第3話 学園に向かって
馬車に揺られながら、僕はあの黒いオークについて考えていた。あのオークは大きさはもちろんだが、大きな岩を殴るだけで、粉々に破壊するほどとてつもない力を持っていた。オークは僕の国の周辺にも生息していて、実践経験で戦ったことはあるが、大した強さは持っていないのを覚えている。
アスト(オークってあそこまで強いモンスターじゃなかったはず…どうしてあんな強さが…?)
ユキト「…い、おーい、大丈夫か?」
アスト「え!?ご、ごめん…えっと…何か用だった?」
ユキト「何か思い詰めてそうだったからさ。やけに顔も暗かったし…。大丈夫か?どこか体調でも悪いのか?」
どうやら不安になっていたのが顔に出ていたらしい。城を出発する前までは、オークくらいなら余裕だと思っていたのだが、さっき出会った黒いオークを見たとき、僕は勝てないと思ってしまった。今回はたまたま彼がいてくれたおかげで何とかなったが、もしまた出会ったらと思うと、今回みたいな偶然は起きないだろう。この大陸にはあんな強いモンスターがいるのだから、想像以上に過酷な道なのかもしれない。
アスト「い、いや大丈夫!全然平気!」
ユキト「そうか?」
あまり不安そうな顔をして迷惑をかけたくなかったので、頑張って笑顔を作る。どうにかして話をそらそうと考えた時、彼のふわふわした尻尾が目に入った。
アスト「ユキトくんの尻尾…すごいツヤツヤだね?」
ユキト「おっ、分かるのか?」
アスト「う、うん。もふもふというか…ふわふわしてそう。」
ユキト「だろ!俺はいつも手入れは欠かしてないからな。ごわごわしてるのは苦手だし、きれいに見せたいんだ。触ってみるか?」
そう言って彼は尻尾を僕に近づけてくれた。間近で見ていると毛並みが綺麗に整えられていて、先ほど戦っていたとは思えないほど、汚れていないし輝いてるように見えた。
アスト「えっ!?い、いいの?」
ユキト「もちろんだぜ!」
アスト「じゃ、じゃあ…。」
僕は恐る恐るユキトの尻尾を触ってみた。獣人の尻尾を触るのは初めてだったが、想像以上にふわふわしていて、肌触りがすごく良かった。
アスト「す、すごいふわふわしてる!」
あまりにも良すぎる肌触りに、つい両手を使って触ってしまう。
ユキト「だろ?狼の獣人でもこんなにふわふわなのはそうそういないと思うぜ。」
そう自慢げに話す彼は、よっぽど尻尾を誉めてくれたのが嬉しかったようだ。尻尾から手を離すと、ブンブン尻尾を振り始めた。どうやら感情はよく尻尾に出やすいみたいだ。ご機嫌になっているのが分かる。
ユキト「まぁ、俺はただの狼の獣人じゃないけどな。」
アスト「えっと、この竜の翼のこと?」
僕は翼をまじまじと見る。姉さんたちにも翼はあるが、姉さんたちとは違って、彼の翼は作りが違う。姉さんたちの翼は横に大きかったイメージだが、彼は全体的に大きめなイメージだ。竜人でも種族によってはここまで作りが違うのだと、僕は少し興味を持った。
ユキト「おう。そうだぜ!俺は氷竜と狼の混合種なんだ。」
アスト「混合種って…すごい珍しいね。僕初めて見たよ。」
本来生まれてくる子供というのは種族が違う場合、親のどちらかの種族になるはずだが、たまに遺伝子が突然変異を起こして、2つの遺伝子が混ざる混合種が生まれる場合がある。ただ遺伝子の突然変異はホントに稀なので、混合種が生まれるのは本当に小さな確率と言われている。たしか1000万人に1人くらいの確率と聞いたことがある。僕も混合種をみるのはユキトが初めてで、少なからず彼に興味があった。
ユキト「それを言うならアストって人間なんだよな?俺も人間は初めて見たな。」
アスト「え?そうなの?」
ユキト「あぁ、リュミナール大陸はいろんな種族がいるけど人族は全くいないんだよな。確かどっかの大陸に人族が多い国があるって聞いたことはあるけどな。」
