第2話 出会いと旅立ち
アスト「荷物は問題なし…と。」
僕は朝早くから姉さんと一緒に荷物の確認をしていた。昨日の夜は緊張してあまり眠れなかった。今日はついに僕が城を発つ日。そのせいか、城の中では朝からみんながバタバタしていた。
アスト「何か…みんな大忙しだね。」
ルリナ「みんなが今日という日を待ち望んでいたからね。大切な家族が旅立つ人なのだもの。みんな盛大にお見送りしたいのよ。」
アスト「そんな大袈裟にやらなくても…みんなが見送ってくれるだけで十分なのに。」
ルリナ「まぁまぁ良いじゃない。ほら、ある程度終わったら朝食を食べに行きましょう。」
1度確認を中断し、姉さんと一緒に食堂へと向かう。既に朝食の準備はできていて、入った瞬間メイドさんたちや執事さんからから応援の言葉や今の思いを語られた。きっと今言っておかないと、後から言えないと分かっていたのだろう。軽く話した後、席についた時に、妙に料理に手が凝っていることに気づいた。
アスト「あれ?何か…朝からかなり豪華な気が……。」
シェリア「それは、今日から旅立たれるアスト様のために作ったものになります。」
アスト「そうなの?昨日の夜もそう言って料理を豪華にしてたのに…。」
シェリア「だって…しばらくの間アスト様と一緒に食事されることがなくなると考えると…私たちはとても寂しくて…。」
アスト「はは…大げさなんだから…。」
そう話すシェリアさんの周りでも、メイドさんやシェフの皆さんも寂しそうな顔をしていて、中には涙を流している人もいる。
ルリナ「それだけみんなはあなたのことが大切なのよ。」
アスト「うん、でも僕は…みんなと違って…いてっ…。」
ルリナ「こーら、また悪い癖がでてるわよ。自信をつける旅でもあるのに最初から弱気になってたらダメじゃない。確かにあなたは竜人ではないけれど、この私たちが育ててきたのだから十分に強くなれたわ。だからちゃんと自信を持って胸を張らないと!」
アスト(そうだ…最初から弱気になってたらダメだ…!1人でも大丈夫だと証明するって決めたんだから!)
ルリナ「ほら、さっさと食べなさい早くしないと船がでてしまうわ。」
姉さんに言われ、僕は急いで朝食を食べた。ホントはゆっくり食べたかった気持ちもあったけど、時間には限りがある。リュミナール大陸に向かうには船で向かわないと行けない。しかも、向かう便が少ないため、今日を逃したら大変なことになる。
アスト「姉さん、荷物をまとめてくるよ。」
エルナ「分かったわ、じゃあ準備ができたなら、エントランスに来なさい。」
僕は自室に戻って荷物を手に取る。そして最後に部屋を出る前に、自分の部屋を見渡す。また帰ってくる時はあるだろうが、それでもかなり長い間はこの部屋は使わないと思う。12年もこの部屋にはお世話になっているし、昨日はしっかり綺麗に掃除をしておいた。僕はしっかり部屋を見納め、エントランスに荷物を持って向かった。
アスト「あっ…!」
エントランスには、メイドさんやシェリアさん、姉さんもいたが、その中心には僕を一番待っていたであろう人がいた。
エルナ「やっときたわね。」
アスト「おかあ…うぐっ!?」
エルナ「うぅ…本当に行っちゃうのね…。」
アストお、おかあさっ…!?く、首しまって…。」
ルリナ「お、お母様!?お、落ち着いてください!!」
シェリア「あらあら…。」
お母さんに近づいた瞬間僕はものすごい力で抱かれた。多分、お母さんにとっては軽く抱いている感じなのだろうが、人属である僕には体全体を潰されそうな感じだ。
エルナ「あっ!?私としたことが…取り乱してごめんねアスト。」
アスト「ダ,ダイジョウブデス…。」
なんとか平気そうな顔をするが、正直結構痛かったし苦しかった。
エルナ「そんなことより、忘れ物はない?道は分かる?1人でも買い物できる?やっぱり誰かしらメイドをつけていたほうが…。」
