3.「目が死んでいる三人の奴隷少女」
《〝三人の獣人少女に襲われてドッカーン、大爆発エンド〟のフラグが立ちました》
「教えてくれてありがとう、サポさん! ポップだけど結構エグいフラグだね!」
そんなやり取りをサポさんとした後、深呼吸して切り替えた僕は、応接室に入り、中で待っていた者たちに対して、仁王立ちした。
「ぐへへ。俺様は悪役貴族のヴィラゴ・フォン・テンドガリアだ!」
十五歳になり父の商売を引継いだ僕は、最初が肝心だと思い、新しく連れて来られた奴隷たちを前に、いつも通り完璧な悪役ムーブをかましたのだ。
「「「………………」」」
あれ?
「ぐへへ。お前たちは俺様の奴隷だ。奴隷らしく、主である俺様に、一人ずつ名乗れ!」
「「「………………」」」
あれれ?
ソファに座った、薄汚れた襤褸切れを纏っただけの、痩せ細った三人の少女たち――狼獣人の少女、熊獣人の少女、それとちょっと変わった猫獣人のように見える幼い少女――彼女だけは幼女と言っても良いだろう――は、皆無反応だった。
首には〝人間を害そうとすると、それを感知して自動的に爆発して自分が死ぬ〟という、一種の魔導具である自爆首輪をつけられた彼女たちだが、そんなもの必要ないのではと思われるくらいに、全員、目が死んでいる。
っていうか、何故か狼獣人少女は目を閉じたままだし、何故か熊獣人少女はずっと両腕をだらりと下げたままだし、何故か最後の一人は、「はぁ、はぁ」と、ずっと息を乱している。
「だが、そんなことで、本物の悪役貴族は悪行を止めたりはしない!」と、僕はバッと立ち上がる。
「ぐへへ。俺様は生半可な悪役貴族じゃないからな! 覚悟しろよ、奴隷ども! まずは、〝灼熱地獄〟を御見舞いしてやる!」
パチン
「「「かしこまりました」」」
僕が指を鳴らすと、打ち合わせ通り、メメイを始めとする三人のメイドたちが、「さぁ、こちらに来て下さい」と、獣人少女たちを連れていこうとするが。
お?
意外にも、三人は牙を剥き出しにして、弱々しくだが、抵抗した。
先程はS級ランクの実力者であるワドスだったから逆らわなかったが、無力な人間の女に対しては獣人の力を見せ付けて抵抗してやる、ってところかな?
まだ完全に心が死んだ訳じゃないのか。良かった。
そう安堵しつつ、僕は不敵な笑みを浮かべて呟く。
「ただのメイドだと思うなよ? 〝うちのメイド〟は〝強い〟ぞ」
「「「!」」」
ズルズルズルズル
驚愕に目を剥く獣人少女たち。
そりゃ驚くよね。
やせ細っているとはいえ、人間を遥かに超える膂力を持つ獣人である自分たちが、人間のメイドたちによって、いとも容易く腕を引っ張られ、強引に連れ去られてしまったのだから。
まぁ、僕が保有する七つスキルの一つであり、何でも強化できる『増幅』をメイドたちに掛けて、格段に〝身体能力〟を上げているだけなんだけどね。
でも、僕の『増幅』は一味違って、その効果が〝一生続く〟ので、メイドたちが恒久的に強くなっているのは確かだ。
※―※―※
「ぐへへ。奴隷どもよ、たっぷりと〝灼熱地獄〟を味わったか?」
「「「………………」」」
