旧き血脈の姫と、彼方より来たるもの
皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!
さてさて「血統主義」ということで、またしてもね、個人企画?への参加作品となっております。こういう企画もの(いかがわしいビデオみたいに言わないでね)って、普段なら書かないようなお話を書けるから楽しいですよね。
ということで、本編スタートです!!
尊きこの血を、より強く、深く交えよ。
そう言って、お爺様は今夜もわたしを呼ぶ。周りの人たち──お父様やお母様、叔父様や叔母様たちを見ても、誰も何も言ったりはしない。数百年にわたって脈々と続くこの一族の創始者であり、その長命と圧倒的な魔力によって歴代の王様からも畏れられてきたお爺様の言葉に、わたしたちの誰も逆らえやしない。
だから、わたしは今夜も言葉を飲み込む。
こわい、も。
いやだ、も。
きもちわるい、も。
たすけて、も。
わたしは、全部飲み込んで「血を濃く」していく。
* * * * * * *
「ねぇタニア、タニア、外には行かないの?」
「なに、急に」
“修行”の合間にそんなことを尋ねてきたのは、コウタという男の子。わたしが今よりずっと小さかった頃、ニュホンっていうところからきたと言っていた。身寄りがなくて、更には最低限の魔力さえなくて、いつ魔物に食べられても不思議じゃないところをお母様が見つけてうちに連れてきた。
『うちは特別な家だから、人と関わる練習をこの子でしておきなさい』
どこか汚いものみたくコウタを見ながら、お母様たちはわたしにそう言った。みんなが一族以外の人たちを嫌っているのは知っていたから、お母様たちの様子も変だとは思わなかったけど、小さい動物みたいに縮こまっているコウタはそこまで汚いものには見えなくて。
だから仲良くなりたいって思ったのが、最初。
それから何十かの季節を見送って、今に至る。
どうやらコウタは短期間ですごく成長する子だったみたいで、前はすごく小さかったのがずいぶん背が伸びて、わたしとそんなに変わらなかった声も今では低くなって、体つきもお父様や叔父様たちと比べても引けをとらないくらいしっかりしている。わたしの方がお姉さんだったはずなのに、見た目だけならもう逆になってしまったみたい。
そんなコウタが、わたしをまっすぐに見て問いかけてきていた。
「タニア、日があるうちはずっとこの部屋にいるじゃないか。かと思えば夜になると部屋からいなくなって戻らないし……どうかしたの?」
「どう、って……うーん」
そうだ、コウタは何も知らない。
わたしが、コウタほどではないにしても、少しだけ成長した頃。
それまでわたしと同じ部屋で寝泊まりしていたコウタは、わたしの隣の部屋で生活するようお父様から命じられていた。確かにあのときは妙にふたりの間がギクシャクしていたというか、わたしの着替えとかは絶対見ようとしなくなったし、身体を清めるのだってわたしと同じタイミングを避けるようになっていた。
それに、魔力もないからわたしよりも全然弱っちぃくせに、わたしを守りたいと言ってお父様から体術を習おうとしていて、今もその修行の最中だ。魔力もなくて、大気のマナすらも取り込めないから本当に形しか真似できないらしいけど(そんな人、この世界に本当にいるのかな?)、お父様が言うには『魔力さえあればそこそこやれるはず』らしい。
考えてみたら、コウタは不思議な子だ。
魔力がない人なんて、うちに入れ替わり立ち替わりやってくるお客さんたちの中にはひとりもいなかったし、外に出られない代わりにと与えられた本に書かれた物語の中でさえ見たことがない。そんなの、最低級の魔物にだって食べられちゃうじゃないの。
けど、そのくせわたしよりいろんなことを知っているし、いろんなお話を聞かせてくれる。食べるとおいしい草とか、より快適に眠れる過ごし方とか、いろんなことを教えてくれるし、いちばん面白かったのは、『誰も魔力を持ってなくて、血統の長さや純度で物事の序列が作られない国』のお話。
『えー、そんなのないよ、ありえない!』
『それがありえるかも!』
