第1話 夢に向かって
初投稿です。長めの小説になっちゃってるので温かい目でお願いします。
「はぁ…はぁ…くそっ…。」
またこの夢だ。
「う、うぅ……。」
隣で小さな女の子が泣きながら走っている。
「大丈夫だ、俺が…君たちを守ってみせるから。」
2人とも顔や姿はぼやけてよく見えないけど、男の人は卵みたいなのを抱えながら女の子と走っている。何かに追われているようだけど、それもあまりよく見えない。だけど、僕はこの夢を忘れてはいけない気がした。
ルリナ「アスト、起きなさい。」
アスト「フワァ……。」
アスト(また…あの夢か…。)
ここ最近、何度も同じ夢をみる。毎日見ているわけではないけど、誰なのかも分からない人が卵を抱えて、小さな女の子といっしょに迫っている者からずっと逃げている。
アスト(一体何なんだろう…。)
僕はその光景に見覚えはない。男の人も女の子も、面識は多分ないはずだ。いや、ぼやけていたから分からないけど。それでも内容が鮮明に出てくるため、どうしても気になっていた。ひとまず、これ以上考えても仕方がないので、僕は考えるのをやめた。
アスト「おはよ…姉さん。」
僕は、体をゆっくり起こして僕を起こしてくれた女性に話しかける。
ルリナ「おはよう、アスト。朝ごはんもみんなが作ってくれているわ。ほら、早く行くわよ。」
僕はアスト・スターライ。そして、起こしてくれた女性は、僕の姉、ルリナ·スターライ。厳しくする時もあるがいつも僕のことを気にかけてくれる優しい姉さんだ。
「「「「アスト様!ルリナ様!おはようございます!」」」」
僕たちが食堂へ向かうとたくさんの使用人からあいさつをされた。まるでどこかの貴族みたいだと、思うだろうが実際そうだ。
僕はこの住んでいる国、ムースタン国の一番大きな城、ムーンライ城に僕は住んでいる。
シェリア「おはようございます。アスト様、ルリナ様、朝食の準備ができていますのでこちらにどうぞ。」
そう言って一歩前にでたのはメイド長であるシェリアさんだ。シェリアさんは僕が小さいころから付きっきりで、色んなことを教えてくれたもう一人のお母さんのような存在の人だ。生活も勉強も礼儀も、全部シェリアさんが教えてくれた。
アスト「ありがとうございます。シェリアさん。」
ルリナ「いつもありがとう。」
僕たちは席に着く。いつも通り、メイドさん達が忙しなく料理を運んできてくれた。そして、みんなと一緒に食事をする。しかし、僕は食欲があまりなく、少し食べると、ひと足先に席を立った。
ルリナ「あらアスト、もう行くの?」
アスト「うん…部屋に戻ってるよ。」
ルリナ「分かった…。気をつけてね。」
そう言われて、僕は歩き出し部屋に戻ろうとする。そして、廊下を歩いていると、ふと窓に視線がいった。そこには、僕と同じくらいの歳の子供たちが、国の広場で仲良く遊んでいるのが見えた。
アスト(良いな…)
僕はその様子に目を奪われてしまった。僕は小さい頃からずっと城の中で生活していた。それには理由があり、僕は昔から虚弱体質なのだ。何をするにしてもすぐバテてしまうし、体調はすぐに崩すし、体力もない。食事だって食が細いし、すぐお腹いっぱいになるし、胃もたれとかもすぐおきる。だから、今日もあまり食べることができなかった。だけど、これが僕の日常。他のみんなとは違ってこの生活が僕の普段の日常なのだ。もちろん、最初は友達が欲しいと思って、虚弱体質を治そうとしたりしてきた。しかし、虚弱体質を治すには、周りの環境が悪かった。別に周りから止められていた訳でもない。むしろ、姉さんやお母様は、僕の虚弱体質を治すためにいろいろ考えてくれたり、気持ちを尊重してくれていた。じゃあ何が悪かったのか。それは主に種族の問題だった。実は僕はこの国で唯一の人族なのだ。ムースタン国は、星の魔法を司る星竜という種族が住んでいる国で、僕は小さい頃に、森に捨てられていたところを姉さんが見つけ、そのまま国で育ててくれた。だから僕たちは血がつながっていないし、姉さんたちみたいに竜人でもない。竜人は他の種族と違って、純粋に力が強いだけでなく、魔力も多くて、魔法の技術も高い。だから、姉さんたちや周りの竜人からすれば、竜人の人と同じ感覚で考えてしまうため、人族である僕には強すぎるということが分からなかった。過去に虚弱体質を治そうと体力作りをしたり、魔法を教えてもらおうとしたのだが、人族にはかなり厳しいトレーニングだったり、魔法の技術が高度すぎて魔力が暴走し、最終的に身体を一度動かなくなるまで壊してしまったことがあった。その時はたまたま医師がいたため大事にはならなかったのだが、それ以降はまた同じことになったら危ないと医師に判断されて、何もしてこなかった。小さいことからでもと思ったが、その一件があり僕には何もできないという酷いトラウマになってしまった。
アスト(でも、しょうがないんだ…これが僕にとっての普通なんだから…)
いつもいつもそう言い聞かせて、また1日が経っていく。そんな生活をずっと送ってきた。だけど、心のどこかではそんな自分を変えたいとは思っていた。
———
夜も更けて、1日が終わろうとしていた。僕は書斎から借りて読んでいた本を手に取る。この本は、昔から好きだった本だ。僕は小さい頃から、城の書斎で本を読むのが好きで、気に入った本は書斎から持ち出したりしていた。ある時、僕は書斎からこの世界にある全ての大陸のことが書かれている本を読んでいた。
大陸によって異なる文化、環境、景色、僕は国からでたことがなかったから。世界には僕の知らないことがたくさんあるんだと初めて知った。そしていつしか、僕はそんな世界をたくさん見たくて、世界中を旅することが夢になっていた。でも、そんな昔の夢も、もう既に諦めようとしている。何度も何度も、虚弱体質な自分を恨んだ。だけど、それを理由に何もかも諦めようとしている自分もいて、そんな自分も嫌になった。もちろん、この国から出てしまえば、自分の叶えたい夢があるかもしれないが、その分いろんな危険があることも知っている。今の自分ではそんなトラブルを解決することもできないだろう。この城の中にいる限りは安全。ここしか僕の居場所がないんだ。
アスト(もう寝よう…)
考えることに疲れ、僕はベッドに横になり、目を瞑る。だけど、結局明日も、そのまた明日もずっとこの生活が続く。だから、いつも寝る前はこんなことを考えてしまう。僕が生きている理由は何なのだろうと。
コンコン
アスト(ん…?)
