24匹目:幸運の猫とフェーヴ 4
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「アンジェリカ様はシンプルにやりすぎです。なんですか毒って。どれだけ馬鹿になってるんですか。だからちゃんと言いたいことを決めておきなさいって言ったでしょ!」
「えぇと、そんなつもりじゃなかったのだけれど……」
「言い訳無用! だめ! 毒! 迷惑!」
「ご、ごめんなさい」
べしべしと椅子を打ちながら、ジェマは手で大きくバツを作って掲げた。勢いでぽろっと本音が出たような気もするが、まぁ良いだろう。ここまで来たら不敬もクソもない。身体的に害を与えなければ許されると思いたい。
エリオットの皿に乗ったアップルパイを鷲掴みにする。手掴みで持ち上げたアップルパイにがぶりと齧り付いた。
「おいお前何を! やめろ!」
焦るエリオットを無視して、ジェマはアップルパイを咀嚼する。唖然とするみなの視線を浴びながらもぐもぐと味わって、ほっぺにぱんぱんに詰め込んだパイをごくりと呑み込んだ。
唇に付いた赤いソースをしっかりと舐め取る。
ぽかんとあほ面を晒すエリオットにべぇっと舌を出して、口の端を吊り上げた。
「毒でもなんでもないですね、アンジェリカ様?」
感情を読ませない微笑みをぴくりとも揺らがせなかったアンジェリカが、困ったようにため息を吐いた。しょんぼりと眉を下げて、金の瞳をゆらゆらと揺らす。
普段よりも白い頬に手を添えて、ふわりと柔らかく微笑む。
「……さすがにここまですれば、エリオットの気持ちも聞けるかと思ったのだけれど」
「だから普通に引っぱたけっつってんのに! 余計な気を回すから! もう! だめ! 毒とか!! 物騒! これだから貴族は! 馬鹿!」
べっしべっしと尻尾を振り、ふしゃーっと吠えた。
実のところ、これが毒ではない確証は一切ない。アンジェリカの境遇を思えば本当に毒が入っていても何ら不思議ではないし、致死性の毒でなければ許される可能性もありそうだ。
けれどそのために他人を危険に晒すほど追い詰められているのだろうかと考えたとき。こんなに様々な運に頼った方法を選んでおきながら、そこまで酷い毒は使わないだろうと踏んだ。
ぷるぷると震えるエリオットを鼻で笑って見下した。
そもそも大公令息なのだから毒に対抗する魔導具くらい持ち合わせているだろうに。未知の毒でも使っていない限り、エリオットに害を与えることなんて難しいだろう。
この程度でわかりやすく震えるなど、少しはアンジェリカのポーカーフェイスを見習ったらどうなのだ。
「子犬みたいに震えてないで、アレをどうするかくらいさっさと決めなさい!」
手を拭いたハンカチを机に叩きつけた。エリオットをぐっと睨みつけて、その頬を両手で挟む。
「どうせ考えたって答えなんて出ないんだから適当に決めりゃぁ良いんです。……ここでリリアンを見捨てて後悔しませんか」
揺れるエリオットの瞳を見つめながら、ちょっとだけ真剣そうな声を出した。
しかしジェマはエリオットを救う気など微塵もない。ただいい加減問題をどうにか片付けたいだけだ。
いや、もっと言えばこの問題を片付けたいわけでもない。ひたすらに面倒臭くなっただけである。
けれど勘違いした人がいたらしい。誰かが息を呑み、エリオットは目を瞠った。
「お前のせいでリリアンはあぁなりましたけど、すべての責任をリリアン1人に押し付けて自分だけ知らん顔できるんですね? それでアンジェリカ様に見捨てられて良いんですね――って聞いてるんだからいい加減なんとか答えたらどうですか! 本当に鬱陶しいったら!! なんなんだもう! このままいくとお前はリリアンを見捨てたクソ野郎でアンジェリカ様に見捨てられてどうなるかもわからん、最終学年になって馬鹿な男爵令嬢に入れ込んで人生を棒に振った阿呆ってことになるぞ! それで良いんだな!?」
大人しく真剣そうにできたのは一瞬だった。なんだかエリオットの子犬顔を見ていたら無性に腹が立った。手を上げなかったことを褒めてほしい。
ジェマは初夏からずっとリリアンの好感度上げに付き合ってきた。リリアンのエリオット攻略の情報を逐一報告され続けてきた。つまりはこの男がどれだけチョロかったのかを知っている。
(訝しんでたのは初めだけで、もう夏季休暇前には高いアクセサリーとか贈ってたくせに!)
それはもう、リリアンの所為だけにはできないくらいにサラっと受け入れていた。ジェマは直接それを見ていたわけではないけれど、普通に噂にもなっていた。隠すことすらせず、しかし悪いことをしている自覚はあったのかアンジェリカにキレ散らかし、それがまた婚約者との不仲説を流布する原因となり、けれど今後どうするのかをハッキリとさせないせいで色んな人の立場が宙ぶらりんにされた。
エリオットが大公令息でなければ、パーティーホールのど真ん中で土下座させても良いくらいに方々に迷惑をかけてきたのである。エリオットに被害者面する資格はない。
「えぇとジェマちゃん? 少し落ち着きましょうか。ね?」
「アンジェリカ様は婚約者を甘やかすんじゃありません! YesかNoで答えれば済む問題なんですから、自分が引き起こした問題の尻ぬぐいくらい自分でさせなさい! それとも今後一生、そうやってあなたが面倒を見ていく覚悟ができたんですか! あなたさっきぶち切れて毒を盛ったとか噓吐いて仕返ししてましたけど!」
「え゛。えぇと、それは……」
「あなたもですか! 貴族はなんかハッキリ言わない方が良いとか言いますけど! ここまでやってるんですから! 今はハッキリさせてもらわないと!」
「責任は取らないけどな!」と勢いだけでまくし立て、のらりくらりと答えを出そうとしない高位貴族に詰め寄る。
「どうするんですか! リリアンのことは見捨てるんですか!」




