23匹目:私の好きなお菓子は何でしょう? 3
総合評価500ptありがとう~!!!!
ルシアンが気味悪がり、フランツがその邪な目的に気付かずに補習を続けていた程度には、リリアンのヒロインを演じる能力は高かった。
ジェマはリリアンの話からしかそのヒロインさんのことは知らないが、リリアンとマーサが揃ってジェマを嫌うくらいに現実のジェマとは似ていない良い子なのだろうと思っている。2人のどちらからも【幸運の猫】について言及されることはなかったことからも、そういういかにも人助けをしそうなお節介で真面目な良い子ちゃんだと予想している。
そしてその予想は大きく外れてはいなかったようだ。リリアンが攻略対象と呼ぶ、これまで攻略のためだけに関わってきたであろう人たちばかりが目を丸くしていた。
いくら好かれるために相手の好みに合わせると言っても限度があるということだろう。
違うだの誤解しないでだのとお決まりの文句を口にしながら、リリアンは顔を青くしていく。
むしろジェマが殴る以上の衝撃を衝撃を与えられた気がする。口を抑えて肩を震わせるクロエに得意げに笑い、指を立てて褒めてくれているシリルに胸を張る。
「っお前も俺を騙していたのか!!」
対照的に顔を真っ赤にしたエリオットが、触れようとしたリリアンの手を乱暴に振り払う。よろめいたリリアンが倒したティーカップが床に落ちた。
陶器の割れる音が東屋に響く。
エリオットが可哀そうなくらいに顔を歪める。婚約者と不貞相手両方に裏切られていた――と思っているだけであるが――男の完成だ。まるで癇癪を起こす子どものようなその様子は、大公令息とは思えないほど哀れだった。
だから初めからちゃんと婚約者と向き合っていれば良かったものを。情けなさすぎてアンジェリカが少し絆されそうになっているではないか。
「なんなんだお前たちは!! 俺を吊るし上げるためだけにこの茶会に呼んだのか!? いい加減にしろ! 俺は帰る!」
「待ってエリオットっ。あ、あたしは騙してなんてないからっ」
懲りずに軌道修正を図ろうとするリリアンがブレザーの裾を掴むが、今度は肩を押されて引き離された。
そのまま殴りそうな勢いに、さすがのシリルも少しだけ腰を浮かせた。しかしその尻尾はゆらゆらと揺れている。この機会に大公家と公爵家の弱みを握る気満々のシリルだけが楽しそうである。
ジェマは静かに数歩後ずさって、いざとなったら先にリリアンのことをぶん殴ってやろうと拳を握った。
「うるさい黙れこの売女が! お前が色んな男に声をかけて回っていることくらい俺だって知っている! どうせお前も大公令息に取り入りたかっただけなんだろう!!」
「だから違うってば!!」
「エリオット……! 女の子に向かってそんな八つ当たりっ」
「うるさい!! お前たちの話など――」
「いやお前がうるさいわ。なんで普通に会話をするってことを知らないの? 一方的に自分の気持ちを押し付けることしかできないの? 子どもか??」
「うるさ――いやなんなんだよお前は!!」
リリアンの頭越しに激昂しているエリオットと目が合った。踏ん反り返ってべぇっと舌を出してやると、そんなことをされたことがないであろう大公令息はぽかんと口を開けて押し黙った。ふんっと鼻息荒く顔を背けると、あちこちからため息が聞こえた気がするが気にしないことにする。
心配そうなアンジェリカがそっと立ち上がり、ジェマの後ろへと回る。
「平民主催のお茶会で1人で怒って場を乱すとか大人げなさすぎると思いません? ねぇ、大公令息様」
「そもそもお前がこんな茶会を開いたからっ」
「あなたがリリアンの誘いに乗らなければ良かっただけの話では?」
「うるさい! お前に関係ないだろう!」
「いや今わたしのせいにしたのあなたですよ」
なんか変に引っ掻き回しているだけな気がするなと思いながら、ジェマは腕を組んでふんぞり返ってみた。こちらが堂々としていれば案外ごり押しできるらしい。大公令息ともなればこんな風にわかりやすく馬鹿にされる機会なんてあるわけがないが、少々押しに弱すぎる。
そっと名前を呼ばれて見上げると、アンジェリカが眉を下げていた。もう口を挟みたくて仕方がないと言わんばかりの顔である。
だから年上の婚約者を甘やかすなと言っているのに。
「っなんなのよもう!! だからあたしの邪魔しないでって言ってるでしょ!? エリオットまで奪う気!!??」
全員から無視をされたリリアンが、勢いよく手を振り上げた。
肩を引こうとするアンジェリカの手を振り払い、逆にその腕を後ろへ押して自ら1歩前に出た。机の向こうで腰を浮かせたルシアンと目が合って、ジェマはにっと口の端を上げる。
ぱんっと乾いた音が響いて、次いでジェマが尻もちを付いた少し重い音が鳴った。
「なんでよ!! 要らないって言ったでしょ!!?? こんなに攻略対象ばっか招待してお茶会!? ふざけないでよ!! 見せびらかして自慢したいわけ!?」
転んだジェマに馬乗りになってさらに殴りつけようとするリリアンの肩をシリルが振り払う。いつの間にか回り込んできていたベルノルトがリリアンを取り押さえている。
自力で立ち上がったジェマは、パンパンパンとリズミカルにスカートの汚れを払った。やってやったぜと達成感で胸を張るジェマの頭を、シリルが優しく小突く。
一拍置いてじくじくと痛みと熱を発しだした左頬に手を添えて、無意識にふりふりと動いていた尻尾を腰に巻き付けてみた。