アスト「そ、そんなに心配しなくて大丈夫だって!1人でもできるよ!そういう話だったでしょ?」
実は、本来お母さんは1人で暮らしをさせる予定にはしていなかったようだった。僕が学園に行けば、寮の一室を借りて1人で暮らすことになるのだが、まだ虚弱体質が治っていない僕の世話をするために、1人メイドを誰かつける予定だったのだ。しかし、それを聞いた僕は、決心して1人で暮らしてみたいとお母さんにお願いした。もちろん最初はとても大変だった。お母さんがすごい心配性をだし、宥めるのにかなり時間がかかった。だけど、僕は1人でもやっていけるために、虚弱体質にも負けないように体力をつけたりと、この1年頑張ってきたのだ。だから一生懸命にお願いをして、お母さんには悪いが折れてもらった。だけど、定期的に手紙などを送ったりすると約束をしておいた。
エルナ「うぅ…心配だわ…たまには顔を見せにきてね?」
アスト「わ、分かってるよ。ちゃんとみんなに顔を見せにくるから。だから安心してよ。」
僕はそう言って手を握る。お母さんはその手を優しく握り返してくれた。
エルナ「前も感じたけれど、ホントに成長って早いわね…。あんなに小さかった手も、こんなに立派になって…。うぅ…やっぱり歳だわ…。」
アスト「お母さん…。竜人ならそのセリフを言うのはまだ早いよ。」
そんな会話をしていると、周りがクスッと笑いだした。きっとこんな会話もしばらくはできなくなるだろう。でも、永遠にできないという訳ではない。今度は、いろんな話のネタを持ってきて、また3人でお茶をしたい。
アスト「じゃあ…お母さん、姉さん、みんな、そろそろ行ってくるね。」
エルナ「えぇ…気をつけて!」
ルリナ「いつでも帰ってくるのを待ってるからね!」
後ろから、たくさんの見送ってくれる声が聞こえる。みんなが背中から応援をしてきてくれたから、僕は今日まで頑張ってこられたんだ。こんなにもみんなが応援してくれているのだから、これから先もきっと大丈夫。
アスト「行ってきます!」
僕は目の前の大きな扉を開けた。僕の新しい物語が始まる。一体これからどういう話になっていくのか、とても楽しみだ。
——————
国から出発した僕は、ネイチャリー国のあるリュミナール大陸に向かうため、船に乗った。僕の国は小さな孤島にあり、リュミナール大陸に行くには数日かかる。
アスト「うわぁ…すごくきれいだな。」
初めて乗った船の甲板で、僕はどこまでも続く青い海に見とれていた。星の輝きとは違い、どこか勇気をもらえるような輝きを放っている。
アスト「うっ、日射しがきつくなってきた…。そろそろ中に入ろう…。」
長時間日射しにあたることはなかなかないので、すぐに頭がくらくらしてしまう。結局、虚弱体質は治っていないので、これからの課題でもあるだろう。リュミナール大陸に着くまでは数日かかるので、僕は船の部屋の窓から景色を楽しんだ。
アスト「はぁ…やっと着いた。」
僕は船から降りて大きく背伸びをした。港からは、歩いてネイチャリー国を目指す。そこそこ距離はあるが、今なら夕暮れくらいには着きそうだ。
船員「僕、どこに行く予定なの?」
その時、船員の犬族の女性が話しかけてきた。
アスト「あ、えっと、ネイチャリー国に行こうと思ってます。」
船員「あぁ…そうなのね。さっき聞いた話なんだけど、この辺りで見たことのない狂暴なモンスターが出現したらしいの。見た目はオークに似ているらしいけど、真っ黒い姿をしているらしいわ。」
アスト「オーク…?オークくらいなら、多分大丈夫だと思いますけど…。」
この1年で、僕はいろんな魔法を習得できた。宝石魔法のバリュエーションも増やすだけでなく、宝石魔法以外の魔法も扱えるようになったのだ。だから、少なからず魔法にはかなりの自信を持っていた。
船員「それがね…そのオークに討伐に行ったギルドが返り討ちにあったらしいわ。かなり有名なギルドだったのだけど…。」
アスト「えっ…?」
