23匹目:私の好きなお菓子は何でしょう? 5
こんな馬鹿馬鹿しい話を大真面目にしてたまるか。
結局はただのコミュニケーション不足というだけの話。アンジェリカもエリオットもリリアンも、3人それぞれが他人ときちんと話をするという意識が欠如している。
自己中心的なエリオットと現実を見ていないリリアンだけではない。一見まともそうに見えるアンジェリカも、実のところきちんと会話をしているかと言えば怪しいところがある。
たしかに他人の話はきちんと聞いているし、それに対して適切な返答はしている。けれどその地位の高さゆえか性格ゆえか、なんてことない話題でも明言を避ける傾向がある。ジェマと2人きりのときだけは素直な言葉を聞けるので、ジェマは普段のアンジェリカがどれだけの気持ちを吞み込んで公爵令嬢としての完璧な返答をしているか想像がつく。
そんなジェマから言わせてもらえば、エリオットの訴えは的外れとしか言いようがない。
エリオットが罵っているのは完璧な淑女のアンジェリカであって、エリオットに恋をしているアンジェリカではない。エリオットが頑なに完璧な淑女を否定するせいで、アンジェリカが素直な気持ちを曝け出す機会が奪われ続けてしまったのだろう。
ただでさえアンジェリカは1人で抱え込むタイプなのに、お前が悪いと言い続ければ限界までただひたすらに頑張り続けるに決まっているであろう。
つまりは現状のようになることは簡単に予想がついたはず。
誰の怠慢かは知らないが、誰かがもっと早くに幼いままで居続けようとするエリオットをぶん殴っておくべきだったのだ。
しかし誰もやらないのであれば仕方がない。婚約者であり長年虐げ続けられてきた、大公令息をぶん殴る権利をもぎ取って来たアンジェリカがやるしかない。
「婚約者に見捨てられて、愛人にも金蔓としか思われてなくて? でも地位とプライドだけは高いから、この中で1番身分が低くて7つも年下で体が小さくて1番弱そうなわたしを攻撃するの?」
シリルからストップがかからないので、このまま勢いで突っ走って良いものと解釈した。小さい体で精一杯ふんぞり返り、腕を組んで偉そうに顔を傾ける。
「地位とお金と顔しか良いとこないって言われて反論できないですよねぇ?」
間抜けにぽかんと口を開けたまま、呆然とした瞳でジェマを見つめるエリオットを睨み返す。
思い返せば、そもそもエリオットがリリアンを受け入れたりしなければこんな面倒くさい事態には陥っていないのだ。リリアン物語の攻略はエリオット以外の全員が失敗している。
エリオットの攻略すらもうまく進んでいなかったとしたら、先日ジェマに殴りかかってきたのようにリリアンがぶちぎれるのはもっともっと早かったはずだ。そうすればもっと遠慮なくリリアンを退学処分にできただろう。
たらればなんて後からならいくらでも言える。けれどエリオットの対応はずっと間違えだったと言っても過言ではない。
というわけで、エリオットが他人を巻き込んでアンジェリカに八つ当たりするならば、ジェマもエリオットに八つ当たりする。
「なんかさっきアンジェリカ様に『被害者面するな』とか言ってましたけど、それはそっくりあなたが受けるべき言葉では? 『お前には関係ない』だのなんだのって、婚約者なんだからあなたの将来はアンジェリカ様の将来でもあるでしょうよ。何馬鹿なこと言ってんですか、馬鹿なの? アンジェリカ様を責め立てたってあなたのクズさ加減は薄れませんからね? どれだけ正当化しようとしても、あなたがアンジェリカ様を蔑ろにしてリリアンを侍らせてたってことも変わりませんし、婚約者のいる身で別の女とお茶会に参加してるってのもだめだし、お茶会に参加して喚き散らすのもだめ。ちょっと考えればわかるでしょ。ぜーんぶだめです! ね! アンジェリカ様!」
「えっ。えぇと、そうね……」
「良いか悪いかはっきり言って!」
ぐいぐいと腕を引っ張ってアンジェリカを隣に立たせる。
ジェマが参加して4人で喧嘩したってどうしようもないのだ。エリオットをぶん殴れるのはアンジェリカのみ。その権利を持っているのもアンジェリカだけ。
先日まではやる気満々だったのだから、せめて言いたいことくらいちゃんと言いやがれ。
おろおろしているアンジェリカの腕をぎゅーっと握りしめ、アンジェリカのことも睨みつける。この人は本当にすぐ婚約者を甘やかすのだから。ふんふんと鼻息荒く見上げ、尻尾でぺしぺしとアンジェリカの足を叩く。
観念したように細く息を吐き、キリっと眉を上げた。
「良いか悪いかで言えば、悪いわね」
「ほら良いところないって!」
「そ、そこまでは言ってないわ」
「じゃあ話を戻してエリオット様の良いところどうぞ?」
「え。えぇとそれは……」
「ほーらないじゃん良いところ!」
「だからそこまでは言ってないわっ」
エリオットに向かって全力で舌を出し、アンジェリカの足をぺしぺしする。
「リリアンでも良いよ? お前が本気で『私は正式な婚約者であるアンジェリカ様よりもエリオット様のことが好きです!』って言い切れるなら、エリオット様の良いところ10個言うチャレンジもう1回してもいいよ?」
シリルとクロエはもう気が付いているようだが、ジェマは真剣に話をする気がない。こうなったらせいぜい楽しんでやるしかないだろうが。
みんなが持ち寄ってきてくれた美味しそうなお菓子がこんなに並べられているというのに、全然食べさせてもくれないし。




