24匹目:幸運の猫とフェーヴ 6
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何やらよく勘違いをされているが、もともとジェマは話を聞くだけだと宣言している。
それは様々な柵に関わることが面倒くさいからでもあるし、そもそも貴族的な事情を考慮できないので何も言えることがないからでもある。責任が取れないとか取りたくないとか、それ以前の問題なのだ。
それではなぜアンジェリカには余計なことを言ってしまったのかと、ジェマは自身の失態について結構真剣に考えた。
そして出た結論は、なんとなくそんなに大事にならなさそうな雰囲気があったから、だった。
なんのかんのと理由は付けられていたが、アンジェリカがその気になればリリアンを退学させることなんてすぐにでも可能だったのだ。
リリアンはマグワイア魔導学園の中では特別優秀な生徒というわけではない。奨学金を貰っていたり、ジェマのように世話になっている後見人もいない。普通に学費を支払って通っているのだから、学費を支払えない状態にしてしまえば良い。
正当な理由もなく大公令息の周りをうろちょろして、公爵令嬢に不敬を働き続けた。いくら学園内での出来事、入学したばかりの1年生、叙爵されたばかりの男爵家の令嬢と少し甘く見てやる条件が揃っていたとしても、けれどリリアンの行いすべてが許されるほどでもない。たとえアンジェリカが本格的にリリアンを排除しようと動いても、それを責め立てるのはエリオットとリリアンくらいだっただろう。
アンジェリカがそれを厭うたことはわかっている。きっとこれ以上エリオットに嫌われたくはなかったのだろう。
無理やりリリアンを引き離すこともできず、裏で手を回して知らん顔することもできず。馬鹿正直に向き合おうとして、でも話し合うことすらできなくて。
結局いつもの通りに2人揃って決断から逃げた結果が、今日のこのカオスである。
制止しようとするベルノルトの腹を思い切り拳で殴りつけ、ぴんぴんしている彼を見上げて威嚇する。
対応に困る優しい騎士に八つ当たりをしていることは重々承知している。しかし八つ当たりでもしてなければやってられない。どうせじんじんと痛むジェマの拳の方が重傷なのだ。「許せ!」とぺたりと耳を垂らしながら怒りにまかせて睨みつけると、猫好きの騎士は手を彷徨わせながら1歩下がってくれた。
無言のまま柱に縛り付けられたリリアンに歩み寄る。目を瞠って震えるリリアンの前に膝をつき、固い拘束を1つずつ解いていく。なかなか取れない拘束にイライラと尻尾を揺らしながら、それでも手は止めなかった。
猿轡に手を伸ばしたとき、リリアンの水色の瞳と目が合ってジェマはふと首を傾げた。
(こいつ、アンジェリカ様には全力で食ってかかるくせに、どうしてわたしには微妙に及び腰なんだろ)
もしかしてヒロインを乗っ取ったことで恨まれているとでも思っているのだろうか。
思い返せば、ジェマは星降るなんたらというリリアン物語のことを『知らない』とハッキリ伝えたことは1度もない。まともに返答しないということがデフォルトになっていたせいで深く考えてはこなかったが、リリアンは初めからジェマがその物語を知っているという前提で話を進めていた。
そのせいで、リリアンはジェマに怯え続けてきたのだろうか。
猿轡を外しても静かなままのリリアンをじっと見つめて、思わずへにょりと尻尾を垂らした。
いくら人の話を聞かないことに定評のあるリリアンでも、ずっとジェマに無視し続けられてきたことに気が付いていないわけがない。それでもこれまで一言も苦情を言ってこなかったのは、ジェマの反応に興味がなかったわけではなかったのかもしれない。
リリアンはリリアンで必死だったのだなとすとんと実感した。だからといって庇い立てする気も手を貸してやる義理もないが、リリアンなりに頑張っていたことは覚えておいてやろうと上から目線で頷く。
「……あんたなにしてんの?」
「いや……。お前のことは嫌いなんだけどさ、このままだとなんか高位貴族のお遊びに付き合わされて無駄に時間を浪費しただけっぽくなるでしょ。それが気に入らないんだよね」
「……はぁ? 頭腐ったわけ?」
「それにお前ももうここまで来たら不敬の1つや2つ追加しても罪の重さはたいして変わらないし、言いたいことあるなら今言っとかない?」
直訳すると『1番口が軽そうなお前が引っ掻き回してこい』である。
アンジェリカとエリオットは婚約してからもう約15年経つと聞いた。ジェマの両親は付き合い始めてすぐにジェマを身ごもって結婚したらしいので、下手したらアンジェリカたちの付き合いの方が長い可能性もある。もう少し話し合えば済むなんてそんな段階ではないのかもしれないと思い至った。
「お前の中の物語ではどうだったか知らないけど、現実のあの2人の関係は破綻してたわけじゃなかったんだろうね。好きな物すら知らなかろうが、お互いの悩みも理解できなかろうが、別にそれで良かったんでしょ。どれだけ仲が良くても全部を知り尽くしているから仲が良いってわけでもないし、知らないことだらけだからこそうまくいくことだってあるし。色々悩みはあっただろうけど、それでも別れるって選択肢が出てこないくらいには一緒にいるのが心地よかったってことなんじゃないの?」
恋愛なんてたぶん、周りからどう見えていようと当人たちが納得できればそれで良いのだ。どれだけ話し合いをしても気持ちがうまく伝わらないこともあるし、何も話さなくてもなんとなく折り合いがつくこともある。
要するに、そんな屁理屈を捏ねたくなるくらいにジェマは飽きた。