船員「だからネイチャリー国に行くなら気を付けてね。まぁ、ネイチャリー国なら草原を歩くだけだし、モンスターとはあまり出会わないとは思うけど…。」
アスト(黒いオーク…か。)
僕は姉さんたちのおかげで魔法なら、戦えるとは思うが、船員の話を聞いて、少し不安になってしまった。僕は魔法は得意だが、その分筋力とか体力はないので、あまり戦闘はしたくないところだ。船員のお姉さんにお礼を言い、僕はゆっくりネイチャリー国に向けて歩き出した。何時間かたった頃、やっと大きな城が見えてきた。
アスト「はぁ…やっと見えた。あれがネイチャリー国…。」
ネイチャリー国はリュミナール大陸の中で一番大きな国だ。本で読んだがリュミナール大陸はいろんな獣人が住んでおり、種類の多さは国の中でも一番なんだとか。しかし、本によると人族は暮らしてはいないらしい。僕以外にも人族に会っては見たかったがしょうがない。それは別の国に行った時のお楽しみだ。そして、ネイチャリー国と言えば、世界中でも有名なのがエンデル学園である。お母さんが調べた通り、学園では様々なことが学べ、実力もつけることができる。そのため、卒業できたら強くなれると同時にたくさんの知識をつけれるため、すごい人気があるらしい。現にエンデル学園から卒業した生徒は、有名なギルドを作っていたり、新しい魔道具を開発していたり、中には大魔道士になった人もいたそうだ。だから、色んな国からたくさんの学園に通いたい生徒が集まる。エンデル学園は基本的に10歳から15歳までなら入学することができ、今の僕は12歳だったので、ちょうど入学することができた。
アスト(はぁ…疲れた…早く宿に行って休みたい…。)
虚弱体質で日差しも長くは浴びれないし、激しく動くこともできない。しかし、かなり苦労したけどこれでも少しは動けるようになった方なのだ。と言っても、港からネイチャリー国まで歩くと30分ほどかかるが、僕の場合休憩しながら歩いているため2、3時間程かかってしまう。
アスト(虚弱体質はなかなか治らないけど…、ちょっとずつでもいいから頑張らないと…。)
1、2時間程進み、少しずつ国が近づいてきた。
アスト(ふぅ…あと…もう少し…!)
近くの木陰で座っていた僕は、息を整えて立ち上がった。以外にも予定より早く進めていたので、僕は最後の頑張りだと気合を入れ直した。
アスト(あれ?)
不意に嫌な予感がした。周りの空気が変わったと言うか、何故かは分からないが、急に嫌な雰囲気がしだした。辺りを見渡していると、小鳥たちが何かに逃げるように鳴きながらどこかへ飛んでいくのが見えた。
ゾワッ……
アスト(!?)
その瞬間、全身が震えるほどの不気味な気配を感じた。すぐにあたりを見渡すが、周りには草原や川があるだけで、特に何も異常はなかった。
アスト「き、気のせい?」
「きゃぁぁぁー!!」
アスト「!?」
その時、近くの森から女性の悲鳴が聞こえてきた。
アスト(な、何?)
僕は声の方へと急いで走った。嫌な予感が的中しないことを祈りながら。
アスト「ぜぇ…はぁ…確か…こっちの方だった気が…」
息を整えてあたりを見渡す。すると近くから、ドゴーンと大きな音が聞こえてきた。
アスト「すごい音…あっちの方か…!」
タッタッタッ…
音の方に行くと、そこには見たこともない黒くて大きなオークが馬車の前に立ちはだかっていた。
アスト(なっ…、で、でかぁ!?)
その大きさに僕はびっくりした。腕や足はとても太く、なんといっても高さが周りの木と同じくらいの背丈がある。おそらく僕の感じた気配の正体はこいつだろう。本来のオークは緑っぽい感じで、背丈も大人の身長くらいなものでそこまで大きくはない。馬車を見ると声をあげたと思われる猫族の女性と、怯えている猫族の男性が見えた。他にも馬車には何人か乗っているようで、人影がまだ見えた。
アスト(ど、どうしよう…このままだとあの人たちが……!)