アスト「えっと、確かピューロン大陸…だったっけ?」
ユキト「そうそう、そんな名前だったはずだ!」
ピューロン大陸はリュミナール大陸からかなり離れたところにある大陸だ。リュミナール大陸と違って獣人はおらず、逆に人族が多い。そして小さな国がたくさんあり、国の数ならナチェナル大陸が一番多いと思う。小さいころからずっとムースタン国で暮らしてきた僕は、他の人族を見たことがないので、ピューロン大陸は早めに行ってみたい大陸だった。
アスト「そういえばユキトくんはどこに向かってるの?」
ユキト「ネイチャリー国だぜ。俺そこの学園に入学する予定なんだ。」
アスト「えっ!僕と同じだ!」
ユキト「そうなのか?てことはアストもエンデル学園に入学する予定なのか?」
アスト「うん、そうだよ。すごい偶然だね。」
ユキト「だな!俺もエンデル学園には入学してみたかったからさ、こんなところで同じ新入生に会えるとは思わなかったな。」
さすがはエンデル学園。いろんな種族を受け入れているとは聞いてたし、人気なのは分かっていたが、こんなに早く僕同じ新入生に会えるとは思わなかった。しかも彼みたいな希少な種族にも会えるなんて、いきなりすごい出会いをした気がする。
アスト「ユキトくんは今いくつなの?」
ユキト「俺は今年で13だな。」
アスト「あっ…やっぱり年上か…。僕は今年で12だよ。」
ユキト「俺より1歳年下なのか。でもアストはあんなすごい魔法を使えるんだな!すげぇじゃん!」
アスト「あはは…まぁね。」
アスト(僕と年はそんなに変わらないのに大人と同じくらい剣が使えるユキトくんもすごいと思うけどね…。)
僕は近接での戦闘はあまり得意ではなく、剣術などは全く身につけていない。その代わり、今まで大人たちの剣術は見てきたのだが、彼は大人相手でも勝てそうな程、剣の扱い方が上手かった。到底僕と1歳違いとは思えなくて、一体どこでその技術を身につけたのか不思議だった。
ユキト「そうだ。アストはネイチャリー国は初めてか?」
アスト「うん、そうだよ。」
ユキト「なら、俺が道案内してやろうか?俺は何回もこの国にきたことがあるから、いろいろ紹介できるぜ?」
アスト「え?いいの?」
ユキト「おう、もちろんだ。」
とてもありがたい提案だったので、僕はそれに甘えさせてもらうことにした。その後は、数十分程馬車に揺られ、周りの景色を見ながら、ユキトくんと喋っていた。どこまでも広がっている草原に草木や花、どれも僕の国では見られなかった景色だ。見たことのないものがあれば、ユキトくんが何か教えてくれた。彼はすごい優しくて話しやすかった。正直1人というのもあって、寂しさと緊張、不安もあった。だけど彼のおかげでその気持ちが大分和らいだ。
アスト(改めて見ると…本当に良い場所だ…。この花とか見たことないな…。)
ユキト「何か…ずいぶん楽しそうだな?」
アスト「あ…うん、こんなキレイな景色を見るのは初めてで…僕、国からあまり出たことがなかったからさ。」
ユキト「そうなのか?だったら、今度もっと良い絶景の場所を教えてやるよ!」
アスト「え?良いの?」
ユキト「おう!俺もそれなりに絶景な場所は知ってるんだ、今度見せてやるぜ。」
彼と話ながら時間をつぶし、日が落ちかけていた頃にやっとネイチャリー国にたどり着いた。
「ネイチャリー国に着きました。ご利用ありがとうございました!」
僕とユキトくんは馬車を降りた。そして、目の前には人で賑わっている城下町が見えた。
アスト「すごい…ここがネイチャリー国…!」
僕たちはさっそくネイチャリー国に入った。ムースタン国以外の国に行くのはこれが初めてなので、僕は少し興奮していた。リュミナール大陸の中でも広い国というだけあって、国の広さも人の数もムースタン国とは比べ物にならなかった。
