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ト伝 vs 一刀斎  作者: 古河 渚
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▼ 下山の決意 ▼

▼ 下山の決意 ▼


 水月の山ごもりの修行は続いていた。なんとか冬を越して春になると、食料探しの時間も減り修行の時間が増えてくる。やがて夏になり、山に籠ってから一年ほどたつ頃には、木刀での立木打ちが日に八千回になった。滝壺降下では瞬時に十回木刀を振り回せるようになったので、高さが二間半ほどの木の幹から平坦な地面に飛び降りながら木刀を振り回す練習を始める。だが、どんなに振り回しても、降り立ったときにバランスを崩すことは無かった。

 水月は、その降り立った地面から一瞬にして一間の高さにまで飛べるようになっていた。そして、竹槍たけやりを持てば、百発百中で泳ぎ回るイワナを突き刺せるようにもなっていた。


 ある日水月は夢をみた。夢の中では水月は桔梗と二人で神子上村の寺の境内にいた。月明かりに照らされた夜である。だが、それは意味のない夢ではなかった。実際にあった出来事を元に構成されていたのである。

「水月、どうしたの? しっかりして」

「ああ、でも俺は役立たずなんじゃ。この前の戦でも役に立たんかった」

「いいじゃない。水月は水月、典膳は典膳なんだから……。運が無かっただけよ、戦手柄なんて運が有れば手に入るのよ……」


 一昨年、里見勢が対立する万喜城まんぎじょうを攻めたとき、典膳も水月も出陣していた。その中で典膳は、大力大豪で有名な正木炊膳まさきすいぜんと一騎打ちになり、引き分けるという出来事を経験して家中でおおいに名を上げたのである。一方、水月には戦手柄も目立った働きも一切なかったのだ。

「俺は典膳に大きく水を開けられてしもうたんじゃ。なんとかせにゃ、このままじゃだめなんじゃ」

「水月、きっとこれからよ。これから運が開けてくるのよ」

 桔梗は両腕で水月の頭を絡めると、それを自分の胸の中で愛おしそうに抱きしめた。胸のふくらみが水月の顔でつぶれてもかまわなかった。

「水月……、わたしを抱きしめて、桔梗を離さないって約束してっ」

 水月は返事をしなかった。その代わりに顔を胸から離すと、桔梗のやわらかい唇に口づけた。口づけをしたままで片手が桔梗の着物の身八つ口に侵入する。もう一つの片手が着物の裾を乱すと、桔梗の艶やかな脚が月の光に白く輝いた。二人は地面に倒れ込む。水月の手は桔梗の着物の胸をはだけで胸を荒々しく揉みしだいた。桔梗の乳房はこの世のものとは思えないほど柔らかく、やがて彼女の胸は大きくうねり、荒い呼吸が静寂に中に響きはじめる。そして水月の股間も信じられないほど激しく硬化していた。胸を揉みながらもう片方の手を股間に這わせていった。

「ああ、桔梗、桔梗、お前が好きだ。俺と添い遂げてくれ……、なっ、俺たち夫婦めおとになろう」

「水月、きっとよ。わたしを一生守るって約束してね」

「誓うよ」

 水月は増大した欲望を満足させようと身体を動かしていく。

「ああ、水月……、水月……」


 水月が股間を地に擦りながら夢が覚めると、下履は濡れていた。甘い夢の中での射精だった。でも夢の中の一部、強くなったら夫婦になろうと約束したのは本当のことだった。

 水月はそろそろ山を降りてみようと思い始める。

「桔梗、俺は少しは強くなったような気がするんじゃ。今度の冬が来る前に一度山を降りて、お前に会いに行こうと思う。そして、安房あわを出て、修行の成果を世に知らしめてから、お前と夫婦めおとになろうと思う」

 水月の二度目の夏が過ぎて行く。


 水月は山を降り武者修行に出る前に、桔梗に会って自分が生きていることを示そうと思っていた。だが、神子上村に向かう方法として自分が落ちた沢を戻りたくはなかった。生まれ変わった自分を見せるには、来た道ではなく初めて行く道で行かなくてはならない。水月は南房総の山々を越えて安房の海に出ようと考えていた。とにかく南に行けば海に出るに違いない。尾根の上の高い木に登ったときに、南の遥か彼方に海が見えていることを知っていた。

 水月は落下した沢の近くに作ったネグラを捨て、半里ほど南にある別の沢にネグラを移した。



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