21.「魔王ターサの元の姿と能力」
「ヴィラゴ!」
「ヴィラゴさま!」
サユやレピアたちの悲鳴が響く中、僕は激痛に顔を歪めながら必死に思考する。
流石にこれはマズい!
どうしたら打開出来る!?
と、そこに、意外な声が響いた。
「我を『浄化』しろワン!」
「!」
魔王ターサの叫び声に、僕は目を見開く。
「ドMだったんすか、あんた!?」
「違うワン!」
雷撃でアンデッドたちの身体を焦がしながら口を挟むサユに、ターサが激しく突っ込む。
何だ、違うのか。
「フフフッ。何をしようが無駄ですよ」
マヴァヌが眼鏡の位置を直しながら冷笑する。
「良いから早くしろワン!」
よく分からないけど、やるしかない!
「ぐへへ。そこまで言うならやってやる。『浄化』」
固有スキル『浄化』の光がターサの身体を包み込む。
「……グウウウウウッ! ……アアアアアアアッ!!!」
更に強烈な輝きによって苦し気な声を上げたターサは、光が消えると。
「て、天使になっちゃったっす!」
「ぐへへ。いや、〝堕天使〟だろうな。それが絶対になりたくなかった〝あの姿〟とやらか。別に気にすることもないだろうに」
ゆったりとした白い服を着た白髪のセミロングヘア美少女の姿に変化していた。
ただし、頭上に浮かぶ天使の輪っかは漆黒で、その背に持つ翼も同様だ。
「『超増幅』」
スーッと舞い上がったターサが手を翳して、可憐な声でそう呟く。
「フハハハハハ! やはり君は〝落ちこぼれルッフェル〟でしたか!」
突如マヴァヌが哄笑を上げた。
「……もう捨てた名だ」
「そうでしょうそうでしょう! さぞかし忘れたい名でしょうね! それもそのはず! 他者への攻撃を封じるために防御魔法・回復魔法のみしか使えないという制限を掛けられた天使たちの中で、それすらも使えず、『増幅』なんていう、クソの役にも立たないスキルしか持たないのが君なのですから! しかも、自身に使えるならまだしも、他者にしか使えないという、どうしようもないカススキルですからね! あ、そう言えば、変身魔法も少々使えましたっけ? まぁ、どっちにしろ君の使うショボい魔法ですから、さして変わらないでしょう! フハハハハハ!」
顔を仰け反らせて罵声を浴びせるマヴァヌ。
「あんた、何でそんなに詳しいし!?」
地中から次々と生み出されるアンデッドたちを炎魔法で倒しながら怪訝な表情を浮かべるカカスに、マヴァヌが鼻で笑いながら答える。
「それは勿論――ワタシも堕天使だからですよ」
「!」
マヴァヌの頭上に漆黒の輪っかが出現、背からは黒翼が生えた。
男の天使もいるのか、彼の性別は変わらないままのようだ。
「おっと、勘違いしないで下さいね。同じカテゴリーではありますが、そこの〝出来損ない〟とワタシではそれこそ天と地ほども違います。ワタシは数えるほどしかいない〝攻撃能力〟を持った天使でしたからね。強大な力を持っていたせいで堕天させられたのですよ。一方、君のお仲間である〝落ちこぼれルッフェル〟は、〝攻撃能力〟どころか、通常の天使が持っている基礎魔法すら使えなかった。きっと、使えなさ過ぎて堕天させられたのでしょう。フハハハハハ!」
「………………」
何一つ反論しないターサに満足気に目を細めるマヴァヌは、追い打ちを掛ける。
「ほら、見てみなさい! 君ご自慢の『超増幅』は何の役にも立たず、ヴィラゴの肉体は完全に崩れ落ちて、黒い塵と化しました! 君たちも全員、同じ末路を辿るのですよ! フハハハハハ!」
何度目か分からないマヴァヌの高笑いが。
「ハハハ……ハ?」
止まった。
「な、何でまだ生きてるのですか!? い、いや、それどころか、身体が完全回復している!?」
四肢が元に戻った僕は、風魔法で浮遊しつつ、動揺のあまり最も大きな変化に気付いていないマヴァヌに、親切に教えてあげた。
「ぐへへ。お前の目は節穴か?」
「グオ……オオ……ッ!」
「! そんな!? ワタシの魔神が!?」
左右に一刀両断され苦し気に呻く魔神にやっと気付いたマヴァヌが驚愕する。
「一体どうやって!?」
「ぐへへ。決まっているだろうが。ターサの『超増幅』だ」
「!」
「俺様の『増幅』は七つのスキルの一つでしかないが、今のターサはたった一つのスキルに全てを集中している。その効果は、俺様の『増幅』の比じゃない。回復魔法・解呪魔法・剣の切れ味と硬度、それら全てを格段に上げる」
「くっ!」