ユキト「そういえば…アストは初めて来たから宿屋の場所とか分からないよな?俺が教えてやるから今から宿に行こうぜ。見ての通り人が多いから、早めに予約しないと野宿することになるぞ。」
アスト「うっ…野宿はちょっとやだかな…。」
ユキト「だろ?ほら、早く行こうぜ!」
アスト「えっ!?まっ…待って!」
先に行く彼の後ろを急いで追いかけた。移動しながら周りをキョロキョロしていると、いろんな店が目に入ってくる。どの店も見たことのない店ばかりだ。しかし、あまり見すぎるとユキトくんに置いていかれそうなので、気になった店だけ場所を覚えて、彼の後をついて行った。
ユキト「とりあえずここだな。」
そう言ってユキトが向かった先は、草原の宿というところだった。
ユキト「ここは俺が来たとき何回もお世話になった宿で、すごい料理が上手いんだ。」
アスト「そ、そうなんだ…ふぅ。」
何とかついてこれた僕は、大きく深呼吸をして息を整えた。疲れが溜まっていたのもあったせいか、少し走るだけでバテてしまっていた。
ユキト「大丈夫か?」
アスト「う、うん…。ごめん。あまり体力がなくて…。」
ユキト「えっ?そうだったのか…。すまん…。そう言えば人族と獣人じゃあ体の作りが違うのを忘れてたぜ…。」
アスト「い、いやこれは僕のせいだから…。僕はもともと小さい頃から身体が弱くて…。虚弱体質なところがあったんだ。今は大分マシにはなったんだけどね。」
ユキト「虚弱体質か…。それはしょうがないな。とりあえず中に入ろうぜ。確か入ったら近くに椅子があったはずだ。そこでゆっくり休んでくれ。」
アスト「うん…ありがとう。」
宿に入るとすでにたくさんの人がいた。犬族、猫族、狐族…とさまざまな獣人がいる。そして宿の中はたくさんの観葉植物、木を使ったおしゃれなインテリアが並んでいた。そして宿に流れる空気はどこか自然の香りがして、たしかに草原という感じがした。
ユキト「じゃあ、俺は受付に行ってくるからここで待っててくれ。」
ユキトは受付の方へ進んでいった。遠くでも彼の翼と、特徴的な見た目のおかげでここからでもどこにいるか分かる。こうして見ると、かなり目立つ見た目をしている。
受付の女性「あらー!ユキトくんじゃないの!久しぶり!」
ユキト「おう!久しぶりおばさん!今日も泊まりにきたぜ!」
まるで常連のように話している2人。後から聞いたが、ネイチャリー国にはよく昔から遊びに来ていたらしく、この国には詳しいらしい。僕はゆっくり椅子に腰掛けた。宿特有の匂いのおかげで気持ちが大分リラックスしている。
アスト(知り合いなんだ…すごいなぁユキトくんって…うん…?)
視線を感じた僕は、周りを見渡してみた。すると、色んな人が僕の方を見て、コソコソ何か喋っていた。
アスト(そういえば、この国で人族は珍しいんだっけ…。)
注目が集まるのは苦手なので、なるべく目立たないようにしようと隅に行こうか迷っていた時、ちょうどユキトくんが戻ってきた。
ユキト「悪いアスト、待たせたな。」
アスト「あっ、どうだった?」
ユキト「それがさ…あと1部屋しか部屋が空いてないらしくてさ…。悪いんだけどさ、俺と相部屋になってもらってもいいか?」
アスト「そうなんだ?僕は大丈夫だよ。」
むしろ、こんなに人がいて1部屋空いていたことが奇跡だと思った。
アスト(贅沢は言えないし、しょうがないよね。)
ユキト「悪いな。じゃあ今からまた行ってくるぜ。」
そう言うとユキトは再び受付へと向かった。すると、すぐ1つの鍵を持って戻ってきた。
ユキト「部屋はこっちだぜ、ついてきてくれ。」
ユキトに言われ、荷物を持って泊まる部屋へ移動しようと
立ちあがった。
ガヤガヤ…
