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23匹目:私の好きなお菓子は何でしょう? 8

今月もありがとうございました!

最後まで頑張りますので、来月もよろしくお願いします!


【2/1追記】

23匹目の7話が2つになっていたので直しました!




艶々と煌めく網目が美しい、シンプルながらも高級感溢れる素晴らしいアップルパイはまだほかほかと湯気が立っている。アンジェリカに勧められて温めておいたおかげで、最高に美味しい状態で提供できた自負がある。


ふふんと尻尾を揺らして、ジェマはアンジェリカたちが手を付けるのをじっと待った。



エリオットのフォークを握る手に力が入っているのが、1番遠いジェマの席からも見えた。さすがに自分が踏みつけたことは覚えているらしい。


しかしエリオットとアンジェリカとアップルパイの話を知っているのはジェマだけだったようだ。アップルパイを前に顔を青くするエリオットに、みな一様に不思議そうな顔をしている。


すでに無礼講の宴のようになってしまってはいるが、仕切り直したこともあってかみな1番地位の高いエリオットが食べるのを待っている。


何度エリオットの決断を待たされれば良いのだ。毎度毎度よく人をイライラとさせる男だ。


紅茶を飲んで誤魔化して、静かにため息を零した。



「ねぇちょっと。エリオットは甘いものはあたしのクッキーくらいしか食べないわ。お茶会だからって無理やり食べさせるのはどうなの?」



焦れたリリアンが身を乗り出してアンジェリカに喧嘩を売る。その姿勢も口調も貴族令嬢のものとは思えないほど品がない。わざわざ机に手を付き身を乗り出す姿に、あちこちからため息が聞こえる。


それをまた自分に都合よく受け取ったリリアンが、「ほらみんなもそう言ってる」とでも言いたげな顔で口の端を上げる。



「そうやって押し付けたって、無理なものは無理なんだから!」


「いや、リリアンっ」


「エリオットは昔アップルパイが好きだったでしょう? もう嫌いになってしまったかしら」


「……いや、そんなことは」


「だからエリオットは甘いものが好きじゃないの! 婚約者なのにそんなことも知らないの?」


「リリアン!」



静かに微笑んだままのアンジェリカに無視をされたリリアンが、嘲るように声を上げた。と思ったらまさかの人物が声を荒げ、リリアンがびくりと肩を揺らした。


味方だと思っていたエリオットに怒鳴りつけられて、ぱちくりと目を瞬かせる。


「どうしたの?」と手を伸ばしても避けられて、さらに身を乗り出してアンジェリカを睨みつける。



「あんた何したのよ!」


「だから少し黙っていてくれ!!」


「な……! なんであたしばっかり!!」


「あなただけじゃないわ」



懲りずにすぐにヒートアップする2人を、アンジェリカの静かな微笑みが抑え込んだ。いつもと変わらない佇まいなのに、なんとも言えない迫力がある。


思わずジェマの尻尾もぶわりと逆立った。



「先日までずっとこういう態度を取られていたのはわたくしだもの。あなただけが特別なわけではなくってよ」



エリオットの顔がざぁっと白くなっていった。そういう態度を取らせていた自覚のあるリリアンの顔もどんどん青ざめていく。リリアン物語に没頭しすぎて不敬など一切気にしていなかったリリアンも、間近で高位貴族の威厳を浴びて固まる。


隣でシリルが遠慮なく吐いたため息で、ジェマは我に返った。


アンジェリカに優しくしてもらっているジェマですら思わず息を呑む迫力だった。知らず知らず詰めていた息を細く吐き出し、逆立った尻尾を摩る。


直接それを向けられたわけではないジェマですらこれなのだ。これまでアンジェリカ相手に散々やらかしてきた自覚のある2人が受けた威圧感は如何ほどか、ジェマには想像も付かない。



「でもそうね。わたくしもエリオットが嫌がることを押し付けてきてしまったかもしれないわ。……そうね。本当に一口すら食べられないほどお嫌なら、無理して食べなくってもよろしいのよ」


「え。あ、いや、別にそういうわけでは……」



そうは言うものの、なぜかエリオットは切り分けたひと口がなかなか口に入らない。



ふぅとこれ見よがしにため息を吐いたのは、珍しくアンジェリカだった。


ここまで来てまったくアンジェリカの考えが読めなくなってしまったので、アンジェリカが何を言おうとしているのか、ジェマも少しドキドキしている。叱られている子どものようにびくりと肩を揺らしたエリオットがそろそろと顔を上げた。こうして子犬のように可愛いところを見せるから甘やかされるのだろう。先ほどまで幼子のように癇癪を起こしていたくせに、ずるい男だ。



「わたくし、アップルパイとは別にもう一品お菓子を持ってきたの。わたくしが1番好きなお菓子よ。もしそれを当てることができたら、これまでのことも許して差し上げるわ。あなたが望むまで婚約も継続すると約束する。もうあなたの言動にいちいち文句を付けたりもしないわ」



これは面白いことになってきた。


唯一誰がどれを持ち込んだのか知っているジェマは、アンジェリカから目配せされて立ち上がった。アップルパイを取り上げて、すべてのお菓子をエリオットの前に並べる。


縋るように見上げられたが、それはあえて無視してさっさと席に戻った。



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