悔し気に歯噛みするマヴァヌは、「それで魔神を倒したつもりですか!? 甘いんですよ!」と、手を翳す。
魔神の切断面から無数の触手が伸びて、半身同士を引き寄せようとする。
「フハハハハハ! ワタシの魔神は不滅ですよ!」
勝ち誇るマヴァヌに、僕は呟く。
「ぐへへ。さっき斬った時にチラリと見えた」
「? 何を言って――」
「この魔神の肉体は、一体〝何〟によって構成されているんだろうな?」
「!」
僕は眼下の魔神に対して、七つ目の固有スキルを発動。
「『分離』」
「グオオオオオオオオオオオオオッ!」
断末魔の叫びを上げながら魔神は崩壊。
と同時に、内部に蓄えていた世界樹の魔力だろうか、虹色の光が放出される。
代わりに現れたのは。
「死体だわ!」
「ハッ! しかも、全員堕天使とはね!」
「十人もいるの!」
地面に転がる、少女の姿をした十人の堕天使の死体だった。
「ぐへへ。魔神は死んだ。観念しろ」
俯いていたマヴァヌは、天を仰ぐと。
「フハハハハハ!」
愉悦に身体を揺らす。
「それで勝ったつもりですか!? 忘れたんですか? ワタシの能力を!」
「!」
「さぁ、殺しなさい、堕天使たちよ!」
ゆらりと立ち上がった堕天使たちがふわりと舞い上がり、両手を構えると、その構えに相応しい武器――漆黒に輝く弓矢が生み出されて、僕に向かって一斉に射出される。
「ぐへへ」
その全てを撃ち落とさんとするが。
「! ……やるな」
『超増幅』によって強化されたはずの僕の『硬化聖剣』に十個の穴が開き、真っ二つに折れてしまった。
「フハハハハハ! ワタシと同じく〝攻撃能力〟を持った特別な堕天使たちです! 他の者たちと違い、その弓矢で人間を恋に落とす代わりに、人間に命を落とさせるんですよ! 存分にその威力を味わいなさい! ただ、まぁ、そんな強大な力を持つ彼女たちですが、天使は天界から下界に落とされると、呼吸が出来なくなるので、呆気なく死にましたけどね。そのまま朽ち果てるのも嫌だったでしょうし、この優しいワタシが死体を再利用してあげているのです」
下卑た笑みを浮かべて、嬉々として語るマヴァヌ。
「ん? ワタシが何故死ななかったか、ですか? ワタシは特別ですからね。変身魔法で下界に生きる生物の姿を模せば問題なく息が出来ることを直ぐに見抜いて、適応したのです。まぁ、彼女たちの場合は、もし気付いたとしても、変身魔法を使えなかったから、どうしようもなかったでしょうけどね! そんな彼女たちと違い、ワタシはこの通り、身体が完全に順応して、堕天使の姿になっても問題なく呼吸出来るのですよ!」
その間も堕天使たちの攻撃の手は緩まず、僕は風魔法で飛びながら、何とか漆黒の矢を回避し続ける。
「ぐへへ。『ファイアストーム』」
炎の嵐が、飛翔する堕天使たちに襲い掛かるが。
「炎が効かないんすか!?」
「ただのアンデッドじゃないのだ!」
流石は堕天使、一筋縄ではいかない。
「ぐへへ。『浄化』」
それならばと浄化の光で迎撃するが。
「フフフッ。残念でしたね」
特にダメージもなく、僕を追跡し続ける。
先に術者のマヴァヌを倒した方が良いかな?
でも、その隙に堕天使たちの攻撃を食らったら……
「まずは身体を斬る必要がある!」
ターサの声が戦場を切り裂く。
「そのために、我を再び『浄化』しろ!」
「!」
何かまた策があるらしい。
けど――
「ぐへへ。……『鑑定』……もう一度『浄化』したら、お前は〝死ぬ〟ぞ?」
「「「「「!」」」」」
ターサの状態を確認した僕の言葉に、仲間たちが目を見張る。
元魔王だからね。
一度悪に染まりきった存在を完全に『浄化』してしまったら、何も残らず、消滅しちゃうんだ。
目を閉じたターサは、静かに目を開いた。
「構わん。一瞬でも〝完全に元に戻れたら〟、それで十分だ」
「ぐへへ。分かった」
嘗て敵だったはずの魔王の決意に、レピアたちの瞳が揺れる。
僕は飛びながら、ターサに手を向けた。
「『浄化』」
天使の輪と髪が本来の金色となり、翼が純白となったターサが、眩い光に包まれながら叫ぶ。
「我が盗み、天界を追われる原因となった一振りだ! 有難く使え! 『エクスカリバー』!」
僕の手中に黄金の輝きを放つ長剣が出現した。
刹那。
「……貴様らとの冒険、存外悪くなかったぞ」
「!」
ターサの身体が、光の粒子そのものとなり、消滅した。
お読みいただきありがとうございます!
もし宜しければ、ブックマークと星による評価で応援して頂けましたら嬉しいです!




