動点問題(動く点P)vs確率問題(箱内の赤白球)
本当になんか襲われた、のノリでバトルが始まります。あとキャラの設定は能力以外ありません。
でも、もしも『面白い』、『この話しをシリーズにして欲しい』、『この問題でバトルして欲しい』、等がありましたら、感想で教えて下さい。書かせて頂きます。
殺気を感じ、彼はしゃがんだ。直後、ナイフが頭上を通り過ぎ、物理に反した動きでぽとりと落ちる。それを確認する間もなく、彼はその場から飛び退いて辺りを見回す。
「―――ッ!?」
ジャンプ。その場にしゃがんだままだったら、阿呆みたいな速度の小石に足を撃ち抜かれていただろう。そして、見つけた。なんの捻りもなく、ただ真後ろから。大胆に。
「動く点Pか」
「せいかぁい♡」
女のニヤリとした笑いとともに、その手が近くにあった車に触れられる。
ボッ。
車が、発射された。比喩ではない。本当に、車がぶっ飛んできたのだ。
動く点P。それは、速度の問題から図形まで。小学校から、受験まで。ありとあらゆる場所に出現し、多くの人間の頭を悩ませてきた数学の問題だ。そして、その能力は『動点Pの設定』。触れたもの1つを、動点Pとして設定した軌道上を自由に動かすという、単純に使いやすい能力だ。それに対し、
ポポポポポン。
赤赤白赤白。車に赤と白のボールのマークが浮き出た。しかしそれだけで、何事もなく車は直進する。
「あああああっ」
泥臭く、彼は横に飛んだ。それは見事なハリウッドジャンプで、絶対に死んでたまるかという意志を感じるジャンプだった。
爆発。
ゴロゴロと転がって、即座に起き上がる。転ぶことにも、吹き飛ぶことにも慣れている。雄叫びを上げながら、彼は女に向かって走り出した。それを見た女が、その場にある石を拾おうとする。また、弾にするつもりなのだ。しかし、その腕には、ボールのマークが。触ろうとしたボールが転がり、手からすり抜けた。触れられなかった。つまり、能力が発動しない。
「使いにくそうな能力のクセにぃ」
箱内の赤白球。言わずと知れた、確率問題の代名詞だ。ただただ面倒な計算を強要される問題。その能力は、『確率の設定』。ランダムにその日のボールの数を設定され、任意の順番で取り出す。その確率を、視界内に存在する物体の行動の成功率とする、という、回りくどく、解りにくい力だ。しかし、
「くっ」
近づければ、『この攻撃が相手を気絶、もしくは殺害させる確率』を操作出来る、凄まじく強い近接能力になる。女はバックステップで男から距離をとった。コンッとつま先で蹴られた小石が、弾丸のような速度でかけていく。それを軽く横に跳んで回避。しかし、くにゃり、と小石の軌道が曲がった。軌道設定が上手い。明らかに、回避タイミングを読まれていたと解る軌道の設定だ。
「ぐぅっ」
辛うじて身体を倒し、コケるようにして殺人小石を回避する。
「奇妙な避け方をぉ!!」
口では毒づきながらも、女は攻撃の手を緩めない。脚のホルスターからナイフを抜き取り、ヒュン。発射した。
赤白赤赤白白赤白。
しかし、凄まじく低く設定された行動の成功率が命中を許さない。そのまま素早く起き上がり、女の元へ駆け抜ける。2人にロマンチックな雰囲気は欠片もない。鬼気迫る表情で追い、逃げる。
「ああもう、逃げるな!!」
キレ気味で男が叫ぶが、女は知らん顔で返す。
「待てって言われてぇ、待つ馬鹿が何処にぃ!?」
ナイフを投げ、バックステップ。しかし、その脚にはボールのマークが。
笑ってしまう程あっけなく、コケる。すでに男は体を沈め、ナイフをスカしている。確実に距離が詰まった。至近距離だ。
「らあああっ」
