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21匹目:甘くて冷たいアイスクリームは正直有難迷惑でしかない 2




『あ゛ー! もうほんっと最悪!!』



リリアンが肌に悪そうなお菓子をやけ食いしているのをぼんやりと眺める。


マーサの個人的な意見としては、野良猫のようなジェマより、少女漫画の主人公のようにキラキラとしているリリアンの方がヒロインに相応しいと思う。ジェマは平民だがリリアンは貴族令嬢だし、現実問題として攻略対象たちと結婚するならやはりリリアンの方が良いだろう。ホシツカのヒロインも男爵令嬢だったことだし。



荒ぶるリリアンの断片的な話によると、ジェマに邪魔をしないでくれと頼んだら反発された挙句、リリアンだけが悪いことにされたらしい。普通なら貴族であるリリアンの意見が無視されることなんてないだろうが、ジェマの後見人が出てきたためにすべての責任をリリアンが負うことになったとか。シリルの家は確か伯爵家だ。男爵家では勝てなかったのも仕方がない。


なんと卑怯なことをするものだ。そこまでしてリリアンを排除してヒロインの座を奪い返したいか。



入学時は恋愛には興味がなかったというけれど、きっとこれまでの学園生活の中で貴族の生活に憧れたか何かで気が変わったのだろう。同じクラスの伯爵令嬢ととても親しくしていると聞く。最近ではあの悪役令嬢ともよくお茶をしているとか。


ジェマは顔立ちが整っているだけで、オシャレをするつもりがないところとか身なりに無頓着なところはマーサと同類だと思っていただけに、その心変わりは少し残念だ。


ぼさぼさと跳ねたくすんだピンク色の毛並みは、とても貴族の飼い猫には見えなかった。



『それで最近休んでたの? 怪我とかした? 大丈夫?』


『自宅謹慎だって!! 何それ!? しかもあいつ普通に学校来てたんでしょ!? なんであたしばっかり!!』


『謹慎……!? やば……』



これだから貴族は。肩で息をするリリアンの肩を撫でながら、マーサは眉を顰めた。




転生してから知った。貴族なんていうものは綺麗で煌びやかなだけではないのだ。


マーサの父は平民だが優秀な錬金術師で、そこそこ裕福な家庭だった。父の作る家庭用魔導具は地球の家電に似ていて、食事の質もそれなり。魔導具作りもファンタジックで楽しい。スマホがないことだけが残念だったが、それ以上に魔法のあるファンタジーな世界に興奮していた。


特別不自由も感じず、毎日をなんとなく生きるだけだった前世とは比較にならないほど充実した生活を送っていた。



少し偏屈だが、父としても錬金術の師としても尊敬している大好きな父が、深夜に1人で思い悩んでいることを知ったのはいつのことだったろうか。台所でこっそり涙を流す母に詰め寄り教えてもらった事実は、異世界転生にテンションが上がってふわふわしていたマーサの足を地に付けるのには十分だった。


前世の両親と違いとても優しく大好きな今世の両親を苦しめていたのは、マーサが憧れていた貴族だった。



この世界には魔力というものがある。


魔力は魔法を使うための材料というだけではない。体の一部であり、血液や臓器などと同じく生きていくために必要な大切なものだ。魔力の多寡が身体能力や寿命などにも影響する。そのため貴族は豊富な魔力を維持しようと貴族間での婚姻を繰り返し、魔力量の多い平民は貴族の後見を受けて引き上げられる。


マーサの魔力量は平民の中では中の上といったところ。そのくらいであれば、正直前世の体との違いはよくわからない。手入れをしなければ肌も髪も荒れるし、特別運動ができたりもしない。



(まぁファンタジー世界に転生したのに、チートもない平民モブっていうのはちょっと残念だけど)



前世のフィクション作品では漫画的な表現として、威圧感に圧し潰されたり殺気で気絶したりという表現があったが、この世界では魔力によってそれがリアルに起こりうる。


魔力量の少ない平民は、貴族が戯れに零したちょっとした魔力圧でも地面に縫い付けられるように動けなくなってしまうのだ。


マーサが前世の知識から考案して父が開発した新作魔導具の権利をまるっと奪っていった貴族は、そうして父から研究資料を奪い取り、権利の譲渡書類にサインをさせた。



(ファンタジーってだけで中世的ってわけじゃないから知識チートも全然役に立たないし、転生しても精神年齢が上乗せされるわけじゃないし……)



だからマーサはこのファンタジックな世界に夢を見られなくなった。


転生しても特別な能力など得なかったマーサは、主人公にはなれないのだ。容姿が整っているわけでもなく、魔力量が多いわけでもない。漫画の主人公のように両親を苦しめる貴族に噛みつく勇気すらもない。



「ねぇ聞いた? エリオット様に言い寄ってるって噂の男爵令嬢、今度はベルノルト様とルシアン君の周りもうろちょろしてるんだって」



なんだか聞き覚えのある名前の羅列を聞いてマーサは首を捻った。そして前世でのめり込んでいた乙女ゲームを思い出して、思わず上がりそうになった声を抑える。



(ここ【星降る夜に捕まえて】の世界なの……!? マジで!?)







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