第三話 ココハハカタ
私はトオルの手助けにより、チキュウのニホンで暮らすことになった。
ちなみに私が暮らす都市の名前は"フクオカ"というらしい。
ニホンという国の中に"キュウシュウ"という大陸があって、その中のフクオカという都市があるそうだ。
厳密に言えば、さらに場所によって街に名前がついているらしく、確か私が住む街は"ハカタク"って言うらしい。
「…まず、じゅなは日本の文化や常識に馴染む必要があるし、学校に通わせようと思う。」
トオルは私にそんなことを言って来た。
私はアリエナ魔法学園を最年少で卒業したし、今更、学校なんて…と正直思ったのだが、どうやらこの国では多くの子供が18歳まで学校に通っているのが普通らしい。
中には15歳で働く人もいるとのことだが、私はまだ何も知らないので学校に通いなさいとのことだった。
「今日はもう疲れただろう?明日は幸いにも休みを取れるから、一緒に街を観てまわろう。服はこっちのを揃えた方がいい。性別が違うから困ることもあるだろうが…下着のことはお店の人に聞いてみよう。あと、お風呂は直接火は使わないんだ。科学の力でなんとやらだ。やり方を教えてあげるから、今日は俺の服しかないが、ジャージを貸してあげるから、それを着て寝なさい。」
トオルはインフェリスに転移した際に親切にしてもらったことを思い出していたようだ。
トオルからしたら突然、召喚されたわけだから、誘拐されたようなもので、当然 最初は憤りや不安もあったと笑って言うのだが、なんだかんだインフェリスの勇者としての冒険は楽しく、いろんな人に成長させてもらったと感謝していた。
「…その恩返しを、じゅなにしてるだけだよ。俺は勇者だからな。」
ニコッと笑うトオルを見て、私は今悩むことはやめようと少し安心することができた。
「元・勇者でしょう?…そ、その…いろいろ…あ、ありがと……。」
気にするな!と笑うトオルから、私はお風呂のやり方を教えてもらい、湯船につかる。
「…いろいろ考えてしまうけど、分からないことが多いなぁ。……お湯が気持ちいいや。」
これからのこと、考えても分からない。
今はトオルに助けてもらえることに感謝して、今を生きるしかない。
魔法が使えないことが、とても不便で不安で怖い。
…私しか聞こえなかった、あの声も。
考えないようにしても、考えてしまう。
そのうち、結構時間が経ってしまったようで、トオルから心配する呼びかけがあった。
慌ててお風呂からあがり、今日着た下着をまた着けるしかなかったのだが、その上から"ジャージ"を着てみることにする。
「…これ、どうやって前を閉じるのかな?」
"チャック"のやり方が分からず、あたふたしていると、再び扉の向こう側、トオルから呼びかけがあった。
「じゅな、大丈夫か?」
今、私は前がはだけている。
15歳の女性として、流石に見られるのは嫌だな。
だけどやり方が分からないので、もういっそトオルに聞くことにしよう。
覚悟を決めて勢いよく扉を開く。
片手で体を隠しながら、トオルにやり方を聞く。
「あ、あの!これ閉め方が分からなくてっ!」
トオルは目のやり場に困りながらもチャックの閉め方を教えてくれた。
…そしてなんとかジャージを着ることが出来た。
「てかじゅな!扉開けなくてもやり方は今みたいに口で説明出来たぞ!」
……あっ!
恥ずかしくなり、私はまた顔を夕陽のように真っ赤にするのだった。