コウタの話し振りは真に迫っていて、もしかしたら本当にそんな国があるのかも──なんて思ってしまうほど。
他にもとても硬くて大きな翼を持つ巨大な船とか、魔力も使わないのに人の手を離れて動くモノの話とか。あるはずもないものの話を、コウタはいつも本当のことみたいに聞かせて、知らない世界に思いを馳せさせてくれる──“血を強く、濃くする”という役目を、忘れちゃうくらいに。
でも、そんなコウタも知らないんだ。
わたしが何のためにこの一族のなかで生きているのかも、そしてお爺様の“神殿”でしていることも。
だから。
「どうもしないよ」
それだけ、答えた。
お爺様から直々に役目を負うなんて光栄なはずなのに、みんなからそう言われているのに、どうしてかコウタにこのことを言うのは嫌だったから。
「そうなんだ……、あのさ」
どこか安心したような声を出したあと、コウタはまるで小さな子のように目を輝かせながら言った。
「いつか僕らが大人になったら、旅をしてみない? そりゃ、今はまだいろいろ危ないし、僕らもまだ子どもだけどさ。それでも、タニアが昔見たいって言ってたものを……いつか一緒に見たいんだ」
なんか変なこと言っちゃったな──小さな声で付け足して、キョロキョロと目を泳がせてから、「だから僕は、もっと頑張るよ。ちゃんとタニアを守れるようにね!」と、少し血色のいい顔で言って、修行に戻っていった。お父様に何か言われているような声が聞こえたけど、なんだかそれに耳を澄ます気にはなれなくて。
「そんなこと、言ってたっけ……」
どこも怪我なんてしてないのに、胸の内側がちょっとだけ痛くなった。
前書きに引き続き遊月です。本作もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪
血統というと皆様何を思い浮かべますか? やはりメジャーどころでいうとあの奇妙な冒険だと思うのですが(その血の運命! ジョォォォォォォ●ョ!!!!)、そうですね、ここは作者の青春の一部といっても過言ではない、運命の名前を冠した美少女ゲーム原作のコンテンツについて語りましょうか。
そのコンテンツでの私のいち推しは、揺らぐことなくあの(2023年初頭にソシャゲコマーシャルに見せた)無敵の笑顔でメディアを荒らし、誰かを好きになることがわからずにいたもののそんな自分について苦しみ抜いた後とある王様に見出だされたことで他人の苦しみで潤う自分の心に気付いてしまった神父なのですが(中学校時代、聞き取りテストの「美容院に入った人が、みんなキレイになって出てきました」のくだりで思わず変な想像をして笑ってしまった遊月です)、そうですね……。強いて言うなら、某薄幸ラスボス系ヒロイン(劇場版で堂々たるヒロインっぷりを見せてくれましたね)のお義兄ちゃんも推しだったりします。なまじ他のことがこなせていただけに、家で重んじられる魔術の才能だけなかったのが哀れでなりませんね。劇場版2作目で最初に私の涙腺がゆるんだのは、彼の「僕を見ろよ!」という怒号でした。それにしても、そのお話のヒロインの堂々たる成人向けゲーム的設定も印象的ですが、2000年代半ばに現れた同人ゲームだったはずのこの作品が、スピンオフ(前日譚)や外伝作品なども作られてアニメ化し、更にはソーシャルゲームになって、ついに去年あの神父がガチャ実装されたわけで、いや、歴史というものを感じますよね。原作が出た年に生まれた子がもう20歳になるって……本当ですか? いやぁ、めでたいですね。
閑話休題。
血統主義ということで、最初は某RPGの外伝作品の配合システムみたいな雰囲気で、ゲーム世界に召喚されてしまった異世界の王女的な娘がゲーム少年たちの操作で様々なモンスターたちと「配合」させられて……みたいな話を考えていたのですが、恋愛に絡めるの難しくないか?と思ったので今回の話に落ち着きました。
いやぁ、こういうお題が決まっている企画って、普段物語を書くときとは違う脳を使っているような気がしますよね。おらワクワクすっぞ!
ということで、また次回お会いしましょう!
ではではっ!!