国中が寝静まった頃、僕の部屋の窓を叩くような音が聞こえた。つい気になり、カーテンを開ける。すると、窓の外には空を飛んでいる姉さんがいた。
アスト「えっ…ね、姉さん?」
ビックリしながらも僕は窓を開ける。
アスト「どうしたの姉さん。こんな時間に起きてるなんて、珍しいね。」
ルリナ「えぇ。実はあまり寝れなくてね。起こしちゃった?」
アスト「うぅん。僕もあまり寝れなくて。」
ルリナ「あら、そうなのね。じゃあアスト、今からちょっと付き合ってくれない?」
アスト「えっ?付き合うって…何をするの?」
ルリナ「まぁまぁ、ほら背中に乗って!」
アスト「え…えぇ?」
ルリナ「いいからいいから!」
アスト「う、うん。」
半ば強引に誘われたけど、僕はゆっくりと姉さんの背中に乗る。
ルリナ「よし…じゃあ行くわよ。」
そう言うと、姉さんは大きく空を飛び上がった。
アスト「う、うわっ!」
一気に地面から離れたせいでビックリして目を瞑ってしまう。冷たい風が身体中に感じる。だけど、何故かは分からないけど、不思議と嫌な気持ちにならなかった。むしろ、どこか安心感を覚えている。すると、少しずつ飛ぶ速度が遅くなってきた。
ルリナ「目を開けて見て、アスト。」
そう言われて、僕はゆっくり目を開けてみる。すると、下には雲が見えた。どうやらずいぶん高いところに来ているようだ。そして、次に上の方を見てみる。
アスト「こ、これって…」
そこで僕の視界に入ったのは、一面の色とりどりに綺麗に輝く星たちだった。僕はその光景につい見惚れてしまい、言葉が出なかった。自分の部屋から何度か星を見ることはあったが、ここまであたり一面中に、星に囲まれた景色を見るのは初めてだった。
アスト「すごい綺麗…!」
ルリナ「でしょ?ここは私のお気に入りの場所でもあるの。ほら、あそこに丘が見えるでしょ?」
そう言って、姉さんは近くにあるとても高い丘を指差す。
アスト「ホントだ。でもすごい高いね。すぐ下に雲があるよ。」
ルリナ「そうね。ここは高すぎるから、あまり誰も知らないのよ。でもあそこの丘で見る星はすごい綺麗なの。行ってみる?」
アスト「う、うん!」
僕たちはその丘へと向かった。向かう途中もずっと、上を見上げていた。正直、恐怖はなかった。それ以上にずっとこの景色を見ていたいと、そう思うようになっていた。
ルリナ「着いたわ。じゃあゆっくり降りて。」
姉さんに降ろされ、僕はその場に座り込んだ。その横に姉さんも座る。
ルリナ「よかったわ。アストが喜んでくれて。一度でも良いから、この景色を見せてあげたかったの。」
アスト「ありがとう姉さん。僕なんかのために…」
ルリナ「良いのよ。私のわがままで連れてきただけだから。」
アスト「でも…どうして僕を連れてきたの?」
ルリナ「それは…。」
姉さんは少し黙っていた。心なしか、表情も少し暗い。
ルリナ「ずっと申し訳ないと思ってたの。私は、アストの夢だった世界を旅したいっていう願いを叶えてあげたかった。だけど私たちのせいで、願いを叶えるどころかトラウマができてしまった。ホントはもっといろんなことに誘ってあげたかったのだけど、私にとってもあの一件はトラウマになったの。また、無知させて身体を壊したらどうしようって。」
アスト「い、いや違うよ姉さん。あれは僕がわがままで虚弱体質を治したいなんて言って自分の体調管理ができなかったから…僕もしっかりしてたら防げてたよ。」
ルリナ「でも結果的にトラウマを与えてしまったことには違いないわ。それに、結局そのせいであなたは夢を追うのをやめてしまったでしょ?それが私にとっても1番辛かったの。」
僕は言葉が出てこなかった。確かにあの一件で僕は自信を無くしてしまい、夢を追うのを諦めた。だけど、ずっとそれは僕の責任だと思ってたから、姉さんがそんなふうに思ってたことに正直驚いた。
ルリナ「でもね、やっぱり私はどうしてもアストには夢を追って欲しかったの。そのためにはどうしたら良いか、すごく悩んだわ。そして答えを見つけたの。それがこの場所よ。」
アスト「この場所が…答え?」
ルリナ「えぇ。前に私に話してくれたことを思い出してね。あなたが旅をしてみたかったのは、この国にはない知らないものをたくさん見てみたいって話してたから、そんな好奇心をくすぐれば良いと思ったの。旅をすれば、この景色以上に素晴らしい景色もたくさんあるわ。城にこもっていたらこんなにいろいろ見たりすることはできないの。」
