十三話 (視点ナサン)
「おい、どういうことだよ?」ガブリエルに問いただすと、ガブリエルはテーブルの上を片付けながら面倒くさそうに答えた。
「正直、俺だってびっくりしてんだよ。劇団長がマルセラと一緒に来ることなんてなかった。」喋りながらも、ガブリエルは手を止めない。
横を見ると、クィムは多分ガブリエルを手伝うべきか、先に話を聞くべきか、そもそもどこから話を聞くべきかを迷っているんだろうな……といった具合に落ち着かなそうにしていた。
「ともかく、作戦会議だ。お前たちと話して、俺もどうにかしないといけない気がしてきたんだ。あんな醜態さらしちまったしな。
協力してやるから、お前たちも協力してくれよ。」そう言ってガブリエルは手を止めて俺たちを見た。
「ま、その前に店の片づけを始めないと……ジジイはいつも俺に押し付けてさっさと寝るからな。」そう言ってガブリエルは肩を竦めた。
クィムはものすごく慣れない手つきで食器をもって運んだりするもんなので、ガブリエルも呆れて「もういい、お前は何も持つな……。これ使って、テーブルでも拭いとけ。」
そう言って投げられた布巾は、間の抜けた音を立ててクィムの頭に落ちた。
頭で布巾をキャッチしたクィムに笑いそうになったが、気を取り直し、俺も片づけを再開しながら、作戦会議に入った。
「それで、どうするってんだよ?あのジジイのところから逃げるつもりなんだろうが、どうにもならねぇって言ってたじゃねぇか。」面倒くさくて手を止めようとすると、すかさずガブリエルは箒の柄で小突いてくる。
「だーかーら、そこをお前らに考えてほしいんだろうが……。」
人任せなうえに、眉間にしわを寄せていてもきれいな顔をしているのが余計にむかつくが、仕方がないと「おい、クィム。今この中で一番頭がいいのはお前なんだ、何とかしろ。ガブリエルが逃げたってジジイにばれたら、こいつはもう……ただじゃ済まねぇ。」そう声をかければクィムはかなり困った顔をする。
「そう言われましても、急には……。」クィムは視線を落とし、布巾を握ったまま黙り込んだ。
いきなりのことだし無理もない——俺も何も浮かばず、かなり厳しいかと思ったその時、「あ!」とクィムが声を上げた。勢いよく振り向いたら、クィムはびくっとしてから話し出した。
「あの……一つだけ、考えが。」と言ってクィムは顔を上げる。
「“逃がす”とか、そういう言い方は適切ではないかもしれませんが……
“ガブリエル殿を買う”という名目を立てることはできないでしょうか。
歌手として、この酒場から劇団が正式に引き抜く、という形で……。」という提案に俺とガブリエルは顔を見合わせると、クィムは慌てて言葉を継いだ。
「いや、その……。劇団長から協力が得られるとは限りませんし……、協力を得られたとしても取引に乗ってくれるとも限りませんし……、確実性というのは……。」と口ごもるが、ガブリエルは案外乗り気で「いいじゃねぇか!糞ジジイのことだ、俺を売って金がもらえるんだったら喜んで売るだろうし、それで?どうやって劇団長に協力させる?どうやって引き込むんだ?」と勢いよくクィムの肩をつかんだ。
ガブリエルに揺さぶられながら、そう言って必死に宥めようとする。「いや、続けて言われましても……。そんな続けて出てきませんよ、劇団長のこともよく分かってないんですから。」
俺も頼まれた分の片づけを終えてガブリエルを落ち着かせる。
「とにかく、作戦の案は一つ出たんだ、実行するか変えるかは話聞いてから考えりゃいい。な?」ガブリエルは短く頷き、何事もなかったように片付けを続けた。
そのガブリエルの背中が、さっきより少しだけ軽く見えたのは、気のせいじゃない気がした。




