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第2話 神との対話と告白

ふと気がつくと、真っ白な空間に立っていた。


自分が誰なのか、わからない。しかしそのことに対する不安は欠片もなかった。

この真っ白な空間はふわふわとして心地が良い。体も軽い。

しばらくふわふわとした感覚を飛び跳ねる様に楽しんでいると


「…こちらへ、来てしまったのですねレオノール」


いつの間にか後ろに女性が居た。


目元が布で覆われている、長い金髪の女性だった。

彼女の周りには光の粒子のようなものが舞っていて、優しい声で私に呼びかける。


(レオノール…?)


なぜだか聞き覚えのある響きを心のなかで繰り返す。

一拍置いたあとドッと記憶が溢れ出してきた。

流れをとどめられずに溢れ出した河の水のようだった。


「っ!」


自然と涙が溢れてくる目を押える。

目の奥に映るあの光景を、どうして忘れていたのだろうか。

私はレオノール。父の娘で……――


(ーー…どうやって死んだのだっけ)


「あなたを死なすために生を与えたのではないのです。どうか、もう一度生きていただけませんか…」


「…なぜ?」


死ぬということは、終わりということだ。

もう一度などありはしないのに、なぜだかこの女性はレオノールに懇願する。


「まだ、成すべきことが残っているからです」


「成すべき、こと…」


「はい…申し訳ございません、今のあなたには伝えられないのですが……()()()はいつでも見守っていますよ」


もう一度戻れるなら、戻りたい。

そして彼に伝えたい。

また話したい。今度は、プライベートなことを、思う存分。


「…戻りたい」


「任せてください」


口を笑みの形にした女性は光の粒子を手のひらに集めて、私に手渡す。

これを食べるというのだろうか、取り込むようにと促され口を近づける。

口を開け、飲み込むと自然と喉が潤う。

今まで喉が渇いていたのだとはじめて知った。


気がつくとまわりの景色も変わっている。

真っ白な空間だったはずなのに色とりどりの花々が咲き乱れ、爽やかな風が吹いた。


「―――ル!!…ーー!!」


遠くから、この空間ではないところから声が聞こえる。

惹きつけられるようにふらっと足を踏み出すと、女性はこう言った。


「彼のこともお願いいたします、レオノール」


「?」


彼のこととは…と考えたところで風が突然強く吹く。視界に花弁が舞い、ぎゅっと目を閉じるとそのまま意識が遠のいていった。




誰かが私を抱きしめている。

誰かが涙を流している。

誰か…誰だったか…


ゆっくりと目を開けると、とても綺麗な青色と目が合った。


「レオノール……」


彼は驚いた顔で瞬きもせずに私を見つめる。

私は確かに死んだ。

しかし、今生きている。体も痛くない。


「…レオ、ノール」


呆然と、そう呟くように私の名前を呼んだ瞬間痛いくらいに抱きしめられた。


「うっ…苦しい、セドリック」


そう声をあげると、少しだけ腕が緩んだ。

彼の腕は震えていた。


(ごめんね…)


今はただ寄り添いたくて、声も出さずにセドリックの背中に腕を回す。

彼は静かに泣いているようだった。

そういえば、私が目を閉じる前も泣いていたことを思い出す。


彼も同じ気持ちだったのだろうか。

それなら話しておけばよかった。

こんなにも泣いてくれるこの人なら怖がらずに、話しておけばよかった。


せっかく戻れたのに心を満たしたのは後悔だった。





「レオノール、なんで」


落ち着いたら当たり前の疑問にたどり着く。

迷ったが彼には本当のことを話さないといけないような気がした。


「たぶん、女神さまだと思うの。まだ、『成すべきことが残っている』から戻らせてもらえました」


「女神…」


戸惑った顔で視線を落とし、私の両手をそっと握る。私が流した血がそのまま付いている。

傷口はすっかり塞がり、痛くもない。きっと治癒されているのだろう。


「成すべきこと、とは…?」


「…わからない、でも、貴方のことを頼まれた…ような気がする」


「俺のこと…?」


彼のこともよろしくと言われたが…果たしてセドリックのことなのか、はたまた、別の誰かのことなのか検討もつかなかった。


2人して首を捻るがわからないものはわからない。


「セドリック…さん」


もうわかってはいるが言葉にすることは大事だ。

意を決して呼びかける。


「…俺もレオノールと呼ぶから、セドリックで」


無表情になった彼は静かに新しい呼び方を示した。


「は、はい、えっとセドリック、あの…」


聞きたいことは一つだけなのだが頭の中には色んな言葉が飛び交って、なかなか口にできない。

わたわたと口を開いては閉じを繰り返していると。


「……好きです」


「……え」


自分ではない声で、告白が響く。キョロキョロと彷徨わせていた視線をゆっくり彼に戻すと、真っ直ぐな眼差しをぶつけられた。


「っ…」


「…気づいてはいました。でも、こんなことにならないと言い出せなかった」


彼は私の血だらけの手を握りしめて言う。


「…大好きです愛しています、レオノール」


「わ、私もです、大好きです。セドリック」


私の言葉に、彼は花が開くようにふわっと表情を崩した。

慎重な手つきで私の体を支えて、彼の膝の中へと誘導すると、後ろから囲い込むように腕の中に閉じ込められる。


「…本当に大好きなんです、戻ってくれてありがとうございます」


「…戻ってこられてよかったです」


(貴方を一人にせずにすみました)




ここがピークなのかというくらいイチャイチャしてる…


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