周りの人は相変わらずこちらを見てくるが、ユキトくんも気にしていないようだし、気にしてもしょうがないと思い、無視することにした。ここまで目立つとは考えてなかったけど、希少な混合種にリュミナール大陸にはいない人族が一緒に行動していれば、確かに目立ってしまうだろう。
ユキト「ここだな。
そう言って、ユキトくんは鍵を使ってドアを開けた。さっそく部屋に入ってみると、大きなベッドが1つに、木を使ったインテリアが多く見られる。まるで自然に囲まれたような気分になり、僕の部屋とは違う安心感がある。
アスト「ふぅー…。」
部屋に入った僕はさっそく荷物を置き、椅子に座り込んだ。
ユキト「ははは、疲れきってるって感じだな。」
アスト「うん…。結構長い距離を移動したし…。」
ユキト「モンスターとも戦ったしな。さすがに俺も疲れはちょっとあるな。」
そう言って彼は時計を見た。
ユキト「そうだな~、夕食までまだ時間あるし、ベッドで少し眠ってても良いぞ?」
アスト「ほんと?じゃあちょっと寝ようかな…。」
ユキト「おう、また夕食になったら起こすぜ。」
お言葉に甘えて、ベッドに横になり目をつむった。
アスト(結局体力作りもあんまり効果ないな…でも1年前の僕ならここまで来れてないし、ちゃんとやっといて良かった。もっと頑張らないと…。)
自身の課題を考えていると、想像以上に疲れていたのか、気づけば眠りについていた。
———
国が燃えている。空にはたくさんの黒い何かが飛んでいる。地上には、炎から逃げようと走って逃げている人が見える。
アスト(まただ…。)
僕はこの夢を何度も見てきた。夢だからか分からないけど、ぼやけている感じもいつも通り。ぼやけすぎて、知っている国かも分からない。ただ、僕はこんな経験をしたことがないのに、まるで、体験したかのように何度もこの夢を見ている。
??「はぁ…はぁ…。」
場面が変わって、誰かが何かを抱えて走っている。このシーンも全く同じ。どうしてこの夢だけ、何度も何度も見るのだろうか。
アスト(まさか…予知夢…とかじゃないよね…?)
僕はそんな嫌な考えをすぐに振り払った。こんなのはただの悪夢だ。そんな予知夢とか見る能力なんて僕にはない。だから大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「大丈夫だ、俺が…君たちを守ってみせるから。」
このセリフも何度も聞いてきた。
アスト(ここも変わらない…ん?)
いつもならボヤけているが、何故か今だけはこの男の人の顔と容姿が少し見えた。いつもならボヤけすぎて全く見えなかったのに。
アスト(えっ…?)
驚きを隠せなかった。僕が見たのは、水色の髪に、竜の翼、狼の尻尾と耳をつけた少年。そう、最近あった彼に似ていたのだ。
アスト(…ユキトくん?)
———
ユキト「おーい、ユウ、起きてくれー。」
アスト「う、うーん…あれ、ユキトくん…?」
ユキト「目が覚めたか?」
目を覚ますと、目の前にはユキトくんがいた。
アスト(似てる…夢に出た人と…。)
僕はじっと彼の顔を見た。顔も容姿もどこを見ても夢にでてた彼とそっくりだった。
ユキト「どうしたんだ?そんなじっと見て…。何かついてたか?」
アスト「ご、ごめん。何でもないよ。」
ユキト「なら良いけどさ、とりあえず夕食の時間になったし、いっしょに食べに行かないか?」
アスト「う、うん!」
アスト(偶然…だよね?)
きっと、印象のある出会いをしたから、夢でたまたまユキトくんが出てきたんだろう。僕は考えるのをやめ、体を起こす。髪の毛を整え、廊下で待っているユキトくんのもとへいく。
ユキト「じゃあさっそくご飯食べにいくか!」
僕たちは一階の食堂へと向かう。
アスト(何か…眠った感じがしない…。)
あんな夢を見てしまったせいで考えないようにしても、どうしても目の前の彼のことが気になってしまう。
ユキト「そういえばアストさ、うなされてたみたいだが大丈夫だったか?