言われてみればそうだ。僕は見たことのない物に興味があって、いつも書斎で世界にまつわる本を読んでいた。だけど、それを実際に見たことはない。城にいれば、見る機会も一生ない。
ルリナ「今回は簡単な旅のつもりで連れてきたの。あなたの読んでいた本は、実際に外に出て、歩いて、冒険をして、それでやっと見ることができるの。もちろんあなたにとっては簡単じゃないかもしれない。だからこそ、あなたの力で旅をすればもっと楽しいと思うわ。」
確かに、こんなに綺麗な景色を、自分の力で頑張って見ることができたら、どんなに良いのだろう。でもそのためには、トラウマや虚弱体質を乗り越えなければならない。またあの一件が起これば、今度こそ身体を完全に壊すかもしれないし、2度と夢を追えなくなるかもしれない。でも、それでも…
アスト「…姉さん。」
ルリナ「何?」
やっぱり、夢を追いたい。僕はずっと城にいて、自分が何故生きているのか分からなかった。だけど、こうやって旅をすれば、自分が生きていることが実感できる気がする。何もせずにただ部屋にこもるのはもう嫌だ。
アスト「まだ…夢追えるかな。自信を持って進めるようにできるかな?」
ルリナ「もちろんよ。だって…血は繋がってなくても、あなたは私の弟よ。私は最後まで応援するわ。」
アスト「っ……姉さん…。」
ついポロポロと涙が溢れてしまう。姉さんの方を見ると、姉さんも一緒に涙を流していた。
ルリナ「全く…すぐ泣くんだから。」
アスト「それは…姉さんも一緒だよ。」
そこから先は、ずっと黙っていた。僕も姉さんもこの景色に見惚れ、ずっと見ていた。この時間がずっと続けば良いのにと、そう思うくらい、僕にとっては幸せな時間だった。
———
気づくと、僕は自分の部屋で目が覚めた。どうやらあの丘で眠ってしまったみたいだ。
アスト(….よし、覚悟は決めた。)
僕はクローゼットを開けてさっそく準備を始める。
コンコン
ルリナ「おはよう、入るわよアスト…あら?何してるの?」
その時、姉さんが僕を起こしに部屋に入ってきたが、なにやら探している様子の僕を見て、不思議そうな顔をしている。
アスト「その…今日から、また頑張って見ようかなって。」
そう言って、僕は服を取り出して姉さんに見せる。この服は、僕が運動などをする時によく着ていた服だ。シェリアさんが僕のために1から縫って作ってくれた服で、トラウマができてからは着ることがなかったが、また着る時があるかもしれないとクローゼットに大切にしまっておいたのだ。
ルリナ「アスト…!」
すると、姉さんはいきなり抱きついてきた。
アスト「わっ…姉さん!?」
ルリナ「すごい…すごいわアスト…私も一生懸命手伝うから!」
アスト「うん、ありがとう姉さん。」
僕は服を着替えて、一緒に食堂に向かった。僕があの時の服を着ていることに気がついたメイドさんたちは大騒ぎだった。シェリアさんもビックリしていて、僕は改めて夢を追いたいことを話し、また今日から頑張りたいことをみんなに伝えた。この話は城の中ですぐに広まり、中には感動したり、泣いていたり、喜んでいたりとさまざまな反応があったが、皆僕のことを応援すると言ってくれた。皆からどう思われるか、心配なところはあったけど、みんなが応援してくれるから、期待に応えてみせたい。こうして、前とは違う僕の日常が始まる。
ルリナ「まだ朝食には時間がかかるみたいだし、少し軽めに運動しましょう。」
アスト「う、うん!」
ルリナ「それならさっそく、今日は庭の周りを走ってみましょうか。」
そう言って、僕たちは庭へ向かう。するとそこでは、ムーンライ城の騎士団の人たちが訓練をしていた。
「おや!アスト様とルリナ様!どうかなさいましたか?」
僕たちに気づいた若き騎士団の団長であるレインさんがこちらに近づいてくる。
ルリナ「レインさん、実はね…」
そこで姉さんは簡単にレインさんに事情を説明した。
レイン「な、なんと!?そうなのですかアスト様!?」
アスト「うん。今日からまた頑張りたくて。」
レイン「そうですか。なら我々騎士団、アスト様に敬意を込めて一生懸命応援させていただきます!」
アスト「ありがとう、レインさん。」
レイン「こうしちゃいられない!騎士団全員集合!」
アスト「…えっ?」
すると、いきなりレインさんは騎士団の方を全員集めてきた。何やら話しているようだが、一体何をするつもりなのだろう。
アスト「はぁ…はぁ…。」
レイン「頑張れ!アスト様ー!!」
「「「頑張れー!!」」」
僕はさっそく庭を走り始めていた。後ろに騎士団全員を連れて。
アスト(いや…どういう状況…!?)