すると馬車にいた人が僕に気づいたらしく、声を張り上げた。
「き、君!早く逃げるんだ!こいつは…うわぁぁー!!」
僕はその声を無視して深呼吸をする。
アスト(怖い…けど…でも…あの人たちを助けなきゃ…!でもどうしよう…!?)
そうこう考えているうちに、黒いオークは大きな棍棒を振り上げ、今にも攻撃を仕掛けようとしていた。
アスト「こ、こうなったら…水魔法で…いけっ!」
僕は咄嗟に水を魔法で作りだし、オークに向けて放つ。顔面に水がかかり、オークはこちらの方を向いた。
アスト(うっ…すごい迫力…)
あまりのデカさに僕は腰が抜けそうになる。だけど、まだ何とか足は動きそうだ。
「フーッ…フーッ…。」
オークはどうやらターゲットを僕に切り替えたようだ。勝てるかどうかは分からないが、せめてあの馬車が逃げれるまでの時間はかせぐ。僕は森の奥に向かって走り出した。ここで魔法を打っても、馬車の人達が巻き添えをくらってしまう可能性がある。
アスト(はぁ…!はぁ…!)
後ろを振り向くと、すごい勢いでオークが迫っていた。
アスト「きた…!」
あきらかにオークの方が走るのが早い。このまま逃げてもすぐに追いつかれるのは目に見えていた。僕は勇気をだして、体をオークの方に向けた。覚悟を決め、魔法を再度唱えた。
アスト「詠唱…雷魔法 サンダーショット!」
雷を使ってオークの動きを止めようと試みる。少しでも効いてくれたら、麻痺で動けなくなるはずだ。
アスト(これで…!)
「ブォォォォ!!」
アスト「なっ!?」
しかし、オークにはまるできいていない様子で、そのまま僕に突進してきた。
アスト「うぐっ…」
とっさに横に避けたが、完全にかわすことができず、バランスを崩してしりもちをついてしまった。
アスト(し、しまった…!)
急いでオークの方を見ると、持っていたこん棒を振り下ろそうとしていた。
アスト(まずい…!?な、なんとかしないと…!)
??「あぶねぇ!」
急いで魔法を唱えようとしたその時、誰かが僕の体を抱き上げた。
アスト(え…?)
バサバサッ!
翼が羽ばたく音と共に、僕の体はどんどん空の上へと上がっていく。姉さんと一緒に空を飛んでいる時を思い出したが、ここには姉さんはいないはずだ。
アスト「うわぁー!?な、なんで空に!?」
僕はいきなりの出来事でつい目を瞑ってしまう。あまり高い場所には慣れていないので、どうしてもビビってしまう。
??「ふぅ~…なんとか間に合ったな…。」
その時、男性のような声が聞こえた。僕はゆっくりと目を開ける。
??「大丈夫か?」
アスト「え…?は、はい…。」
??「良かった、馬車でお前をみた時に追いかけてきて正解だったな。」
どうやら彼はあの馬車にのっていた人のようだ。助けてくれた彼は、オークからちょっと離れたところに僕をおろした。
アスト「あ…えっと…ありがとうございます。」
??「お礼なんていいぜ。とりあえず今はあいつを何とかしないとな。」
助けてくれた彼は、僕と同じくらいの年の子で、水色の髪で龍の翼、そして狼のような尻尾と耳がついていた。
アスト(えっ…お、狼の獣人…?でも…背中に生えてるのはどう見ても龍の翼…だよね…?)
