少しだけ微笑む。
「やはり、君たちだけでは心配だ。――私たちも、手を貸そうじゃないか」その優しい笑みが、静かに場の空気を和らげた。