熱々の風呂に入った彼女たちは、さっぱりとして、頬に赤みが差して、石鹸の良い匂いがしている。
更に、メイドたちに選ばせた美しいドレスを着せてあり、三人とも元々の美貌が強調されて、どこぞの貴族令嬢のようだ。
もしかして初めて上等のドレスを着たのか、どことなく恥ずかしそうにしている彼女たち。
「だが、そんな羞恥を多少見せた程度で、俺様が攻撃の手を緩めてやるだなんて思うなよ?」
何を隠そう、応接室から移動して、今はダイニングルームなのだ。
ここに来たからには、やることは一つ。
「ぐへへ。俺様は世界一の悪役貴族だ! 覚悟しておけ、奴隷ども。美味い飯を大量に食わせて、胃もたれさせてやるからな!」
「「「!?」」」
パチン
本日二回目の指パッチンで、メイドたちが、料理長たちが作った渾身の料理を次々と持って来た。
鉄板の上では、ジュージューと音を立てながらステーキが香ばしい香りを放ち、ポトフから立ちのぼる湯気が食欲をそそる。
ブルスケッタ、生ハムとチーズのアボカドサラダ、カルパッチョ、ムニエル、などなど、全てフシェたち自慢の逸品料理ばかりだ。
「りょ、料理なんて持って来たって、食べないわよ!」
「ハッ! そうさ! あたいらが料理ごときで陥落するとは思わないことだね!」
「ナフィ、別にお腹空いてないの! ふんだ!」
お、やっと喋ってくれた。
獣人少女たちは、皆、そっぽを向くが。
ぐ~
ぐ~
ぐ~
「「「――――ッ!」」」
空腹には勝てなかったらしく、仲良く同時に鳴った自分たちの腹の音に赤面する。
「どっちにしろ、あたしは……」
「ハッ! そうさ! もし食べようとしても、どうせあたいは……」
ずっと目を瞑っている少女と、腕をだらりと下げている少女の言葉に、僕は小首を傾げる。
もしかして――
「『鑑定』」
七つスキルの一つを使うと、彼女たちの状態が分かった。
「〝呪い〟か」
二人とも、種類が違う呪いが掛けられている。
僕はバッバッと、二人を順番に指差した。
「ぐへへ。俺様が一度やると決めたことを、〝呪い〟程度で諦めると思うか? お前たちには、何が何でも美味い飯を大量に食わせて、胃もたれさせてやる!」
僕は、七つスキルの一つである〝全状態異常無効〟を応用。
「『解呪』!」
「「!」」
僕の声に呼応して、二人の身体を光が包み込んだ。
光が消えると。
「目が……目が見える! し、信じられないわ!」
「一体何が起こったんだい!? ちゃんと腕が動くだなんて!」
二人に掛かっていた呪いは跡形もなく消えた。
「……うっ……」
「……うぅっ……」
思わず、涙ぐむ二人。
「ぐへへ。これで食べられるだろ? さぁ、命令だ! 今こそ、食え! 胃もたれするまで!」
三人は、顔を見合わせる。
「じゃあ、ちょっとだけ……」
「ハッ! そうだね、少しだけなら」
「そこまで言うなら、しょうがないから、ナフィも試食してあげるの!」
ナイフとフォークを手に持った彼女たちは、食事を始めた。
※―※―※
一時間後。
「ふ~」
「げぷっ」
「ふぃ~」
三人は、山ほどあった料理の数々を、全て平らげてしまった。
ふっふっふ。
苦しそうに腹を擦っているな。
胃もたれ確定! 目論見通りだ!