どうやら、僕と一緒に走ることで、間近で応援をしたかったらしい。訓練をしたり、走るのが遅いから抜かしても良いと話したが、訓練は別の時間でもできるし、アスト様についていく身なのに抜かすことなどできないと言われ、結果的にこうなってしまった。きっと周りからみたらかなりシュールな光景だろう。
ルリナ「頑張れ!アスト!」
姉さんは少し離れたところから、応援してくれている。顔を見ていると、何やら嬉しそうな顔をしているのがチラッと見えた。
アスト「う、うん!はぁ…ふぅ…。」
レイン「大丈夫ですアスト様。何度も止まったって良いんです。まずは自分のペースでゆっくり慣れていきましょう!」
アスト「分かった…!ありがとう…!」
僕の中ではかなり走ったが。騎士団の方は全員息が全く上がっていなかった。僕はすぐバテてしまうので、何度も走るのを止めてしまう。でもその度にみんなも止まってくれて、いろいろ励ましてくれる。最初はみんながついてきていて恥ずかしかったけど、騎士団のみんなが背中から応援してくれるおかげで、僕は前を向いて頑張って走ることができた。
アスト「ケホッ…ケホッ…」
ルリナ「大丈夫?これ水よ。飲める?」
アスト「あ、ありがとう…大丈夫…!」
走り続けて数十分、結局すぐにバテて身体が動かなくなったので、今日はこれで切り上げることになった。
レイン「良い走りでしたよ!アスト様!」
アスト「ほ、ホント…?ありがとうレインさん。」
シェリア「アスト様…!よく頑張りましたね。私感動しました!」
アスト「あ、ありがとうシェリアさん…っていつの間に!?」
気づくと姉さんの隣にシェリアさんが立っていた。ハンカチを持って、ずっと涙を拭いている。
シェリア「既に朝食の準備はできております。私は今すぐにでもこの感動を他のメイドや執事たちにもお伝えしなければならないので…ごゆっくりしながら来てくださいね。では!」
アスト「あ、えっ、ちょ…シェリアさん…!?」
言い終えると、目にも止まらぬ速さでシェリアさんは城の中へ戻って行った。メイド服を着ているのにどうやってあの速さで移動しているんだろう?というぐらいすごく早かった。
レイン「シェリアさんは相変わらずですね。ではアスト様、我々も向かいましょうか。よろしければ僕がお担ぎしますよ?」
アスト「ううん、大丈夫…。疲れたけど…まだ行ける気がするんだ。もう少し自分で頑張るよ。」
レイン「そ、そうですか。アスト様…なんて逞しくなって…。」
すると、レインさんだけでなく、後ろにいた騎士団全員が涙を流していた。
アスト「え、そ、そんなに…?」
姉さんの方に助けを求めようと思い、目を合わせようとするが、その姉さんも涙を流していて、収集がつかない状況になっていた。仕方がないので、みんなを連れてなんとか食堂に向かった。しかし、そこから先も大変だった。シェリアさんの話がもう城中に広まっていて、誰かに会うたびに泣かれたり、褒めてくれたりと、大騒ぎになった。朝からずっと僕の話でもちきりとなり、城はいつもと違い活気に満ち溢れているような感じだった。僕も、ここまでみんなが喜ぶとは思わず、でもこんなに楽しそうな顔をしたり、元気になっているみんなを見て、始めて良かったと思うようになった。
———
朝食をとってからは魔法の特訓をすることになった。姉さんやシェリアさんが、国中から魔法に関する魔導書を集めてきてくれて、基礎の魔法から練習することになった。
アスト「魔法は…想像力を働かせて…ぶつぶつ…」
本を読むのは好きだったので、一冊一冊を丁寧に読んだ。集中して魔法の勉強をしているのを見て、姉さんは気を利かせてくれて、食事も全部部屋に持ってきてくれた。僕は本を読み始めるとなかなか自分から終わることができないほど集中して読んでしまうため、気づけば日がくれそうな時間になっていた。
アスト(うわ…もうこんな時間か…まだ5冊くらいしか読めてないのに。)
僕は大きく背伸びをした。流石にずっと座ったままだったので、少し動くために廊下に出た。
シェリア「あら、アスト様。一区切りついたのですか?」
すると、ティーセットを持って歩いているシェリアさんがいた。
シェリア「もしよろしければ休憩なさいますか?」
アスト「そのつもりでティーセットを持ってきてくれたんでしょ?」
シェリア「えぇもちろん。私のお手製の菓子も用意させていただきましたわ。」
アスト「ありがとうシェリアさん。でも休憩の前にちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」
シェリア「もちろんですわ。どんなお願いですか?」
アスト「ちょっと…魔法を見て欲しくて。」
僕はシェリアさんを連れて城の訓練所に連れて行ってもらった。僕の目の前には練習用の魔導人形が置かれている。
アスト(よし…!)