アスト「え…?」
ユキト「起こそうかどうか迷ったんだけどさ…。すぐに静かになったし、あまり気にしなかったんだが…大丈夫だったか?」
あまり心配はかけたくなかったので、なるべく笑顔で話した。夢に何故ユキトが出てきたのか…。気になることはあるけど、きっと全部偶然のはずだ。
アスト「う、うん、大丈夫だよ、ありがとう。」
ユキト「そうか?辛くなったらいつでも言ってくれよ。」
廊下を歩いていると階段に近づくにつれて良い匂いが漂ってきた。
アスト「すごくいい匂い…!」
下へ降りるとすでにそこにはたくさんの人が食堂に集まっていた。よくみれば周りの人は僕たちと同じ年の子が多かった。
アスト「なんか…周りのみんな、年の差変わらないね。」
ユキト「だってここにいるやつらはほとんどが新入生だからな。入学式は明後日だから、俺たちみたいにこうやって他の国から来て、ネイチャリー国で泊まって入学式に備えてるやつが多いんだ。」
アスト(こ、これみんな新入生!?か、数が多すぎる…。)
数の多さに驚愕しながらも、僕たちは食堂の犬族のおばちゃんに夕食を頼んで席についた。
ユキト「なぁ、アストってどこから来たんだ?」
アスト「僕?」
ユキト「あぁ、アストはこの国の出身じゃないんだろ?やっぱりピューロン大陸の方から来たのか?」
アスト「うぅん、僕はムースタン国から来たんだよ。」
ユキト「えっ!?ムースタン国?それって星龍族が住んでいる国だよな?へぇー、あそこって人族が住んでるのか。」
アスト「あ、人間っていっても住んでいた人族は僕だけだよ。」
ユキト「え?そうなのか、じゃあなんでアストはそこに住んでいたんだ?」
アスト「僕が赤ちゃんの頃森に捨てられてたらしくて…それをそこの国の人が拾って育ててくれたんだ。」
ユキト「えっ…そうなのか…何かごめんな…不謹慎な質問だったぜ…。」
僕を拾ってくれたのが王族の人だったというのは話さないでおくことにした。話したら変に気を遣わせてしまいそうだし。
アスト「う、ううん!気にしなくて大丈夫だよ!ユキトくんはどこからきたの?」
ユキト「俺か?俺は、スノードル国だぜ。」
アスト「え?リュミナール大陸の1番北の方にある…。」
ユキト「そうだぜ。」
スノードル国はリュミナール大陸の1番北にある国であり、リュミナール大陸の中で1番気温が低い国である。雪原が広がっており、常に雪があるため、まず行くのであればそれ相応の準備が必要となる。標高が高い山が並んでおり、国も山の上にあるので行くだけでも一苦労だ。なぜそんなところに国があるかというと、スノードル国の周りには強いモンスターがたくさん生息していて、スノードル国はいつもモンスターと戦争を繰り広げているのだ。勝つために、高いところに国を建てていて、有利をとっている。あと、戦争のためにスノードル国に生まれた子供は、小さい時から戦いの教育をされていると聞いたことがある。オークと戦った時、ユキトくんはやけに戦闘に慣れていると思ったけど、これで納得がいった。
アスト「なるほど、だからユキトくんはあんなに強いんだね。」
ユキト「そうか?でも俺なんてまだまだだ。魔法だってあんまり使えないし…それを言うならアストだって強いだろ。あの綺麗な石を使った魔法、俺は見たことがないけどあれってなんなんだ?」
アスト「あれは宝石魔法だよ。」
ユキト「宝石魔法って…えっ!上級クラスの魔法だよな!?てことはアストってあの時宝石を持ってたのか?」
アスト「ううん。僕は能力で魔力を使うことで好きなタイミングで宝石を作り出すことができるんだ。」
ユキト「えっ!それってもしかして…アストはユニーカーなのか!?」
ユキトくんはユニーカーということを知り、驚いている様子だった。僕もあまりユニーカーというのをあまり知らなかったので調べてみたのだが、まず、普通の人が持ち合わせない不思議な力を持つ人のことをユニーカーという。ちなみに、基本的には<属性魔法強化>をもつ人がほとんどらしいが、僕みたい<魔力結晶化>という珍しい能力を持つ人もいる。<属性魔法強化>は、特定の魔法を扱う時、その威力が勝手に強くなるという能力だ。例えば、<炎属性魔法強化>なら、他の魔法は普通だが、炎属性の魔法だけ普通の人とは桁違いな威力をだせる。
