第8話 ユキトの恋事情
シュート「その反応…やっぱりそうだったんですね。すみません、実はなんとなくそうなんじゃないかなと思ってました。ね、ライキ。」
俺はライキの方を見ると、ライキはゆっくり頷いた。まさか、2人にバレているとは思わなかった。確かに一緒にいる機会は増えたけど、それでもバレないように隠し続けてこれてたと思っていたのに。
最初は、ただ気になる程度だったんだ。俺が見たことのなかった人族に加え、宝石魔法が扱えるアストが。だけど、一緒に過ごすなかで、ちょっとずつアストの見方が変わっていった。
入学式の朝、俺がつい我慢できなくてアストと一緒に寝てしまったあの時、アストは兄貴によく似ていることを話した。俺にとって兄貴はとても尊敬できる人だ。誰にも優しくて、魔法、剣術、体術、どれをとっても一流で、みんなからも頼りにされている存在だった。俺はそんな兄貴が大好きで、心の拠り所でもあった。
アストも同じだ。優しくて、魔法が特に優れていて、それでもって賢いところもあり、頼りになる。可愛い顔をしているのに、時には勇気も出せるかっこいいところもある。きっと俺は、兄貴みたいな人が好きだったから、兄貴に似ているアストは俺にとってのタイプだった。
そして、時が経つにつれて、アストの事が友達としての好きではなく、恋愛的に好きに変わっていくようになった。それが分かったのは、入学式が終わって1、2ヶ月頃。ホントに普通の日常生活の中だが、アストと2人で話していた時だった。その日は、授業で簡単な小テストが行われた日で、勉強が苦手な俺はアストに勉強を教えてもらった。
すると、まさかの小テストで満点を取ることができた。俺は嬉しくてアストにすぐ報告した。すると、アストは今までにないほどの笑顔で、俺のことを褒めてくれた。その表情は今でも覚えていて、こんな笑顔をしてくれるんだと思ったし、見た瞬間心臓の鼓動が早くなっているのも感じた。
その時、俺は気づいたんだ。俺は…アストのことが好きなんだって。
ユキト「2人とも…いつ気づいたんだ…?」
ライキ「かなり前からそうなんじゃないかとは思ってたな。」
シュート「結構日々の仕草でそうなんじゃないかなって思うところはあったんですよ。まず、ユキトさんってよく目線がアストさんの方に行ってると思ったんです。訓練中も、授業中も、チラチラとアストさんの方を見たりしているから、その辺りから好きなのかなって思いました。」
俺は今までの生活を思い返してみる。確かに、言われた通り俺はよくアストの方を見ている気がする。そこまでの細かいところまでは意識していなかったから気付かなかった。
ライキ「後は…俺たちや他のやつと話すときに比べて、アストと話している時だけ、幸せそうに喋っていたように感じたことだな。」
ユキト「は!?そ、そんな違い分かるのか!?」
シュート「確証はなかったですけどね。ユキトさんがクラスメートと話している時、確かに楽しそうにしてますけど、アストさんと喋る時は楽しそう…というか幸せそう…?に感じたんです。」
ライキ「表情が違うというか…何というか…説明するとなると難しいな。」
そんな違いで見抜けるなんて、2人はよっぽと俺のことを見てくれていたのだろう。だけど、一緒にいるから気づけたのであって、他のクラスメートとかには気付かれてないはずだ。
ユキト「あ、あのさ…これ…アストには…」
シュート「絶対に言いませんよ。だからアストさんがいないこのタイミングで聞いたんです。」
ユキト「そうか…悪い…ありがとな。」
ユキト(…まて、もしかしたら…この2人が気づいているなら、アストも気づいている可能性があるんじゃ…!?)
急に心臓の鼓動が早くなる。アストは2人よりも一緒にいる時間が長い。それに頭も良いし、気づいている可能性はかなり高い。
ユキト「アストって…これ気づいてないよな…!?」
シュート「お、落ち着いてください…!アストさんは俺たちと違って、ユキトさんが見ていたこととか気づいていないので、多分大丈夫です。」
その言葉に俺は少しホッとした。
ライキ「悪い…まさかそんなに動揺するとは思わなかった。」
ユキト「だって…まさかバレてるなんて思わなかったんだ。俺の中では、バレないようにずっと隠し続けようと思ってたからさ。」
シュート「多分、俺たちだから気づけたというのもあるかもですね。ユキトさんは…いつか気持ちを打ち明けたりはするんですか?」
俺はシュートの言葉に首を振った。
ユキト「いや…ずっと隠し続けようと思ってる。」
ライキ「は…!?それ…本気で言ってるのか?」
ユキト「だって…怖いんだ…俺はアストが好きだ。でも、この気持ちを伝えて告白したら…あいつとの関係が壊れちゃう気がするんだ。それに…普通は…異性同士なのが当たり前…だろ…。」
俺は、アストの側にいるだけで幸せなんだ。それ以上を高望みして、関係を壊したくない。
それに、スノードル国にいた時、昔から周りの友達はみんな女の子が好きで、俺だけ男の子が好きだって分かると、気持ち悪いとか普通じゃないって笑われたことがある。だから、アストにそんなことを思われたくないし、嫌われたくない。だから、アストと一緒に寝てしまった時は本当に焦った。アストは気にしてないと言ってくれたけど、変に思われないかすごく心配になった。
アストとはずっと友達でいたいし、仲間であり続けたい。男の俺が告白しても、アストが困るだけだ。
ユキト(そうだ…それで…良いんだ…。こんなことで…関係が壊れるよりは…ずっといい…)
そう考えていると、何故か涙が出てきた。自分でも分からない。何で俺は泣いているんだ。怖くて泣いてるのか?自分が情けなくて泣いてるのか?
