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ト伝 vs 一刀斎  作者: 古河 渚
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▼ 神子上の系譜 ▼

▼神子上の系譜▼


 終電に乗り遅れたのは、最初に話を聞き始めた私と偶然臨席になった男の二人だけではなかった。卜伝の弟子と一刀斎の弟子の死闘、いや数奇な運命の話に、そこにいた多くの人が引き込まれていたからだ。


 剣豪好きが集まるバーに現れた若い女性の話が終わった後、どよめきに混じって、いくつかの声が上がる。

「でも、どっちが勝ったのか明白じゃなかったみたいだけど」

「いまの話って事実なのかい? そんな決闘があったなんて聞いた事ないけどな」

 彼女はタイトスカートの裾を直してから話を続けた。

「どちらが勝ったのかを示す、二つの話があります。


 決闘から十四年後に、生き残った男、つまり小野次郎右衛門は江戸城内で柳生兵庫助とすれ違ったそうです。兵庫助はたぐいまれな才能を買われて、加藤清正に恋われて剣術指南役になったのですが、訳あって清正のところを出奔してしまって、その理由を釈明するために江戸に呼ばれていたとのことでした。もちろん兵庫助はかつての立会いで次郎右衛門に手玉に取られたことを忘れていませんでした。

 元々、典膳と水月は従兄で歳も一歳ちがい、体型と顔つきは少し違ったけど、十四年後で、しかも一度だけしか会っていない相手ですから姿を見ても確認できはしないでしょう。でも、兵庫助は付いてきた弟子に言ったそうです。


『小野殿は、どこぞで新しい技でも身に付けられたのじゃろうか?』

『何か、腑に落ちませぬか』

『うむ、十四年前に立会うたときには、姿形がぼけてしまって目付めづけができんかった。それで負けを認めざるを得なんだが……、だが、あそこに行く小野殿はどうじゃ、姿形がはっきりとしておる』

『では、立会えば勝てると』

『そこよ、腑に落ちんのは。目付めづけはできようが、踏み込んで打っても見切られよう。後の先を取られて儂が斬られることは必定じゃ』

 兵庫助はそう言ったそうです。兵庫助ほどの達人でなければ解らなかったのでしょう」


「なるほど、とても興味深い話ですね。ところで、あなたはどういう生まれの方なのですか。一刀流と深い関係でもある方なのですか」

「私の姓は斎藤です。でも母方の祖母の姓は神子上でした。祖母は去年亡くなりましたけど、私を母の実家によく連れて行ってくれました。そこは、今の千葉県の南にある、そう、かつての神子上村でした。祖母の家にある古いくらから桐箱に入った十巻の古文書が発見されたんです。それは、伊勢神子上流系譜という名の書物でした」

「その中に今の話が書いてあったんですな?」

「はい、その桐箱の中には古文書の他に、臍の緒のお守りが入っていたそうです。

 古文書の最後の巻には二人の署名が書いてありました」



    伊勢いせ 神子上みこがみ 流系譜    完


    寛永二年 正月吉日

                    神子上水月義直

                      妻  桔梗



     <了>  


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