??「俺はユキト。アマサワ・ユキトだ。お前は?」
アスト「ぼ、僕はアスト。アスト・スターライです。」
ユキト「アスト、こいつは俺が足止めしておくから、お前は逃げてくれ。」
アスト「えっ…に、逃げるって…君はどうするの?」
ユキト「俺は大丈夫だ!翼があるから逃げようと思えばいつでも逃げれる。」
アスト「で、でも君1人じゃ危険すぎるよ!」
ユキト「分かってるって。でもこんな危険なやつはギルド協会が黙って見過ごすわけないからさ。こんなに暴れてるんだから、そろそろ討伐依頼でギルドが来てくれるはずだ。それまでに時間を稼がないといけないんだ。」
アスト「で、でも…。」
ユキト「大丈夫だって!ほら、早く行け!」
急に現れた彼に、僕は戸惑っていた。彼のセリフから、まるでこのような事態に慣れているかのような口ぶりに聴こえた。だから、彼なら何とかしてくれるのではないかと思ってしまった。
アスト(僕じゃ敵わないけど…彼ならなんとかなるのかな…だったら僕は邪魔にならないように早く逃げた方が…)
「ガァァァ!!」
アスト「っ…」
僕は今にも襲いかかろうとしてくるオークに怖気付いてしまう。
しかし、ここで逃げたら結局前の僕のままの気がした。
アスト(…怖い。でも、もしここで逃げても、ギルドの人たちが間に合わなかったり、こいつがもっと大暴れしたら…もっと大きな被害が…。)
僕は前に立っていた彼の背中を見た。
アスト(それに…きっと彼も無事ではすまない…。でも僕が手助けしても…。)
もしかしたら、僕が助けても彼の邪魔になるかもしれない。目の前にいるオークを見て、どうしても勝てる方法が思いつかないのだ。
「フゥーッ…フゥーッ…」
僕は我慢できず、逃げようとして後ろを振り向く。しかし、その瞬間、後ろに昔の自分が見えた気がした。何もせず、トラウマができて諦めようとしていたあの時の自分。そこで気づいた。このまま逃げてしまえば、あの時の自分と同じになってしまう。
アスト(違う…僕はもうあの時の自分にはならないって決めたんだ…!そうだよ、今まで何のために1年を過ごしてきたんだ…。何のために魔法を身につけようとしていたんだ…!こんなところで逃げるわけにはいかない…。それに…最後まで頑張るってお母さんと約束したんだ!!)
僕は逃げる足を止め、身体をオークの方に向き直した。そして、目の前に立っている彼に話しかける。
アスト「待って…!僕も…一緒に戦う!」
ユキト「えっ?」
アスト「体術とかは苦手だけど、僕には魔法がある!」
ユキト「良いのか?あいつは相当手強いぞ。怖くないのか?」
アスト「正直すごく怖い…。でも、ここでなんとかしないと、きっと大きな被害がでる。だから逃げない。僕も…君と一緒に戦いたい!」
ユキト「そうか。へへっ!カッコいいじゃねぇか!分かった。一緒にこいつを食い止めようぜ!」
アスト「うん!」
すると、彼は背中につけていた鞘から、大きな剣をとりだした。
ユキト「俺が前衛で戦うから、お前は後ろから魔法で攻撃してくれ!」
アスト「わかった!」
「ウォォォ!」
ユキト「そんな雄叫びなんて俺には全く怖くないぞ!」
彼はオークに向かって突っ込んでいった。
アスト(おそらくあのオークには普通の魔法はあまりきかない。なら…練習の成果を見せる時だ!宝石魔法であいつを止めて見せる!)
僕は、手にいつも以上に魔力をこめた。手から魔力が霧状になってでてきて、それが集まりだしていく。すると、みるみるうちに姿が変わり、まるでサファイアのような綺麗な宝石になっていた。
アスト「宝石魔法 アクアフロー!」
青く輝く宝石は、青い光を放ったと思うと、大きな激流へと変化した。
「ガァッ!?」
水の勢いが強すぎるためオークはバランスを崩し、水に流されながら仰向けに倒れる。
ユキト「くらえっ!」
ユキトは剣をオークの胸元に突き刺した。彼はオークを倒すために、心臓を突き刺して確実に殺すつもりのようだ。
「グォォォォ!!!!」
ユキト「ぐっ…!」
しかし、オークの肉は想像以上に分厚く、貫くことができなかった。さらに、よほど痛かったのかオークは暴れだし、その拍子に彼は突き飛ばされ、木におもいっきりぶつかってしまった。
ドガッ!