僕は本を読んで身につけた知識をもとに、魔力を込めて想像をする。
アスト(炎…炎…燃やし尽くすような強い炎…!)
手から炎の熱が伝わってくる。このままいけば魔法が発動…するはずだった。
アスト「あ、あれ…?」
突如、炎がいきなり結晶のように固まり始めてしまった。とても綺麗な赤色の光を放っていて、まるで宝石のようだった。
アスト(えっ…な、なんで…もう少しで炎が出そうだったのに…)
シェリア「これは…ルビー…みたいですね。」
その様子を見ていたシェリアさんが宝石を手に取り、じっくりと見た。
アスト「な、なら!次は水の魔法で…!」
今度は水を想像し、魔法を発動させようとする。手に込めた魔力が水へと変わり始める。しかし、何故か魔法が発動しそうになった瞬間、いきなり水が結晶のようになっていき、青い宝石へと変わってしまった。その後も、雷の魔法や風の魔法、氷の魔法などいろんな魔法を試してみた。しかし、どれも魔法が発動する手前で結晶化が始まり、全て宝石に変わってしまった。
アスト「はぁ…はぁ…な、なんで宝石に…前はこんなことなかったのに…」
僕は少し涙が落ちそうになった。できていたことが途端にできなくってしまい、自信がなくなってしまった。だけど、僕は途中から何もしなくなった時期があった。そのせいで出来なくなるのは当然なのかもしれない。
アスト(とりあえず、宝石になる原因を突き止めないと…)
シェリア「アスト様、少しよろしいでしょうか。」
その時、僕が作り出した宝石を集めていたシェリアさんが、最初に結晶化した赤い宝石を差し出してきた。
アスト「これって…最初の宝石?」
シェリア「はい。少し気になることがありまして、その宝石を手に持っていただいて、次はそれに魔力をこめて魔法を発動させてみてください。」
アスト「う、うん。」
僕は宝石を受け取り、魔力を込める。正直、これをして何か変わるとは思わなかった。しかし、宝石が少しずつ熱くなってきているのを感じた。
アスト(あ、あれ…あ、熱っ!?)
いきなり宝石がすごい熱をおびだし、思わずびっくりして手を離してしまった。
シェリア「っ!!アスト様!はあっ!」
僕が手を離した瞬間、宝石からでていた火の勢いが増した。シェリアさんが風を魔法で出し、宝石を人形の方に飛ばした。すると、宝石は瞬く間に大きな音を立てて爆発した。僕はシェリアさんが咄嗟に腕を引っ張ってくれたため、なんとか爆発に巻き込まれずに済んだ。爆発した方を見ると、大きな火柱を立てていて、さらに人形が粉々になるほどチリとなっていた。
シェリア「アスト様、大丈夫ですか?」
アスト「う、うん…でも今の何……?」
シェリア「やはりこれは…」
ルリナ「今の音は何!?2人とも大丈夫!?」
大きな音を聞き、姉さんがすぐにやってきた。姉さんはすぐに怪我がないか確認をしてくれて、どこも怪我がなかったことが分かると、少し表情が柔らかくなった。シェリアさんはその間に今起きた出来事を話してくれた。姉さんはその話を聞くと、何やら悩んだ様子で、考え始めていた。すると、城中から音を聞きつけた騎士団やメイドが次々に集まってきた。その場はシェリアさんが請け負ってくれて、僕は姉さんに連れられて一旦自室に戻ることになった。
アスト「あの…ごめんなさい姉さん。迷惑をかけてしまって…。」
ルリナ「良いのよ。それよりもアストに怪我がなくて良かったわ。それより、あの力はどうやって身につけたの?」
アスト「それが…全然分からなくて…」
先ほど起きた出来事を、改めて全て姉さんに話した。だけど、僕はどうやってあんなに大きな魔法が使えたのか、いまだに分かっていない。
ルリナ「じゃあ、あの力が何かは知ってる?」
アスト「あの力?」
ルリナ「宝石が大きな火に変わった魔法のことよ。宝石魔法と言って、宝石に宿る魔力や力を媒体に、爆発的に強い魔法を扱うことができる魔法なの。普通の人にはなかなか扱えない強い魔法よ。」
アスト「い、いや…宝石魔法は初めて聞いたよ。今日読んだ魔導書にも書いてなかったし…。」
ルリナ「上級レベルの魔法だから、今回持ってきた魔導書にはないと思うわ。ということはあれは自分でできた魔法なのね?」
アスト「う、うん。暴走しちゃったけど…。」
どうしてあんなことになったのか、いまだに分かっていない。分かっていないからこそ、少し恐怖があった。自分でも理解できない力がいきなり扱えると分かり、またあんな暴走を練習で起こしたり、誰かを傷つけたらと考えると、背筋が凍りそうだった。
ルリナ「そうね…とりあえず、気になることもあるし、少し検査をしてみましょう。」
アスト「け、検査?」
ルリナ「えぇ、この本に手をかざしてみてくれる?」
そう言って、姉さんはテーブルに大きな魔法陣が書かれた魔導書を置いた。僕はおそるおそる手をかざす。すると、魔法陣がいきなり輝き出し、ページが勝手にめくれたかと思うと、何も書かれていないページに文章が浮かび上がってきた。姉さんはその文章をじっくり読み出した。
