23匹目:私の好きなお菓子は何でしょう? 6
ちょっと短いです
「あーあ。だめじゃん! 全然出てこないじゃん! エリオット様カワイソー!」
怒りを通り越してシンプルにしょんぼりしてしまったエリオットの顔がなんとも哀愁を誘う。思わずといった調子で歩み寄ろうとするアンジェリカを引き留めて、抱き着く腕に力を込めた。
先ほどまで気を張り詰めてエリオットを抑えていたフランツも、ジェマの意図に気が付いたのか盛大なため息を吐いた。
「じゃぁそうだ、逆に。エリオット様はリリアンのどこがそんなに良いの? アンジェリカ様を捨てるくらいに良いところがあるってことでしょ? わたしにはまったくわかんないから教えてくださいよぉ」
ふりふりと尻尾を振りながら、ジェマはこてりと首を傾げた。
頭が回っていないのか本当に考えたことがなかったのか、エリオットはきょとんと首を傾げ返すだけで黙ってしまう。
「あんたは何様なのよ!?」
ヒステリックに裏返った声に、ひょいとリリアンを見下ろした。いつの間にか魔封じの腕輪まで付けられて、ベルノルトに肩を抑えられている。
なんやかんやで暴れるのでまだ床に座らされている状態のリリアンは、1人だけギリギリと奥歯を噛み締めていた。ここに至ってようやく自分が嵌められて窮地に陥っていることに気が付き始めたらしい。
自然に零れた笑みのまま、思い切りリリアンを見下す。
「お前がわたしを巻き込んだからこうなってるんだぞ? お前が好感度上げとか言ってわたしを巻き込んだから、わたしがこうしてお前の代わりに収拾をつけてやろうって言ってるんだよ」
落としそうなほど目を見開いたリリアンが、ぽかんと口を開ける。
そう、リリアンがヒロインの立場を奪い取ることに関しては何の問題もなかったのだ。ただそれだけならば。
けれどリリアンはその後、シリルを攻略するためなどと言ってずっとジェマの元へ通い続けた。シリルを攻略するには、アシュダートン伯爵家の後見を受けているヒロインが必要だからと。
しかしリリアン物語をよく知らないジェマでもわかる大きな間違いが1つある。
――ヒロインがジェマだと仮定するならば、誰がヒロインの好感度を上げるのか?
リリアンがヒロインを乗っ取ったゆえに起きた大きなバグが、自由になったジェマだろう。
果たしてジェマの好感度を上げて――友人あるいは協力者に仕立て上げれば、偽物の攻略がうまくいくのか。もしジェマとリリアンの仲が良くなって、いつも2人で一緒にいるようになったら。
偽物が隣にいる本物に勝てるのか?
「お前がわたしのことを巻き込まなかったらわたしには何の関係もない話だったのに」
ジェマは今でもリリアン物語に何の興味もない。それどころか在学中に恋愛をする気すらなかった。アンジェリカに余計なアドバイスをしてしまったのも、アンジェリカの婚約者が入れ込んでいる愛人がリリアンだったからだ。
もしリリアンのことをまったく知らない状態だったなら、リリアン物語を聞かされていなければ。
大公令息の恋愛事情なんて詳しく知ることはなかっただろう。リリアンがエリオットが好きだから本気で迫っているのではなく、それより先に攻略したいという気持ちから始めたと知っていたから。それならばエリオットときちんと話し合った方が良いと思うではないか。
「全部お前のせいだってば。わたしのせいにしないでよ」
口をぱくぱくと動かして何かを訴えようとしているが、懇切丁寧に聞いてやる必要もない。もう黙らせておけばいい。
まったく回答にならない答えで誤魔化して、すぐにふいっと視線を逸らした。
「で。自分のことを好きだと思ってた2人ともが絶妙に自分のことを好きじゃなかったかもしれない疑惑で落ち込んでるエリオット様ー! アンジェリカ様とリリアンの良いところ10個ずつ思いつきましたかぁ?」
「え゛。いや……」
急に矛先を向けられたエリオットがびくりと肩を揺らす。しかしこちらもまた良いところがまったく出せずに口ごもる。
隣のフランツが完全に可哀想な子を見る目でエリオットを見下ろしているのはとても面白いが。
「いや全員だめって。もう3人とも別れてしまえよ」
どうしてこの3人の三角関係のせいでここまで揉めているのだ。馬鹿馬鹿しいにもほどがあるだろ。