ユキト「ぐぁっ!?くっ…い、痛ぇ…。」
アスト「だ、大丈夫!?」
すぐにユキトを元へ駆け寄り、状態を見てみる。額からは血が出ていたが、致命傷にはならなかったようだ。
ユキト「これくらい大丈夫だ…!」
アスト「すぐに治すよ…!回復魔法 ケアヒール」
回復魔法は魔法の中でも難しい部類の魔法で、僕自身も1番簡単な回復魔法しか扱えなかった。だけど、彼からでていた血はなんとか止まったようだ。
ユキト「お、おぉすげぇ!アストは回復魔法も使えるんだな!」
アスト「完全に治すことはできなかったけど…。」
ユキト「いや十分だ!ありがとな!」
彼はそういって立ち上がった。
ユキト「さて…どうするか…あれ。」
先ほどふき飛ばされてしまったせいで、彼の剣はオークの胸元に刺さったままになってしまっていた。その剣が痛すぎるのか、オークは今だに暴走し続けている。
ドゴォッ!!!
その時、オークが近くにあった木よりもでかい大岩を殴ったかと思うと、岩に大きなヒビが入り、あっという間に砕けてしまった。
アスト(な、なんて馬鹿力…!?)
大きくなっただけでここまで力がでるものなのだろうか。しかし、暴走のおかげでこちらに気が向いていない。
アスト「効いてはいるんだろうけど…。倒すための決定だにはなってない気がする…。」
あそこまで暴れているのをみると、僕の放った魔法も、ダメージにはなっているのだろうが、致命傷にはなってなさそうだ。しかし、今の僕が使える魔法で倒せないとなるとどうしようもない。一応宝石魔法ではあの火力のある炎の魔法も使えるが、こんな森の中で打つと火事になってしまう。
ユキト「アスト、さっきの魔法をもう一度あいつに打ってくれないか?」
アスト「え?もう一度?」
ユキト「あぁ、俺に作戦がある。」
そう言って彼は耳打ちをしてきた。
アスト「なるほど…確かにそれだったら…!」
ユキト「よし!決まりだ!俺が合図するから、お前はいつでも打てるようにしておいてくれ!」
ユキトは再びオークに向かって走り出した。
ユキト「おらぁっ!」
ドガッ!
「ウォォォォォォ!」
彼は竜人のような力強い蹴りをオークにお見舞いした。そのおかげか、再びオークのターゲットとなる。興奮して突進をかまそうとしたオークだが、彼は空に飛んでかわした。
ユキト「こっちだ!!」
彼は挑発するようにオークに言う。オークはそれにキレたのか、近くにある小さな石を彼に向かって投げつけていく。彼はそれを器用に避けていった。オークはどんどんヤケになっていき、完全に彼に意識を向けていた。
ユキト「今だアスト!」
合図が来た僕は木の影から飛び出した。彼はオークの注意を引いただけでなく、僕の魔法が当たりやすい場所まで誘導してくれていたのだ。そのおかげで、僕はオークの背後をとった状態だった。
アスト「宝石魔法 アクアフロー!!」
僕はもう一度オークに向かって水流を放った。
「ガァァ!?」
完全に油断していたオークはそのまま水流に負け、勢いよく前に倒れた。さらに、その倒れた先は崖になっていて、オークはそのまま下に落ちていった。
アスト「や、やった…何とか落とせた…!」
ユキト「やったな!」
彼は僕のそばに駆け寄り、ハイタッチしようと手をだした。
つい嬉しくなり僕は思いっきり手を叩いた。こんな自分でも大きなモンスターと戦えた事実に、優越感に浸りそうだった。
アスト「そういえばあのオークどうなったのかな?」
そう言って僕は崖の下を覗き込んだ。下を見てみると、動かないオークが遠目に見える。
ユキト「ここから落ちたらひとたまりもないはずだ。生きてたとしてもしばらくは動けないはずだぜ。せっかくだし様子でも見てみるか?」
アスト「うん。でもこんな高い崖…どうやって降りれば…。」
ユキト「おいおい。何言ってんだよ。俺には翼があるんだぜ?ほら、しっかり捕まっとけよ!」
アスト「えっ…う、うわぁ!?」
彼は簡単に僕を持ち上げると、そのまま崖から飛び降りた。