アスト「あ、あの…その魔導書って…」
ルリナ「これはね、かざした人物の魔力を読み取って、その人がどんな能力を持っているかを調べてくれるの。本来なら貴重な魔導書で、簡単には持ち出せないのだけどね。今回は特別に許してもらったわ。」
アスト「そんなにいろいろ分かるの?」
ルリナ「かなり分かるのよ。身長とか、その人に適した魔法の属性。そして、普通の人にはない特殊能力とか、いろいろ分かるのよ。おそらく私の予測だと…あった。これが原因ね。」
アスト「えっ!もう原因がわかったの!?」
ルリナ「えぇ。どうやらアストには、特殊能力が目覚めているみたいね。」
アスト「と、特殊能力?それって一体何なの?」
ルリナ「特殊能力というのは、普通とは違う力、能力のことで、魔法とは違う力なの。めったに手に入れることがないのだけれど、その特殊性と貴重性から、特殊能力を持っている人のことを<ユニーカー>と呼ばれているわ。」
アスト「そうなんだ…。じゃあ僕の能力って?」
ルリナ「アストが目覚めたのは、<魔力結晶化>という能力よ。この能力は自身の魔力を結晶化させて宝石を作り出してしまうの。だからさっきは宝石しか作れなかったのよ。」
アスト「で、でも前までは普通に魔法が使えたのに、どうしていきなり能力に目覚めたの?」
ルリナ「それは…分からないわ。能力が目覚めるタイミングって人それぞれ見たいなの。アストみたいに気づいたら目覚めてたり、生まれつき持っている人もいるわ。」
アスト「そっか…。じゃあ僕はもう普通の魔法は使えないのかな…?」
ルリナ「そんなことないわ。能力というのは発動条件みたいなのがあるの。それを理解して、練習をすれば制御できるようになるわ。」
姉さんから言われて僕はホッとした。あの強い魔法が暴走したらと考えていたけど、制御できる方法があるなら、むしろ上級魔法である宝石魔法を使いこなすことができるかもしれない。使いこなせれば、むしろ強くなることができるかもと思った。きっと旅に出ればモンスターと戦う場面もあるだろう。しかし、その時に実力がなければ最悪死に至るかもしれない。だからそうならないように、実力もつけておかなければならないのだ。
ルリナ「それに…能力をしっかり使いこなせれば、あの宝石魔法をどこでも自由自在に扱うことができるということでもあるからね。」
アスト「宝石魔法も発動条件が難しいの?」
ルリナ「そんなことはないけど、宝石自体が貴重だし、何より宝石魔法は宝石を媒体にすると言ったけど、媒体にした宝石は消えちゃうの。だから宝石魔法には使用回数があるのだけど、あなたは能力のおかげで、魔力さえあればいつでも宝石魔法を使うことができるの。これはとてもすごいことよ。全世界で探しても、気軽に宝石魔法を扱える人なんていないもの。これはあなただけの才能よ。」
アスト「才能…これが僕の…」
ルリナ「もっと宝石魔法や自分の能力を理解できれば、あなたはきっと優秀な魔導士にもなれちゃうかもね。」
姉さんの言葉に、少しだけ希望が見えた。僕にも自分だけにしかない物がある。いつもは周りの人と比べてしまい、自分は何もないと思ってしまう時があったけど、そんなことを思っていた前の自分を、まだ変えることができるのだ。簡単な道ではないけれど、もうこれ以上迷惑をかけたり、弱い心のままの自分ではいたくない。だから、僕の心は決まっていた。
アスト「姉さん。僕この力を使えるようになりたい。まだ魔法については勉強不足だけど、自分にしかない力だから、その才能を活かせるようになりたい。」
そう言うと、姉さんは優しく微笑んだ。
ルリナ「さすがは私の弟ね。もちろん協力するわ。いきなりは難しいでしょうけど、きっとあなたなら使いこなせるようになるわ。」
姉さんの言葉に僕は力強く頷いた。その日から、僕は毎日一生懸命に特訓をするようになった。朝は走って体力をつけるようにし、昼以降は魔法について勉強したり、実践練習をかかさずするようになった。とても忙しい毎日だったけど、前の生活と比べたらとても充実した日々だった。
———
それから数日後。
アスト「宝石魔法 ルビーフレア・エンブレイズ!」
手から魔力を結晶化させ、赤色の宝石を作る。その宝石を魔力を使って宙に浮かせる。そのまま魔導人形に向かって飛ばすと、宝石が人形に当たった瞬間大きな爆発を起こす。魔法を喰らった人形は炎に飲み込まれ、ちりぢりになっていた。その様子を、姉さんとシェリアさんとレインさんが見ていた。
レイン「す、凄まじい火力じゃないですか!?あの魔導人形はかなり頑丈に作られているはず…私でも全力の一撃じゃないと壊せないのに…この威力は国の魔導士の方でもそうそうだす方はいませんよ!?」
シェリア「驚きました…!まさかたった数日でここまでの魔法を扱うことができるようになるなんて…!」