いや、本当は分かってる。俺が泣いている理由は…
ライキ「ユキト、お前は辛くて泣いてるのに、本当にそのままにしておくのか?」
ライキに言われてビクッとした。そう、俺は辛くて泣いているんだ。
俺は男が好きという、みんなと違う感性にコンプレックスを抱いていた。ずっとそれを否定されてきていて、俺は普通じゃないと思わされるようになった。だけど、本当はそれを誰かに認めて欲しかった。そんな人がいるんだって分かって欲しかった。でも、否定されるのが怖くて、ずっと隠し続けるようになった。
だから、こうやって泣いているのは、もう限界だったのかもしれない。想像以上に、俺の心は疲れていたみたいだ。
ユキト「俺は…男…だから…変だし…気持ち悪いだろ…。」
ライキ「何で男同士なら気持ち悪いんだよ。」
ユキト「えっ…だって…異性じゃないし…」
珍しく、ライキが怖い顔をしていた。何か、彼なりに思うところがあったのかもしれない。
ライキ「俺はそういう考えは嫌いだな。だって、結局人を好きなことには変わりないじゃないか。それが異性であれ同性であれ、誰かを好きになるのは生きている者としての普通だ。それを気持ち悪いとか言ったら、そいつの普通を否定することになる。そんなの、差別と変わらないだろ。」
俺はライキから視線を外せなかった。真剣な眼差しで、俺に語りかけてくる彼に、黙って話を聞いていた。
ライキ「少なくとも、俺は同性好きでも良いと思ってる。シュートも同じだろ?」
シュート「もちろん、だって誰かを好きになるのは、その人の自由だもん。」
俺は言葉が出なかった。
嬉しかった。
初めて誰かが俺のことを認めてくれた。ずっと今まで、男が好きだった自分のことを普通じゃないと考えるようになっていた。だから、自分自身を否定し続けてしまっていた。だけど、そんな自分でも良いと言われて、涙が止まらなかった。
ユキト「あっ……うっ…」
泣いている俺を、ライキは優しく背中をさすってくる。
ライキ「もっと自分のことを大切にしろよ。それがユキトの普通なんだ。もしそれを否定する奴が現れたら、友達としてそいつをぶん殴ってやる。だからさ…これからアストとは長い付き合いになるんだ。思いは…ちゃんと伝えるべきだと思う。すぐには無理だと思うけどな…。」
シュート「それに、伝えなかったらアストさんも気にするかもしれないですよ。これから旅をする仲間なんですから、きっといずれはアストさんも気づくと思います。その時に嘘をついてしまったら、それこそ関係が壊れるかもしれないです。」
シュートはそう言って、俺を見ながら優しく微笑んだ。シュートなりに、俺のことを励ましてくれたのだろう。
アストは俺にとってとても大切な人だ。もちろん関係なんて壊したくない。でも、これから先ずっと旅をする仲間だ。
もしかしたら、このモヤモヤした気持ちのせいで迷惑をかけたりするかも知れないし、アストに心配をかけてしまうかも知れない。
まだ今は心の整理ができていないから話すことはできないけど、いつかちゃんとこの気持ちを伝えなければならない。友達と思っているからこそ、隠さず素直に言うべきなんだ。
ユキト「ありがとな2人とも、少し楽になった気がする。」
ライキ「そうか、なら良かった。」
シュート「また何かあったら相談してください。俺たちはずっと応援してますから。」
この2人が仲間で本当に良かったと思う。隠し続けていたことを打ち明けたおかげで、今まで背負っていた肩の荷が一気に降りたのを感じた。
話している間に尻尾も乾き、俺たちはアストの元に向かった。
アスト「すぅ…すぅ…」
シュート「あちゃ〜…アストさん寝ちゃってますね。」
アストは岩に背を預けて眠っていた。どうやら、乾かしている間に寝落ちしてしまったようだ。
ユキト「でも服は乾かしてくれてるみたいだな。」
俺たちはひとまずアストが乾かした服を着た。
ライキ「疲れが溜まってたのかもな。全く、今から村長のところに行って報酬をもらってから帰るつもりだったのに。」
ユキト「はは…仕方ないな…っと。」
俺は眠ったアストを背中に乗せた。耳の近くから彼の寝息が聞こえてくる。もし、俺がこの気持ちを伝えたら、アストはどう思うだろう。
不安はあるし、否定されることを考えてしまうと恐怖もある。だけど、それでも…やっぱりアストに嘘はつきたくない。
ユキト(だから…いつか…ちゃんと伝えないとな。)
俺は歩き出した。少し体重が増えたのか、いつもよりアストが重く感じる。だけど、俺にはこの重さが、これから今の俺の思いを背負っていく重さにも感じた。




