旅立つ理由はひとつだけ
突然ですが、僕の一つ年上の幼馴染みはとても変わっています。
特に印象に残っているのは、季節祭の時に必ず『神殿に行ったら祝福が贈られるから、絶対に行かない』と言い出すことです。
そもそも祝福は、魔力に長ける人にのみ授けられる、光栄で名誉なものと云われています。
なので自分でそれを贈られると言っておきながら、不遜にも拒否する態度の彼女は、周囲から変人だと思われて仕方なかったのかもしれません。
他にも昔から妄言、奇行が多い彼女を冷たい目で見る人もいました。
けれど僕の目に映る彼女は、決してそんな人物ではなかったのです。
どんなことをするにも必ず、彼女なりの理由があって、信念があった。
だから、今年の春の季節祭で彼女が神殿へ行ったのには、何か理由があるのだと思います。
それが何であれ、僕に出来ることはひとつだけです。
彼女を迎えに帝都へ行って来ます。
――君のことが、好きだから。
旅立つ理由なんて、それだけで十分です。