ルリナ「私もビックリしたのよ?能力が発覚した次の日に、魔法の技術や知識を教えたけど、その日のうちにはああやって宝石を浮かせるようになってたわ。手に持ったままだと、投げたりして当てないといけないからね。自身にとって扱いやすい形をすぐさま考えついて、それをすぐ実践に移したのよあの子は。」
レイン「やはり…さすがはアスト様ですね。魔法に関してはかなりの才能をお持ちですね。」
遠くでみんなの称賛の声を聞きながら、僕は他にもいろんな魔法を試した。まだ完全に能力を扱いこなせるようになった訳ではないが、少しずつ理解できるようになり、完全ではないが結晶化を起こさずに魔法を打てるようにもなってきた。
アスト「ふぅ…姉さんたちどうだった?」
ルリナ「厳しいことを言うなら、まだまだ改善したいところはたくさんあるわ。最後辺りに放った魔法だけど、集中力が切れたせいか結晶化を抑え切れていなかったからね。」
アスト「う…そう…だね。最後はちょっと力任せというか無理やり魔法を発動させることを意識したかも…。」
ルリナ「もちろん能力を制御するために、普通の魔法でも人一倍集中しなければならないのは分かってるわ。でも、力任せになっても魔力を貯めても、必要のない無駄な魔力がでてきたり、魔法の術が崩れて威力のないものに変わることもある。だから、最後まで集中力は大事よ。」
アスト「は、はい!」
ルリナ「さて、今日はこの辺りで休憩にしましょう。シェリアさん、ティーセットをお願いします。アストの好きなスイーツも一緒にね。」
シェリア「かしこまりました。では少々お時間をいただきますね。」
レイン「私も訓練に戻ります。失礼しますね。」
アスト「うん。2人ともきてくれてありがとう。」
2人が行ったのを見届けて、僕と姉さんも部屋に戻るために歩き始めた。
アスト「ふぅ〜……疲れた…。」
ルリナ「ふふ、でしょうね。それにしても、さっきはかなりキツいことを言ったけど、随分宝石魔法を使いこなせるようになったわね?」
アスト「うん。まだ1つしか扱えないけどね。」
ルリナ「1つでも十分すごいのよ?宝石魔法は扱いがとても難しくて、宝石を媒体にためた魔力を爆発的に威力をあげるけど、その分魔力の調整を間違えたりすると、暴走も起こしやすいから、繊細な技術がいるの。だから1つでも使えることに自身をもちなさい。」
確かに宝石魔法を使う時はいつも以上に集中力を使っている。ずっと魔力が不安定になっていて、安定させるにはまだかなりの時間がかかってしまう。まだまだ改善する部分が多く、課題は山積みだ。
アスト「ありがとう姉さん、この調子で明日も……。」
そう言いながら、自室の部屋を開けた瞬間だった。
??「アスト〜!」
アスト(えっ…この声…!)
聞き覚えのある声だった。僕は驚いて部屋の中を見る。
アスト「お母さ…ぐえっ!?」
目の前にいた女性に思いっきりタックルを喰らい、大きな音を鳴らして、僕は床に倒れた。
??「あ、あら!ごめんなさい…つい…」
女性は服を整えながら、立ち上がった。
ルリナ「もう…お母様ったら。」
??「しょうがないでしょ?久しぶりに可愛い子供たちと会えたのだもの。」
そう、この目の前女性こそ、この国を統治していて、僕と姉さんのお母さんでもある方、エルナ・スターライ。人族である僕を拾って育ててくれたこの国女性様だ。今までは、他国との交流を深めるために不在中だったのだが、やっと話し合いが終わらせることができ、帰ってくることができたとのことだった。
エルナ「それよりもアスト聞いたわよ!また夢を追うためにいろいろ頑張り始めたんですってね!メイドのみんなから聞いたわ!魔法もあの宝石魔法を使えるようになったんですってね!すごいじゃない!もうそれを聞いてからすぐあなたに会いたかったのよ!」
アスト「あ、ありがとうお母さん。」
こんなにもすごくテンションが高い母だが、いつもは女性という立ち位置になると、話し方も上品で品やオーラが出ていて、とてもカッコよくなるのだ。ただ身内にはとことん甘く、こうやって女王という立場を忘れると、性格がガラッと変わるのだ。
エルナ「ほら早く座りなさい!ルリナも一緒に!今シェリアからティーセットを届けてもらったからね。お茶をしながらいろいろ話しましょう!」
ルリナ「相変わらずですねお母様。お元気そうでよかったです。私が紅茶を淹れるから、アストは先に座ってて。」
僕は言われた通り椅子に座る。昔からよく3人でこうやって話しながら家族団らんをしていた。だけど、この中にいつもお父さんはいない。会ったことはあるらしいが、僕が拾われたのは今から10年くらい前で、僕がまだ1歳くらいの時だった。そして拾われてすぐ、他界をしてしまったらしく、僕はお父さんがどんな人だったのか、全く知らない。だけど、お母さんが言うにはとても真面目でかっこいい人だったと話していた。この話をするたびにお母さんも姉さんも悲しそうな顔をするので、あまりこの話を話題にしたことはない。
エルナ「そう…だからアストは夢を追いなおすことにしたのね。」
アスト「うん。やっぱり諦めたくなくて。」