アスト「最初はビックリしたけどね…。突然能力に目覚めたから…最初は酷く驚いたよ。」
<魔力結晶化>は自身の魔力を宝石にすることができる。宝石というのは、念、思い、感情などをためやすく、魔力を宿しやすい性質があるのだ。例えば、ルビーだと情熱、勇気などの感情をためやすく、炎系統の魔力を宿しやすい。サファイアだと、冷静、冷徹などの感情をためやすく、水系統の魔力を宿しやすい。僕はこの能力を上手くいかせないかいろいろ考えてきた結果、宝石魔法という新たな魔法を作った。宝石魔法は、名前の通り宝石を利用した魔法で宝石に魔力を流せば、その宝石に宿した属性の魔法を扱うことができるのだ。さらに、僕は1年の中で宝石を研究してきて、念や思い、想像、魔力が強ければ、普段の属性魔法よりも何倍もの強さになることが分かった。そのぶん魔力の消費も激しくなるデメリットもあるが、強力な魔法には違いないのでしっかり使いこなせるようになりたいところだ。
ユキト「ん?突然能力に目覚めたって…どういうことだ?」
アスト「昔はこの力はなかったんだ。ある日突然能力に目覚めてて…気づけば使えるようになってたんだ。慣れてなかったから暴走も多かったし、勝手に宝石になるからかなり焦ったよ。
ユキト「んー…そうなのか…」
話を聞きながら、ユキトは何か悩んでいる様子だった。
アスト「えっと…何か気になることでもあった?」
ユキト「いや…確か能力って生まれた時に目覚めるものなのに、そんないきなり能力に目覚めるなんて変だなって思ったんだよ。」
アスト「…え?そうなの?」
ユキト「あぁ、少なくとも俺は能力が突然目覚めるなんて聞いたことないな。」
姉さんはまれに僕みたいに目覚める人がいると言っていた。確かに言われてみれば、調べているときに突然能力が目覚めると書かれた書物は見たことがない。でも実際に僕は突然能力に目覚めたし、本当に僕は稀な存在なのだろう。
ユキト「何かアストって面白いな。突然能力に目覚めたり、宝石魔法を使えたり、稀な人族だしな。ここまで珍しい人は初めて会ったぜ。」
アスト「そ、そうかな?でもユキトくんだって珍しいと思うけど…。」
ユキト「確かにそれもそうだな。後ずっと気になってたけど、ユキトくんじゃなくて呼び捨てで呼んでくれよ。俺も呼び捨てで呼んでるしさ。お互い珍しい者同士仲良くしようぜ。せっかく一緒に入学するんだからさ!」
そう言ってユキトくん…いやユキトは手を差し出してきた。僕も手を出してその手を握り返す。昔から鍛えていたであろうユキトの手はとても筋肉質で、力強かった。僕とは違い、日々鍛錬を頑張ってきたのだろう。
アスト「そうだね。よろしくねユキト。」
ユキト「おう!よろしくな!」
おばちゃん「2人ともお待たせ!」
と、その時ちょうど良いタイミングで料理がやってきた。
ユキト「おっ!やっときたな!」
国によって料理の文化が異なることも知っていたので、僕は今回食べる料理をすごく楽しみにしていた。見たことのない料理だらけだったが、どれもすごく美味しかった。途中、ユキトに料理の説明をお願いしたら喋り出した瞬間、止まらなくなって料理が冷めたりもしたけど、初めて食べた異国の料理をこうやって賑やかに食べられたのはすごく嬉しかった。
ユキト「美味いだろ?」
アスト「うん!どれもすごく美味しいねこれ!作り方教えて欲しいくらいだよ。味付けも…ちょうどよくて食べやすいし。」
ユキト「もしかして、その口ぶりからするにアストは料理するのか?」
アスト「うん。実は昔から料理をするのは好きなんだ。だからそれなりにはできるよ。」
国にいた頃は、シェフの人たちがいろんな美味しい料理を作ってくれることに感動を覚え、どんな風に作っているのか気になり、1度様子を見たことがある。最初こそは興味がある程度だったのだが、1人暮らしも始めるということもあり、あの1年間で料理も練習してきた。これが始めてみると意外とハマってしまい、いろんな料理が作れるようになった。味はというと、姉さんやお母さんはシェフの人たちと変わらないほど美味しいと褒めてくれたけど、僕はあまりそう思っていない。まだまだもっと上手に作れると思う。でも僕がそう言うと、姉さんとお母さんは想像以上に慌ててた気がする。ずっと本当に美味しいとかレベルが一緒とか言っていた。そこまで褒めなくても良いのに。
