第3話 もう一つの試験
僕たち4人は、それぞれ全力の技を披露した。静まり返った会場の空気の中で、ファリルさんは一歩前へ出ると、はっきりとした声で言った。
ファリル「君たち4人とも素晴らしかったよ。第一試験は合格だ!」
アスト「ご、合格…!!」
ユキト「よっしゃあ!!」
ファリル「魔力の制御、魔法の精度、剣技の完成度、どれをとっても文句のつけようがなかった。君たちが本当に子どもなのかと疑うレベルだったよ。さすがは、女王様が推薦した生徒さんだね。」
学園長「もちろんです。私の自慢の生徒ですから。」
後方から静かに声がして振り返ると、いつの間にか学園長が立っていた。優しく微笑むその姿に、僕は驚きながらもどこかホッとした。
アスト(び、びっくりした…い、いつの間に来てたんだろう…?)
ライキが一歩前に出て尋ねる。
ライキ「試験はこれで終わりじゃないんですよね?」
ファリルさんはにっこりと笑って頷く。
ファリル「その通り。ギルドはただ強いだけじゃだめだ。君たちはいずれ自分たちよりも遥かに強い相手と戦うことになることもたくさんあると思う。もし…そんな状況になってしまった時の…対応をどうするのかを見させてもらうよ。」
そう言うと、ファリルさんはユキトのもつ剣より大きい大剣を持った。
アスト「ま、まさか…。」
ファリル「うん。次の審査は実践審査だ。今から僕と実践形式で戦ってもらう。」
言いながら、ファリルさんは地面に大きな円を描いた。
ファリル「この円から僕を追い出せたら審査は合格だよ。」
ライキ「あの…それって俺たちがでたら不合格…ってことですか?」
ファリル「そうだね。君たちの誰かが円を出るか、または4人とも戦闘不能になってら不合格だね。ちなみに僕は冒険者ランクはB。まぁ、簡単には負けないつもりだよ?」
シュート「ら、ランクB!?それって…かなり強いですよね…?」
ランクBということは僕とユキトが戦ったあの黒いオークよりも強いということだ。ファリルさんにとっては1段階下である黒いオークは苦戦もせずに倒せるだろう。今の僕たちでは力の差があるのは明らかだ。
アスト「か、勝てるのかな……」
思わず口からこぼれた弱気な言葉。その瞬間、静かに歩み寄ってきた学園長が、そっと僕の肩に手を置いた。
学園長「アストくん、あなたは1人ではありません。ここにいる仲間たちと、これまで共に努力してきたでしょう?」
僕は驚いて顔を上げる。学園長はやさしく微笑みながらも、真っ直ぐに僕を見つめていた。
学園長「あなたが今感じているその不安や迷いはきっとこの先もたくさん感じることがあるでしょう。でも、それ以上に、あなたには仲間を信じる心と、前に進む力がある。」
僕は無意識に、隣にいるユキトや、少し前を見据えているライキ、静かに構えているシュートの顔を見た。
学園長「仲間となら、どんな強敵にも立ち向かえます。自分を信じて。仲間を信じて。さあ、堂々と胸を張って行ってらっしゃい。」
その言葉はまるで魔法のように、僕の胸の中の霧を晴らしてくれた。3人も僕の顔を見て頷く。
アスト「…はい!」
一歩を踏み出し円の中に入る。僕たちの最後の審査が始まろうとしていた。
「あのファリルさんと戦うのか…?」
「いやー…さすがに厳しいだろ…。」
「なんせ、ファリルさんはこの国でも屈指の実力者って噂だし……。」
学園長「……。」
ファリル「それじゃあ準備がでてきたら…かかっておいで。」
彼は肩に大剣を担ぎながら、ゆったりと構える。その瞬間、威圧感はまるでないのに、空気が重くなったような気がした。
アスト(すごい圧を感じる…今まで圧なんて感じてこなかったから…足がすくんでしまいそう…。)
ユキト「よし…いくぜ…!」
ライキ「あぁ…!」
剣を構えたユキトとライキは2人で同時にファリルさんに攻めて行った。ユキトは右、ライキは左から同時に剣を振り下ろす。
ファリル「おっと…!」
しかし、ファリルさんは少し下がると、大剣を水平にして2人の攻撃を同時に受け止めた。
アスト(すごい…あの2人の剣を同時に…)
シュート「炎魔法 ブラストフレイムエッジ!」
すでに背後に回り込んでいたシュートが、狙いすました炎の刃を放つ。
ファリル「…おらぁ!」
ユキト「うわっ!?」
ライキ「なっ!?」
アスト(2人を弾き飛ばした…!?)
ファリルさんは剣を思いっきり剣を振り、攻撃をしていた2人を弾き飛ばしてしまった。
ファリル「はあっ!」
ドゴォンッ!
シュート「ま、魔法を斬った…!?」
ファリルさんの剣が、シュートの放った炎の刃を真っ向から切り裂き、軌道をそらす。
アスト(強い…!)