久しぶりにお母さんと出会い、いろいろ話すことができた。この時間が僕にとっても幸せな時間でもあった。
エルナ「嬉しいわ。私も…昔は本当に申し訳ないことをしたと思ってたの。前も一緒にあなたの虚弱体質を治そうといろいろ考えたけど、結局あなたにトラウマを植え付けてしまうだけだったもの。だから後悔してたのだけど、アストがまた頑張るって言ってくれて、本当に嬉しかったわ。私も一生懸命応援してるわ。」
アスト「ありがとうお母さん。ちょっとずつだけど、自信もついてきたんだ。ちゃんと最後まで頑張るよ。」
エルナ「少し見ない間に、随分成長したのね。本当に…私ももう歳なのかしらね…。」
アスト「えぇ?全然そんなことないのに…」
お母さんは竜人のため、僕と違って長生きだし、歳を取っても見た目にはあまり変わりはない。だから、そんなことを言うお母さんがおかしく思えた。そんな感じで、他愛もない話をずっと続けていた。だけど、時間が経つのはあっという間で、外を見ると少しずつ暗くなり始めていた。
エルナ「あら…もつこんな時間?」
ルリナ「お母様。そろそろあの話をされては?」
アスト「あの話?」
エルナ「あぁ!忘れるところだったわ。ねぇアスト、いきなりなのだけどね、旅をする前に学園に通ってみない?」
アスト「が、学園?僕が?」
エルナ「えぇ、私がシェリアにお願いしていたから、いろいろ学んでいるとは思うけど、学園に行けばこれから生きていく術とか、勉学を通していろんなことを学べて楽しいと思うの。十分な実力も身につけられるし、良いと思うのよ!」
アスト(学園…か。)
この国には学園のような学べるような場所はない。その理由はこの国の土地や環境で、設備を建てられなかったり、子供の人数が少ないのもある。だけど、いつも本を読んでいた時にそういう設備があるというのは知っていたので、少なからず興味はあった。友達と一緒に過ごして、切磋琢磨しあいながら共に成長することができる。この国ではあまりないようなことだけど、別の国では子供はそう言う生活が当たり前の場所もあるらしい。
アスト(僕は今までみんなとは違う日常を送ってた…。だけど、僕でも他の人と同じように過ごせるってことだよね…!)
アスト「行って…みたいかも。」
エルナ「本当に!?良かったわ!実はね、今回いろんな国に行っていろいろ考えてたのよ!どこの学園が良いかとかね!私としてはここが良いと思うの!」
そう言ってお母さんはたくさんの紙を取り出す。そこにはお母さんが調べたであろう、学園の1つ1つの紹介が書かれたプリントがあった。そして、そのうちの1つを指差した。
エルナ「エンデル学園、リュミナール大陸にあるネイチャリー国という国にあるリュミナール大陸で1番大きい学園よ。ここはね、さまざまな種族を受け入れている学園で、皆が平等に学びを受けれるの。しかも、教えてくれる人もベテランの人ばかりで、有名な魔導士も多いから、質の高い勉学を受けれるらしいわ。設備も整っているから、アストでも過ごしやすい環境なのよ!」
アスト「エンデル学園か…。」
僕はお母さんが見せてくれた学園の絵を見る。建物はすごく大きくて、僕の住んでる城以上はありそうだ。だけど、僕は1つ気になっていることがあった。
アスト「お母さん…やけに詳しいね?どうやってそこまで情報を仕入れたの?」
エルナ「もちろん実際に行ってきたからよ?」
アスト「……えっ?」
エルナ「当たり前でしょ?実際に行かないとどういう場所が分からないじゃない。他にも良い場所はあったけど、1番はここだと思ってるの!」
アスト「そ、そうなんだ。」
こう言う時のお母さんの行動力は凄まじい。僕は血が繋がってないのに、いろいろやってくれる。たまに、その行動力でかなり驚かせれる時もあるけど、本当に良い人に拾われたんだなと思う。
ルリナ「私もビックリしたけどね。でもアスト、私もエンデル学園はとても良い場所だと思うの。すごく有名な学園だからね。きっとそこに通えば、あなたにとって良い経験にもなると思うわ。」
アスト「…うん!僕頑張ってみるよ!」
こうして、僕に新たな目標ができた。一度は諦めかけた夢だけど、みんなのおかげでまた目指せるようになれたのだ。だからこそ、みんながくれたチャンスを今度こそものにして見せたい。
———
それから、1年という月日が流れた。12歳になって、少しだけ背丈も伸びた。あの丘にいった後、僕の生活はガラッと変わった。体力作りも、魔法の勉強も、毎日頑張りつづけた。正直、何度かうまくいかないこともあり、挫折しそうなこともあったけど、そのたびにみんなが励ましたり、応援してくれた。だから僕は諦めずに頑張ることができた。結果的に、虚弱体質は完全には治らず、まだあまり動かすと身体が辛い時もある。だけど、1人で暮らすには無理をしなければ十分に治った。この1年で、夢を叶える準備は着実に整えつつある。僕が国を発つまであと数日。
少しずつ、冒険の始まりが近づいてくる。それは、1人の少年のこれから成し遂げる大きな夢の始まりの物語。