僕が満足気に目を細めた直後。
「んっ! あぁ! はぁん!」
先程までは空腹だったために、そちらに意識が集中して気が紛れていたのか、満腹になった幼い少女が、幼女とは思えない艶めかしい表情で、自身の身体をまさぐる。
「お前もか」
どうやら、二人だけではなかったらしい。
「『鑑定』」
幼女の身体からは、淫紋の反応が感知された。
自身の意思とは無関係に、強制的に発情させる呪いだ。
「呪いがあったら、胃もたれの苦しみに集中出来ないだろうが! 邪魔するな! 『解呪』!」
「!」
幼女の呪いも消えた。
「き、消えたの! あんなに辛かったのに! 綺麗さっぱり無くなったの! やっと……やっと、解放されたの……! ……ぐすっ……」
幼い少女の頬を、涙が伝う。
「さて。胃もたれで苦しんでいるお前らにも、俺様は決して容赦はしない! さぁ、今こそ、主である俺様に一人ずつ名乗れ! ああ、ちなみに、嘘はつくなよ? 虚偽は大罪だ。もし嘘をついたら、〝こう〟だ」
そう言った後、僕は言葉を継いだ。
「『解除』!」
「「「!」」」
彼女たちの自爆首輪が、粉々に破壊されて、地面に落ちる。
実はこれも、先程の解呪と同じ、全状態異常無効の固有スキルの応用だ。
勿論、普通に考えれば、自爆首輪は状態異常では無いだろうけど、僕の固有スキルは全てレベル10で、限界まで鍛え上げているので、状態異常の範囲を無理矢理広げて、こんな裏技のようなことまで出来てしまう。
「ぐへへ。お前たちもこうなりたくなかったら、正直に名前を言え!」
粉々になった首輪を指差す、僕の圧倒的な悪役ムーブによって、それまで必死に抗ってきた彼女たちも、とうとう陥落した。
「……あたしはレピアよ」
「ハッ! あたいはファーラさ」
「ナフィなの!」
狼獣人の少女レピアが、「どうして、奴隷のあたしたちに、ここまでするの?」と問い掛ける。
ふっふっふ。
地獄の責め苦に、ついに音を上げたね。
「どうしてここまで(酷いことを)するの?」だなんて、悪役貴族に対する最高の反応だよ。
「良いだろう、教えてやる」
僕は、メメイに用意させた漆黒のマントを身に纏うと、バッと翻させつつ告げる。
「それは、俺様が真の悪役貴族だからだ。お前たち、覚悟しておけよ。お前たちが今までどれ程酷い目に遭っていようが、関係無い。その全てを、今日みたいな、俺様の地獄の責め苦によって、上書きしてやる。過去にどれだけ悲しみの涙を流していようが、関係無い。先程のように、俺様が新たにお前たちを泣かせて、過去の涙を塗り潰してやる。これまでにどれだけ苦しみ呻いていようが、それも関係無い。さっきみたいに、美味い飯をたらふく食わせて、苦しい声を上げさせて、あの日の苦しみを忘れさせてやる」
僕の渾身の演説と悪役っぷりに、三人が思わず目を見開く。
「……貴方、本当に人間?」
「ハッ! あんたみたいな人間には初めて出会ったよ!」
「ナフィは、あんたは人間じゃない気がするの!」
「俺様は正真正銘の人間だ。まぁ、あまりの悪役っぷりに、人智を超えた存在だと誤認するのも仕方が無い」と、悦に入った僕は、髪を掻き上げると、「だが」と言葉を継いだ。
「人間だからと言って、弱いと決め付けるなよ? 俺様は、女神から貰った固有スキルが七つもある。先程お前たち御自慢の膂力でも敵わなかったあのメイドたちの身体能力を格段に引き上げたのも、俺様の力だ」
口角を上げる僕に、三人が今までに無いほどに食い付く。
「貴方に頼めば、戦闘能力を上げて貰えるってこと? なら、是非お願い! 倒したい相手がいるの!」
「ハッ! 良いことを聞いた。あたいの力も上げて貰えるかい? ぶっ飛ばしたい奴がいるのさ」
「ナフィ、どうしても強くなりたいの! けちょんけちょんにしないと気が済まない奴がいるの!」
「おうおう、良い食い付きっぷりじゃないか」と、僕は彼女たち一人一人を見て、命令した。
「レピア、ファーラ、そしてナフィ。今後俺様のことは、ヴィラゴさまと呼べ。なお、本日、俺様の責め苦に耐えた御褒美に、特別に口調はそのままで許してやる」
「分かったわ、ヴィラゴさま!」
「ハッ! 分かったよ、ヴィラゴさま!」
「ナフィも了解なの! ヴィラゴさま!」
こうして、あまりの悪役っぷりに恐れ戦いた彼女たちは、僕に忠誠を誓ったのだった。
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