表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/131

23匹目:私の好きなお菓子は何でしょう? 7





「そ、それは……」



3人それぞれが気まずい顔をして視線を逸らす。もう怒っている場合じゃないのだ。そもそも前提が成り立っていないということに気が付いてほしい。


どれだけ馬鹿馬鹿しいことをしているかわかっただろうとジェマは舌を出した。


恋愛ごとで揉めるなら、せめて誰かは本当に恋をしていてほしい。まぁこの状況でいきなり聞かれても出てこなかったというだけかもしれないが。



静かに観戦しているクロエたちをちらりと見遣ると、クロエ、ルシアン、クリスティーナと3人でのんびりお茶をしていた。彼女たちも彼女たちでなかなかマイペースな怖いもの知らずである。


あちらへ混ざりたかったと恨めしく尻尾を振ると、にっこりと綺麗に笑い返された。



「まぁとりあえず、これ()()()なので。全員席に着きましょう。後日仕切り直しにしたって結果は同じですからね」



割れたティーカップを片付け、テーブルクロスを取り換える。机の上を整え直して、淹れ直した新しいお茶を注いで回る。


情けでリリアンの乱れた髪と制服だけ直してあげて、強引に席に座らせた。


席の並びはアンジェリカ、エリオット、リリアン。3人ともが裁判所に引っ立てられた被告人のような気まずい顔をしている。まだそんな顔をする謙虚さが残っていたのかと少し蔑みつつ、ようやくお菓子を取り分け始めた。



小さなチーズタルトにフォンダンショコラ、《うさぎのエプロン》の焼き菓子たちにその他もろもろ。こんな状況でもなければのんびり味わいたい素敵なお菓子ばかりだというのに、目の前に並べてもなんとなく心が躍らない。


むぅと頬を膨らませてどかりと腰を下ろした。


しかしお菓子を取り分けたところで、エリオットが口を付けてくれなければ食べられない。眉を顰めながらじーっと見つめるが、しょんぼりしているエリオットはちみちみと紅茶を舐めるばかりでフォークすら持ってくれない。


だからモテないのだ。べちんべちんと尻尾で背もたれを叩き、紅茶を啜りながら不貞腐れた。



「……この機会に聞いても良いかしら」



感情の読めない顔を上げたアンジェリカが、隣に座るエリオットを見上げた。眉を顰めたリリアンがエリオット越しに睨みつけるけれど相手にされなかった。それにまた奥歯を噛み締めて、顔を歪ませる。


本来の関係性はこうであるべきだよなと、ようやっと観覧席に回れたジェマはのんびりと角砂糖を齧った。



「エリオット、あなたはどうするつもりなのかしら。卒業後はわたくしに婿入りするの? それともそちらの彼女と――ランズベリー嬢と結婚するつもりなの?」


「…………それは」



以前、ジェマもエリオットに訊ねたことがある。



『あなたはいったい何がしたいのです? このまま卒業してアンジェリカ様に婿入りして、それからもアンジェリカ様と仲の悪いランズベリー嬢の面倒を見続けるなんてことが可能だとお思いですか? それともランプリング公爵家に婿入りする安定した将来を捨てて、貴族になったばかりのランズベリー男爵家に婿入りできるんですか?』



そしてそのときのエリオットの答えが、



『……アンジェリカとの婚約はどうにもできない。学園にいる間くらい、息抜きをしたっていいだろう』



だった。散々悩んだうえでそれだったので、とても落胆したことを覚えている。


当時はそもそもアンジェリカとの婚約が解消できるのかという問題があったが、現在は()()()()()()()()()()()()()()()と決まってしまっている。エリオットがそれを知っているのかどうかは知らない。けれどこの答え次第で、エリオットの将来が決まると言っても過言ではない。


みなもそれを感じとったのだろう。紅茶を飲むことすらできずに、じっとエリオットの答えを待っている。



びゅうとひと際強い風が東屋に吹き付ける音が響いた。ハッと肩を揺らしたエリオットが、ぐいっとティーカップを傾ける。


そしてがちゃんっと乱暴にカップを置いた。


だから高いカップを使ってるんだからやめろと、ジェマはまたイライラと尻尾を揺らす。シリルに背を摩られて、ジェマは不機嫌に息を吐き出した。



「……すぐには答えが出ないかしら。とりあえずお菓子でも食べて落ち着きましょう? ジェマちゃん、アップルパイを持ってきてくれるかしら」


「はぁい」



アンジェリカが持ち寄って来たのは、ちょっと曰くがあると言えなくもないアップルパイだった。


アンジェリカのアップルパイは美味しいのでそれ自体は良いし嬉しい。けれどこの3人との組み合わせは最悪すぎる。手作りではないかもしれないが、懲りずにアップルパイを持ってくるアンジェリカのメンタルが心配になる。



(なんで……いや、わざとアップルパイにしたのかも?)



エリオットとアンジェリカにとっては思い出のあるお菓子のはずだ。踏みつぶされ事件のときも、それでアップルパイを選んだと聞いた。


切り分けたアップルパイをエリオットの前に置くと、わかりやすく動揺した。それはそうだろう。アンジェリカからの意趣返しともとれるのだから。


アンジェリカを窺っても、その綺麗な微笑みにいつもと変わったところはない。



だから可愛げがないと言われるのだろうななんてとんでもなく失礼なことを考えながら席に着いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