ユキト「すごいな!今度俺に料理を作ってくれよ。俺もアストの国の料理に興味があるからさ。」
アスト「あはは…そんなに上手く作れるわけじゃないけどね。でも今度絶対作るよ。」
ユキト「約束だぞ!じゃあそんなアストのためにも色々美味いものを紹介しないとな!次の料理を頼もうぜ!」
アスト「えっ!?い、いやちょっと待って!僕結構このチキンのグリルでもお腹いっぱいで…。」
ユキト「大丈夫!大丈夫!俺が全部食うからさ!ちょっと待っててくれ!」
アスト「あっ!えっ!?……行っちゃった。」
ユキトはそう言ってどこかに行ってしまった。正直、そんなに食える自信がなかったから、残したりしたらどうしようかと不安だった。だけど、その心配は数十分後には杞憂に終わることをこの時の僕はまだ知らなかった。
———
ユキト「ふぅー…結構食ったな。」
アスト「……」
ユキト「ん?どうしたんだ?」
ユキトが不思議そうに僕を見てくる。それはそうだ。だって彼のテーブルの上にはこれでもかと言うほどの大量の皿が積み上げられているのだ。
アスト「…さ、さすがに食い過ぎとかいうレベルじゃなくない?」
そう言って僕はユキトの近くに積み上げられた皿の方を見た。さっきから周りの獣人の人も引くような目でユキトをちらちら見ている。
ユキト「いやぁ、今回はかなり腹が減ってたからな!」
アスト「えぇ…。」
僕よりも軽く50倍は食べていたユキトに驚きを隠せなかった。おかげで料理を残す羽目にはならなかったけど、これはこれで別の意味で心配してしまいそうだ。
ユキト「後で城下町の肉巻きでも買いに行こうぜ!」
アスト「まだ食べるの!?」
獣人は人間と比べてよく食べるとは聞いたことはあるが、さすがにユキトの食欲はすごすぎる。
ユキト「そうだ、アストも明日は城下町に行こうぜ。今日は受付とかで行けなかったからな約束通り色々教えてやるよ!」
アスト「ホント!?あ、ありがとう!」
ユキト「おう!美味い店をたくさん紹介するからな!」
アスト「あ、あはは…。」
アスト(ホントに食べること好きなんだなぁ…。)
ユキトの意外な一面を見つつ、今日はゆっくり休んで城下町の観光のために体調を整えることにした。そして次の日、城下町をユキトに教えてもらいながら色々見て回った。やっぱりというかほとんどが食べ物系だったけど。自然が多いこの国では僕の国と違っていろんな景色を見れたので楽しかった。ネイチャー国は僕の想像以上に広くて、色々見ているうちに気づけばあっという間に夜になっていた。
ユキト「ネイチャリー国はどうだ?楽しめてるか?」
アスト「うん…でも…結構お腹いっぱい…しばらくは食べなくても良いかも…。」
食べ歩きをしながら国中を周っていたので、もう何も食べれる気がしない。どの料理も本当に美味しいけど、しばらくは食べ物を見たくない。
ユキト「そうか?昨日も思ったがアストってあまり食わないよな?意外と少食なんだな。」
アスト「あはは……これでも昔と比べたら食べれるようにはなったんだけどね…。」
ユキト「俺はこの後食堂でご飯を食ってくるけど、アストはどうする?」
アスト「遠慮しておきます…。」
内心ではユキトが食い過ぎなんだよとツッコミを入れておいた。
その後もユキトは普通にご飯を食べようとしていたので、流石に食べれないと思った僕はひと足先に部屋に戻った。
アスト「えぇと…確か魔導書は…この辺りにあったはず…。」
ユキトがご飯を食べている間、僕は持ってきておいた宝石魔法に関する魔導書を読むことにした。この前戦った黒いオークのようなモンスターにも勝てるように、実力はしっかりつけておかないといけない。そのためには、宝石魔法の力は欠かせない。
アスト(宝石魔法の知識をもっとつけて理解を深めないと…きっと今後の役にも立つし、虚弱体質だから近接で戦闘はできないからね。)
まだ宝石魔法は炎と水しか扱えない。理解力を深めたら全属性を扱うことができるすごい魔法だが、その分他の魔法よりも難しいし、技術や熟練度も必要だ。炎は最初からできていたが、特訓をしてきた1年間では、水属性の宝石魔法しか習得できなかった。今は風の宝石魔法を勉強している。そのためには風の魔法について扱えるようになり、それにあう魔力を結晶化させるという地道な技術を覚える必要がある。