顔面に拳が突き刺さる。本日の玉の数は、赤5つ、白5つ。その中から任意の色の玉1つを取り出せる確率は、5/10=1/2。つまり50%。しかし、そんな確率に頼るまでもなく、拳とアスファルトのサンドイッチになったらば少なくとも気絶する。(下手すれば死ぬ)ここから巻き返すようなことは、普通の人間なら出来ない。しかし、女の身体がぐりんと独楽のように回転し、拳からすり抜けた。
「は?」
そのまま男はたたらを踏みながらも女に追撃をかけようとする。拳には、赤いボールが1つ。人体で避けにくい場所の一つである腹を狙ったその拳は、服にひきずられるようにして宙を飛んだ女に当たることは無かった。
「顔面なんて、さぁいてぇいぃ」
口を切ったらしく、親指で口元を雑になぞりながら女は言う。
「でもぉ、貴方の倒し方ぁ、解っちゃったぁ」
トン。
愛おしそうに、女はショーウィンドウを触る。
怪音。
バキバキとも、ベキボキとも聞こえる音が辺りに鳴り響いた。
「…………………マジか」
馬鹿でかいガラスが、宙に浮いた。
「貴方は、1つにしかぁ、付与出来ないものねぇー」
パリィン。ガシャァン。そんな音と共に石が飛び、硝子の雨が降り注いだ。女はちゃっかり車を傘にしている。
「くっっっっっそおおおおおおお!!」
生存率、赤1個分。重症率、100%。天気、晴れ時々、硝子の雨が降るでしょう。
「さて、死んだかしらぁ?」
「生きてるさ」
ゴッ。
マークの付いた石が女の頭に当たる。50%は、ハズした。奇跡的に何処も急所に当たっていないとはいえ、全身血だらけ、力も全く入らない。歩くのが限界だ。何かを投げただけでも倒れるだろう。だが、
「俺の箱内の赤白球は、いつだってワンチャンくれる。が、堅実にいこうとすると、大体がハズれるっていうクソっぷりだ」
「何を言ってるのかしらぁ?」
―――ワンチャンにかけるって言ってんだよ。
それを言葉には出さず、男は拾ったナイフをぶん投げ、ドシャリと音を立てて倒れた。が、視界には入っている。己の幸運に笑いながら、ナイフの行方を凝視する。あとはただの、『お祈りゲー』。しかし、
「―――っ!?させないぃ!!」
女が石を蹴り上げ、点Pと化したそれがナイフを弾き飛ばす。男がナイフを投げた。それだけで警戒に値する、故にそのナイフを弾く。その思考は間違っていない。間違っていないが、
「!?マークが………」
ガイィィィン。
マークの無いナイフが、信号機のワイヤーにぶち当り、グワングワンと信号機をゆらす。一体どれほどのエネルギーが込められていたのか、真っ二つに割れたナイフはそれでも、信号機に直撃した。
彼の能力は、『行動の結果起こる出来事』に対する確率、『行動中の出来事』に対する確率を選択出来る。――だからといって、対象の次にする行動が解らなければ前者は使えないが――。つまり、自分がナイフを投げた事によって、信号機が大きく揺れる確率を50%にしたのだ。そして、
(信号機が落ちる確率、赤1つ)
グワングワン揺れる信号機のワイヤーが、切れた。
「ちょ………………待っ―――」
パクパクと口を開け閉めしながら、女は信号機が落ちていく様を見ている。思考が身体に追いつかない。ただ、ゆっくり、ゆっくりと、車が押しつぶされる様子を、眺めるしかなかった。
ど、ぉおん。
爆音がして、彼女の視界が黒く染まった。
「もしもし、救急車を―――」
ため息をついて、男はスマホを取り出す。全てを伝え終わった後、気が抜けたのか、彼も思考を手放した。2人は死んだのか、生きているのか。それは、まだ誰も知らない。今は、まだ―――。
シリーズにしたい、が来た場合、キャラの設定から考えて、マジでシリーズにします。