23匹目:私の好きなお菓子は何でしょう? 1
今月初めに1000PV感謝って言ったのに、もう2000PV達成してました~!
感謝~!!
『でもね、どれだけわたくしたちが作戦を練ったってわたくしたちは主役ではないのよ。気丈に振舞ってはいるけれど、アンジェリカ様だってこんな提案を呑んだ時点で相当疲れていらっしゃるわ。しかも元凶も呼ぶのだから、明日はどんなトラブルが起きても絶対に誰も湖に落ちないようにしなければならないわ』
ジェマが寝落ちする寸前、作戦会議を諦めたクロエが真剣な顔でそう言ったことはきちんと覚えている。ポンポンとリズミカルに撫でられた手と、暖かく柔らかい布団の感触はいつまでも包まれていたいくらいに気持ち良かった。
「お前には関係ないだろうが!! 自分だけが被害者かのような顔をするな!!」
「なんなのよもう! なんでこうなるの!?」
「どうしていつもきちんと話をしてくださらないの!? いつまでも幼い子のようなわがままを言わないで!!」
せっかく綺麗に準備したのになぁと現実逃避しながら、ジェマは怒鳴り合っている3人をぼんやりと眺めた。
1番にキレ始めたのはエリオット。2番目がリリアンで、最後に我慢の限界を迎えたアンジェリカが泣いた。そして顔を覆って泣くアンジェリカに対してさらにぶち切れたエリオットとリリアン、それでもうわーっと言い返し始めてしまったアンジェリカ。
こんなはずじゃなかったのにと思いながら視線を巡らすと、クロエとルシアンも同じ顔をしていた。シリルとフランツは頭を抱え、詳しく説明せずに巻き込んだベルノルトだけが目を丸くしておろおろしている。フランツにエスコートされて1人うっとりしているクリスティーナは置いておいても、想定外の大惨事である。
お茶会当日、朝早くから様々な準備に追われ、お茶会が始めるころにはすでにへとへとだった。お茶会と言っても学園内で平民の生徒が主催するものだ。ドレスコードはいつも通りの制服。しかもお菓子は持ち寄り制で良いとアンジェリカが言ってくれたのでとても楽になったはずだった。
お茶の準備や会場のセッティング、主催者としての突貫マナー講座と髪や肌のケア。爪までピカピカに磨かれて、昨夜はクロエとの作戦会議なんてほとんどできなかったくらいに疲れ切って寝た。
初めは「殴ってしまえ!」と勢いで始めたお茶会ではあるが、ここまできちんと準備をしたのならばとジェマの中ではきちんとお茶会を開きたいモードに入っていた。
普段は跳ねまくりの髪も丁寧に撫でつけて可愛くセットし、それに合わせてほんのりとお化粧もした。ティーカップを温めながら、招待客が揃うのを楽しみに待っていたのだ。
「わたくしに婿入りする予定なのに他の女性とお茶会に参加するなんて何を考えていらっしゃるの!? もうすぐ卒業ですのよ!? きちんと今後のことを考えてくださいませ!!」
「うるさい!! お前に関係ないだろうが! それくらい考えている!!
「考えていたらそんな愚かな真似をするはずないでしょう!? 学園内だからって好き勝手しても良いというわけではありませんのよ!?」
「お前だって好き放題しているだろうが!! ここ数か月定例の茶会も欠席してるではないか!」
「それはあなたがわたくしから逃げ回っていたからでしょう……!?」
「だから被害者面をするな!!」
「こちらのセリフですわ!!」
ちゃんと準備したのだから、もう少しお茶会を楽しんでからにしてほしかったなと耳と尻尾をしょんぼりと垂れさせた。
もともと揉めること前提で開いたお茶会だ。そもそもがアンジェリカとエリオットを安全に喧嘩させるための場として用意したものである。けれどジェマもジェマで一応頑張ったのだ。良い大人が子どもみたいに内容のない喧嘩をしやがって。ジェマはだんだんイライラしてきていた。
アンジェリカは一応エリオットと話したいことを考えてきたはずなのだが、もうヒートアップしてしまって売り言葉に買い言葉で言い返している。別にそれは構わないがこのままでは何も得られない。殴るなら殴るでさっさとしてほしいのだが、アンジェリカが動く気配がない。ジェマはこっそりと角砂糖を摘まんで首を傾げた。
昨日の作戦ではまず建国祭の話に持ち込むつもりだった。けれどその話になる前に、エスコートという言葉をよく知らないらしいリリアンがエリオットにべたべたと引っ付き始めた。
それに対して主催者であるジェマが注意する前に、当たり前のようにアンジェリカが注意してしまった。立場的にも地位的にもアンジェリカが注意すること自体は間違えていないが、今日の趣旨を思い出してくれ。アンジェリカの相手はエリオットであってリリアンではないのだ。
「もーなんなの!? なんであたしばっかり怒られなきゃいけないの!? 仲直りしたいって言うから来てあげたのに!!」
「あなたもあなたですわ! 何様のつもりですの!? 学園内でも婚約者がいる方にエスコートされるなんてマナー違反にもほどがありますわ!」
「あたしは婚約者なんていないもの!!」
「そういう問題ではありませんわ!」
「そういうお前はどれだけ正しい行いをしているんだ!? お前だってベルノルトにエスコートされているだろうが!!」
今更そんな初歩の初歩で争われても困る。面倒くさいなぁとジェマはティーカップを傾けた。
もうそれを注意する時期は過ぎただろうに。これまで数か月間、ずっと態度を変えなかったリリアンがここでやめるわけがない。期待するだけ無駄だ。注意する労力があるならさっさと殴ってしまえ。
「人にばかりとやかく言っていないで自分の行いを振り返ってみろ!!」
――いやお前もな。
口の中に紅茶が入っていなかったらうっかり口から出ていたかもしれない。口元を抑えながら紅茶を飲み込んだ。




