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20匹目:お誘いの薔薇とプリンアラモード 5

5/6






「2人とも落ち着いたか?」



温かいホットチョコレートを飲みながら、ジェマとルシアンは揃って頷いた。


寒さも相まって真っ赤になった鼻を啜る。乱れた前髪を手櫛で直して、またカップを持ち上げた。



いくら勉強ができたとて、ジェマもルシアンもまだ14,5歳の子ども。恋愛とは2人より5つも6つも年上のアンジェリカたちがあれだけ苦悩し泣いて怒るような難しいことなのだ。まだまだお子ちゃまな2人が泣き喚いてしまっても仕方がない。


道中の会話でなんとなく事情を察したフランツの生暖かい目は気に食わないが、今日はもう怒る気力すらなかった。


なんだか今日は朝から調子の出ない日だなと思いつつ、小さくくしゃみを零す。



「あーまぁなんだ。お前たちには少なくともあと2年はあるんだからゆっくり考えるといい」


「ぐすっ。僕は今年の建国祭でエスコートしたかったんだ……」


「そうは言ってもな。こういうのはあまりギリギリで急に申し込まれるのが1番困ると聞くしな」


「最近ジェマがいなかったんだから仕方ないだろ!」


「そういえば最近会ってなかったかも」



「ほら!」と両手でカップを握りしめてぷんぷんと怒るルシアンは、いつも通りの可愛い美少年だ。


先ほどの妙な気持ち悪さはいったい何だったのだろうか。上唇に付いたチョコレートを舐め取りながら、そういえばと思い出す。


以前リリアンが1人やかましくリリアン物語を語っていたとき、その攻略対象とやらのルシアンの話になった。物語内のルシアンは、人前では愛想良く振る舞いながらも実は誰に対しても一線を引いているという面倒くさそうなキャラだった。そんなルシアンに根気強く話しかけ続け、親しくなっていくと1歩踏み込むどころか抱き着いてきて独占欲を丸出しにするという。


そして攻略の成功度合いがハッキリわかるという建国祭のパートナー選びにて。


順調に攻略が進んだルシアンは、()()()()()()()()()()()()()()()()告白をするという。



普段の甘えんぼな可愛い姿は欠片もなく、ただ真っ直ぐにヒロインを見つめて懇願するように薔薇を差し出す。夕日に照らされた銀の瞳は様々な色を反射して煌めき、ヒロインが頷くと安心したように甘く緩められる。


遠慮がちに1歩を踏み込んだルシアン。ヒロインはいつもこちらを覗き込んで来ていた銀の瞳が思っていたよりも高い位置にあったことに気が付く。


恐る恐る握られた手は骨張っていて、嫌でもルシアンが異性であることを意識してしまった――




リリアンの興奮した途切れ途切れの話を思い出しつつ脳内でまとめていたジェマは、ハッと我に返ってごくごくとホットチョコレートを飲み干した。


ぬるくなっていたチョコレートドリンクは、先ほどよりもずっと甘ったるくなっている気がした。先に注文していたデザートを届けに来たスタッフにコーヒーなんて注文して、届いたプリンアラモードにスプーンを差し込む。


クリームの乗ったプリンを一口分掬い取り、余韻でぷるぷると揺れるプリンを眺めた。



先ほどのルシアンが、あまりにもリリアンの語った話と似ていたから気持ちが悪かったのか。



頬をぷっくりと膨らませてフランツに噛みついていたルシアンは、プリンを取り囲むフルーツを思い切り頬張っている。


リリアン物語ではじめじめとして面倒くさそうな不貞腐れ方をしてヒロインを独占しようとするらしいルシアンと、子供らしくフランツに八つ当たりしながらスイーツを貪る今のルシアンは一致しない。


プリンを飲み込んで、ついでにこっそり息を吐いた。



「ねぇ、なんで僕じゃだめなのさ。僕に誘われるのが嫌だから最近会ってくれなかったわけ?」



スプーンをふりふりと振って不機嫌さをアピールしながら、すっかり遠慮も恥もなくなったルシアンが声を低くした。


ぱちぱちと忙しなく瞬きを繰り返す。意識して動かした手はぎこちない。とことんこういう話題と異性を意識させる態度が苦手なのだと、嫌でも自覚させられた。気付かないままでいたかったなぁとまたため息を吐いて、ぷるぷる揺れるプリンを突っつく。



「だからぁ、何にも考えてなかったんだってば。リリアン物語に巻き込まれたらめんどくさいじゃん……」


「は? 何それ。言い訳ならもうちょっとマシな話を用意してくれない?」


「ほら落ち着けって。すぐに喧嘩をするな」

「だって!」

「はいはい。ほらいっぱい食え」



ルシアンは紅茶をがぶ飲みして、ジェマは大きなカットフルーツを口いっぱいに突っ込んだ。



「あれ、ルシアン君にはあの話は教えていなかったのか?」


「はぁ? 何? 仲良しアピール? ちょっと大人げなくない?? おじさんのくせに!」


「んっふ。おじさんだって」


「べー!」


「おいおちびども。先生でもちょっと怒るぞ」



思わず笑みが零れた。肩を震わせながらコーヒーカップを持ち上げる。


やっと空気が暖かくなった。砂糖もミルクも入れ忘れたコーヒーはとても苦い。小さく舌を出して眉を顰めたジェマは、ほぅっと温かい息を吐き出した。



「そういえばね。ルシアンは全力で拒絶してたから別にいいかなぁって思って言い忘れてたんだけどね――」






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