十話 (視点クィム)
物陰に身を潜めていると、ナサン殿がぽつりと口を開いた。
「俺さ、じいさんについて知りたいことがあって……お前と組むことにしたんだ」
そう言われた瞬間、胸の奥が小さく軋んだ。
否定する理由はなかった。多分、私も同じことを考えていたからだ。
「お前と会った時から、ずっと引っかかってた。じいさんが、俺に読み書きを教えてくれなかった理由」
ナサン殿は膝を抱え、視線を地面に落とした。
「俺に魔法使いの素質があるって話も……正直、まだよく分かんねぇけどさ」
一拍、沈黙が落ちる。
「それより、どうしても納得できなかったことがある」
低く、押し殺した声だった。
「……じいさん、急に死んだから」
その言葉で、私の中に小さな疑問が芽を出した。
「……どういうことです?」 声が震えないよう、息を整えてから尋ねた。
焦っても仕方がない。そう自分に言い聞かせる。
「前日までは、じいさんと俺は普通に仕事してたんだよ。別に、悪いもん食ってもなかったし……。」とナサン殿は視線を上げた。
「でもさ、朝起きたらじいさんは寝床で冷たくなってた。
前日まで、いつも通り仕事してたんだぞ?
……さすがにおかしいって思うだろ」
ナサン殿は手を固く握って震わせる。
確かに、そう聞かされるとおかしい点はいくつもあった。
設計図より先に、調べるべきことがある――
そう直感的に理解してしまった自分に、嫌な予感が残る。
「城の官僚たちは、まだバプタイズ様が生きていると考えているようでした……。
設計図のことよりも先に、バプタイズ様自身について調べなければならない気がするんです。」
今はナサン様の顔を見ることができなかった。どう会話を続けるべきかと悩んでいると、裏口がバンと音を立てて開いた音がして、思わず体がこわばった。
「お前!またスカウトされていい気になってんだろ!?」と年を取った男性の声が聞こえてくる。
物陰からナサン殿と覗いてみると、店主らしき男性が、ガブリエル殿の髪の毛をつかんで引きずるようにして裏口から出てくるのが見えた。
「いたっ……放してっ!父さん……!」とガブリエル殿も抵抗しようとしている。
「お前にはなぁ!ここで稼いでもらわねぇと困るんだよ!劇団なんて行ってみろ!お前の今までのこと、全部ばらしてやっからなぁ!?」と男性はガブリエル殿を地面に投げ捨てるようにして、倒れたガブリエル殿を蹴った。
腹を守るようにして蹲っているガブリエル殿の様子に思わず目をそむけたくなる。
しばらく怒鳴り声や、殴る蹴るの音が続いたが音がやむと男性は裏口から中へと戻っていった。
私たちはずっと、早くその音がやむのを……一刻も早く男が去るのを願って息をひそめるしかできなかった。