ユキト「よっと!ほら、もう降りたから大丈夫だ。」
そう言って、目を閉じていた僕をゆっくり下ろした。
アスト「あ、ありがとう…。」
ユキト「さて、あのオークを見てみてくれ。」
そう言って指差した先を見ると、ピクリとも動かないオークがいた。オークに刺さっていた剣は、胸元に深く刺さり、心臓を貫いていた。
アスト「た、倒せてる….?」
僕の質問に、彼は動かなくなったオークに近づいた。
ユキト「……おう。息してないみたいだな。ちゃんと絶命してる。」
その言葉を聞いて僕は安心した。
アスト「良かった…ありがとう、ユキト君のおかげで勝てたよ。」
ユキト「何言ってんだよ。アストがしっかり俺の作戦通りにやってくれたから勝てたんだ!」
あの時耳打ちしてくれた作戦はこうだった。大きなオークの体重を利用し、地面に倒れた際に喉に刺さった剣で貫けると考えた彼は、自分がおとりになって近くにある崖まで誘導し、そこから僕が後ろから攻撃してオークを突き落とすという作戦だった。結果的にそれが成功して、何とかオークを倒すことができた。
アスト「それにしても…よくこんな作戦を思いついたね。」
ユキト「まぁな。お前を追いかけるために飛んでたらたまたま崖を見つけたんだよ。」
アスト「もしかして、その時からこの作戦を考えてたの?」
ユキト「あぁ、そうだぜ。ホントは俺が誘導して倒すつもりだったんだけどな。」
アスト(すごい…。僕と歳があまり変わらなさそうなのに…。こんなことを考えつくなんて…。剣の使い方もすごかったし…。うん?)
ユキトの凄さを考えていた時、オークに刺した剣ことを思い出した。彼の剣はオークの胸に刺さったままなのだ。
アスト「そういえばあの剣…。」
ユキト「え?あぁ…そうだった。うーん…さすがにあんなに入り込んだら俺の力じゃとれねぇなぁ…。」
アスト「…。」
ユキト「…。」
僕たちは倒れているオークを見る。助けてくれた彼のために、どうにかして剣を取ってあげたかったのだが、僕たちよりもはるかに大きいオークから、どうやって剣を抜き取れば良いのか全く方法が思いつかない。
アスト「剣を抜くならひっくり返さないといけないけど…あの巨体を、力でひっくり返せる気がしないよ…。」
ユキト「ははは…確かにな…。」
倒すことには成功したが、胸元に突き刺した剣はもう僕たちの力ではとれそうになかった。仕方なく倒したことを馬車の人たちに伝えることにし、その場を後にした。
「えぇ!?あのオークを倒した!?す、すごいな君たちは…。」
アスト「はい、でも彼がいなかったら、多分勝てなかったです。」
「そうか…。そこの君も馬車から飛び出して彼を追いかけて行った時はどうしようかと思ったよ…。でも本当に無事で良かった。それで、君の剣はその時にオークに刺してそのままになっているんだね?」
アスト「そうなんです。どうにかして取ってあげたいんですけど…。」
「わかった。僕はこの馬車を使って人を乗せて目的地まで運ぶ仕事をしているんだけど、たまたま目的地がネイチャリー国なんだ。その時にギルドに行ってこのことを話してくるよ。どちらにせよ、この黒いオークについては報告しておかないといけないからね。」
ユキト「本当か!?助かるよ!!」
「良いんだよこれくらい。それで…君はもしかして、ネイチャリー国に向かおうとしているのかい?もしそうなのであれば今回助けてくれたお礼として運んであげるよ。もちろんお代はいらないよ。」
アスト「良いんですか?ありがとうございます!」
正直、今まで歩いてきたのと、さっきの戦いで疲れてしまっていたので、これ以上は歩けないと思っていた。そのため、このお誘いはありがたかったため、僕は甘えることにした。
「よし!それじゃあ2人とも馬車に乗って!早速出発するよ!」
僕たちは急いで馬車に乗り込んだ。乗ったことを確認すると、馬車はネイチャリー国へと走り出した。これが、僕と彼の初めての出会いだった。