ユキト「うわ…なんだこの文字の羅列…アストっていつもこういうのを読んでるのか?」
アスト「そうだよ。僕の宝石魔法って発動させること自体は簡単なんだけど、力が強すぎる分制御が難しいし、反動も大きい。能力のおかげでいつでも使えるけど、だからこそ正しく力を扱えるようにしっかり勉強しておかないと…ってん?」
長々と喋ってしまったが、僕は誰と話していたんだと思い、後ろを振り返る。そこにはご飯を食べていたはずのユキトがいた。
アスト「うわぁぁ!?ユ、ユキト!?いつからそこに!?」
ユキト「いつからって…結構前からいたぞ?部屋に入ってきてもアストは真剣に本を読んでたから邪魔したら悪いなって思っててさ。」
集中しすぎたせいでユキトがいたことに気づかなかった。しかも気づかず喋ったりもしたので、なおさら恥ずかしくなった。
アスト「いたなら教えてよ…ホントにビックリした…。」
ユキト「そ、そんなに驚いたのか?ならごめんな。俺もそんなに驚くとは思わなかったんだ。」
アスト「ううん。気づかなかった僕も悪いし…こういう時の僕って集中力がすごいけど、話しかけてくれて大丈夫だから。」
そう言いながら、僕は魔導書を手に持ち立ち上がる。これ以上勉強したらまたユキトに気を使わせてしまいそうだ。
ユキト「分かった。次からは気をつける。それにしてもすごいなアストは。俺も魔法を使えるようになりたいぜ。」
アスト「やっぱり魔法は苦手なの?」
ユキト「そうだな、俺は属性魔力が氷だから一応氷魔法は使えるぜ。魔法自体があまり得意じゃないけどな。」
属性魔力というのは、名前の通り1人1人の持つ魔力の属性のことだ。属性によってその人の得意な魔法と不得意な魔法が変わる。例えば魔力属性が炎の人は、魔力が炎のため炎系統の魔法を得意とするが、逆に水魔法や氷魔法などは炎の魔力だと上手く扱うことができないため不得意な人が多い。だから基本的には属性魔力の魔法を鍛えるのがセオリーだ。
ちなみに僕は属性魔力はない。ないというか、無属性と言えば良いのだろうか。どんな属性にもなれる魔力なので、全属性を幅広く扱える。ただし、突出した属性魔法は使えないというデメリットはある。
アスト「で、でも人には向き不向きがあるからさ。僕とか魔法は使えても運動はできないし…。」
ユキト「確かにそうだけどな…。そうだ、もし暇だったら今度俺に魔法を教えてくれないか?」
アスト「僕が?」
ユキト「あぁ、苦手って言ってもやっぱり使えるようにはなっておきたいからさ。」
アスト「お、教えれるか分からないけど…。分かった、今度教えるよ。」
ユキト「ホントか!ありがとなアスト!」
ユキトは尻尾をぶんぶん振っている。ホントに態度に出やすい尻尾だ。まだたった2日しかない関係だけど、純粋で素直な彼に出会えて本当によかった。
明日からいよいよ入学式。入学する前からいろんな出来事があったけど、きっと学園に入学すれば、まだまだいろんな思い出ができるだろう。
ユキト「ふわぁ…眠たくなってきたな。明日も早いし…悪いアスト、俺先に寝ても良いか?」
アスト「分かった。僕は荷物をまとめてから寝るよ。先に寝てて。」
ユキトはひと足先にベッドに入る。数分ほどで彼の小さな寝息が聞こえてきた。どうやら僕の思った以上に疲れていたようだ。僕は部屋の光を小さくする。そして、魔導書を片付けていたりすると、たくさんの紙が出てきた。これは、姉さんやお母さん、国のみんなに手紙を書くためにと持ってきた特別な紙だ。
アスト(そうだ。姉さんやお母さんに手紙も書いておかないとね。)
僕は紙を取り出す。この2日間の出来事を思い出しながら、どこから書こうか悩む。ふと、窓の外を見てみると、綺麗な星空が見えた。城を発ってもう2日。最初の頃はみんながいないから、寂しいし遠くにいるように感じていた。実際遠くにいるのだけど。でも、星空を見ていると、姉さんやお母さんが近くにいるような気がした。だって、離れていても同じ星空を見ている。そう考えると、自然と不安もなくなった。それに今は新しい友達もできたから、寂しくもない。僕は書く内容を決め、さっそく手を動かし始めた。