ファリル「さて…これでおわりかい?」
ユキト「っ…まだまだこれからだ!」
そう言ってユキトは立ち上がった。ライキも再度剣を構えて、シュートも魔力を貯め始めている。僕も心を決めた。気づけば僕はみんなに向かって声を張り上げていた。
アスト「みんなで連携をとろう!ユキトとライキは相手を引きつけて!シュートは2人の援護をして!最後は…僕が決める!」
僕がいきなり大声をだしたため、3人はびっくりした様子で僕を見た。
ユキト「…だな!各々で突っ込んで勝てる相手じゃない。やってやろうぜ!」
ライキ「はは…アストのやつ、相手に作戦丸聞こえじゃないか。」
ライキは苦笑していたが、剣を強く握りしめた。
シュート「…ですね!俺たちならできます!」
3人の目はやる気に満ち溢れていた。
ユキト「よっしゃ!行くぞライキ!」
ライキ「あぁ!」
2人はさっきと同じで同時に突っ込んでいった。
ファリル「連携か…でも君たち2人が来てもさっきと同じになるだけだよ!」
ファリルさんはそう言って攻めてきた2人を、また剣で受け止めた。確かにこのままだとさっきの二の舞になりそうだ。そうならないように僕は急いで次の手を打つことにした。
アスト「宝石魔法 デトネーション・ラッシュ!」
ダイヤモンドを生成して飛ばす。しかし、狙いはファリルさんではない。僕が放ったダイヤモンドは地面で爆発し、ダイヤモンドの綺麗な水色の煙が3人を包んで何も見えなくなってしまった。
ファリル「っ!これは…煙幕か…!」
そう、僕はわざと地面に向けて放ち、ファイルさんの目眩しをした。その隙にユキトとライキはファリルさんから離れ、煙の中から出てきた。これで少しは時間をかせぐことができる。煙から不用意に出てくれば、魔法が得意な僕かシュートに狙われる可能性がある。しかし、煙から出てこないと僕たちが何をしているか分からない。逆に僕たちもファリルさんの位置が分からなくなるし、何か魔法を使われる可能性があるためリスキーではあった。
アスト(魔力は十分溜めてる…出てきても大丈夫…!)
ファリル「風魔法 ウィンドストーム!」
ユキト「うわっ!強風が…!」
ライキ「ぐっ…!」
突如、煙の中から強い風が吹いてきた。あまりの強さに踏ん張らないと身体ごと飛ばされそうになった。しかし、おかげで目眩しの煙が全て飛ばされてしまった。
ファリル「煙幕とは…考えたね。でも、残念だったね。僕は風魔法が得意なんだ。相手が悪かったね。」
アスト(まさか風魔法が使えるなんて…予想外だったけど…でも…!)
ファリル「さてと、そろそろ僕からも攻めさせてもらおうかな。」
そう言うとファリルさんは僕に向かって真っ直ぐ向かってくる。
戦闘において、魔法が得意な人を先に倒すのは当たり前のことだ。
ユキト「しまった…!」
ユキトとライキは僕から少し離れたところにいたので、今から走っても間に合わない。ファリルさんはこのまま僕を円から出すつもりだろうから、一旦逃げるしかない。
アスト「宝石魔法 デトネーション・ラッシュ!」
僕はファリルさんの足元に向かって魔法を打った。これで、足に爆撃でダメージを与えられたら逃げることができると考えていたからだ。
ファリル「あまい!」
しかし、そう上手くはいかなかった。ファリルさんは思いっきり跳躍して、放った魔法を避けてしまった。
アスト(よ、避けた!?)
そのままファリルさんは僕の近くに着地した。そして、拳を大きく引いて殴る体制に入った。このまま殴って僕を円から出すつもりなのだろう。僕は反射神経は全くないので、逃げることはできない。かと言って、このまま攻撃を受けたら僕は円から出てしまう。かなりまずい状況…だが、僕の中でここまでは、想定内だった。
シュート「炎魔法 バーストフレイム!」
ファリル「っ!?」
突然僕とファリルさんの間に大きな火柱が出てきた。それに驚いたファリルさんは後ろに跳んで炎を避けた。
ファリル「火柱…一体どうやって…!」
ユキト「まだまだ!」
ライキ「食らえっ!」
ファリル「くっ…!」
隙ができたファリルさんを正面からユキトが突っ込み、さらに挟み撃ちにするようにライキが回り込んでいた。2人が同時に剣を薙ぎ払う。無理に炎を避けたせいか、バランスを崩していたファリルさんは再び大きく跳躍した。よく見ると、足元には風のようなものがまっている。おそらく、風の魔法で跳躍力をあげていたのだろう。
アスト(デトネーション・ラッシュもあれで避けたのか…でもこれで…僕たちの勝ちだ!)
そう、僕はこの時を待ってた。地面で踏ん張ることができない空中に行くことを。
アスト「宝石魔法 アクア・フロー!」
ファリル「な…水…!?」
サファイアで巨大な水流を出して、空中にいるファリルさんに向かって放った。僕の水流はあの巨大なオークでさえも耐えることができない大きさだ。
バッシャァァン!
ファリルさんは空中で水流を直に受け、そのまま壁際まで吹き飛ばされていった。
アスト「や、やった…!」
予想外の結果に、観客から大きな歓声があがった。僕の顔が少し熱くなる。多分、戦いの熱気だけじゃない。
ユキト「よっしゃああー!やったなアスト!」
3人が駆け寄ってきて僕の肩や背中を叩く。胸の鼓動がまだ早い。勝てた実感が、ようやく体中に広がってきた。ファリルさんは壁際で立ち上がり、苦笑しながらこちらに歩み寄る。
ファリル「やるじゃないか。あの状況で連携を組んで、しかも僕を押し切るとは…見事だったよ。」
ファリルさんの言葉に僕は少し照れ臭くなった。こうして、僕たちの試験は無事合格で幕を閉じた。




