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20匹目:お誘いの薔薇とプリンアラモード 3





この国の建国祭は年の瀬にある。最後の月の第1週を丸々占領していて、忘年会のような雰囲気もあり各所で何度も建国祝いのパーティーが開かれる。


王宮で行われる国王陛下主催の夜会は建国の週の最後の日の夜、マグワイア魔導学園のパーティーは最初の日の昼から夜にかけて行われる。この建国祭の期間中は学園も臨時休校になるので、ジェマは初めての王都での建国祭週間の過ごし方を模索中だ。



建国の祝いがこんなにも長く続くのは、いつかの若き国王が建国祭に合わせて自らの成人式、即位式、結婚式まで一気に執り行ったことが起源だとされている。


そのため現在でも婚約のお披露目や結婚式が数多く執り行われ、顔の広い中位貴族はあちこちへ顔を出さなければならず忙しいらしい。上にも下にも顔の効く伯爵家は宴をハシゴしなければならないほどの慌ただしさだと、クロエは今からため息を吐いていた。


アシュダートン伯爵夫妻もシリルも、スケジュールはみっちりと詰まっているらしい。一昨日、普段は王都にいないはずの伯爵夫妻に会えたのも、建国祭に向けての衣装合わせのために一足早く王都へ来ていたからだった。


一口にハシゴすると言っても、毎回衣装を少しずつ変えると言うのだから貴族は面倒くさい。小物やヘアメイクなどで印象を変えると言えば簡単に聞こえるが、ドレスの違いなんて色と材質くらいでしか区別できないジェマにとってはまったく理解できない世界だ。


なお、学園のパーティーには貸し衣装で参加すると言っているのに、なぜか試着させられたジェマにぴったりのドレスたちは見なかったことにした。



話を戻して、この国の建国祭と言えば、とにかく色んなお祝いがごちゃ混ぜになったハピネスでピースフルな期間であると言えるのだ。


不思議と犯罪発生率も低いと聞くが、しかしここマグワイア魔導学園ではそんな世間とは少しズレている。



「毎年のようにパーティーで何かしらのトラブルが起きるらしいわ」



小難しい顔をしたクロエの言葉には、珍しく何の中身もなかった。先程からなんとなく力が入って強ばっていた肩がゆるゆると脱力した。


そうそうと話を知っているかのように頷くクラスメイトたちに首を傾げながら、ジェマはクロエに買ってもらった5つで銅貨3枚のドーナツを飲み込む。



「そりゃ起こるでしょトラブルくらい。パーティーだもの」


「ジェマ? あなたこれだけ貴族の多い学園のパーティーをなんだと思っているの?」


「パーティーは戦場って夫人たちが言ってた」


「まぁ一理はあるけれど……」



令嬢たちに揃って苦笑され、ジェマの中でのパーティー像がぼやけていった。頬に付いたお菓子のカスを拭ってもらって、またドーナツを齧る。



「そうではなくてね。お酒は禁止なのに、なぜか雰囲気に酔った方が【劇的なプロポーズや婚約破棄】を行いたがるらしいのよ」



公衆の面前での婚約破棄なんてトラブルという言葉では片付けられないほどのスキャンダルだ。特に高位の貴族になればなるほど影響力は計り知れない。


アンジェリカが学園のパーティー前に急いで決着を付けたがったのはこれが原因なのかもしれない。そしてリリアンが建国祭を楽しみにしていた理由もおそらくこれだろう。



夏季休暇前のサマーパーティーや文化祭の仮面舞踏会などでは、何の関係でもない男女で参加しても大きな問題になることはない。しかし今度の建国祭のパーティーは、男女で参加することは周囲にそういう関係であると示すことと同義となる。リリアンは気軽にエリオットと参加したいなどと宣っていたが、もし本当にそんなことをすればエリオットはきっと大変なことになる。


プロポーズをしなくても一緒に参加するだけでトラブルにはなるのだ。



「ん? プロポーズするのもだめなの?」


「だめというか……」



クロエが少し言い淀んだあと、体を少し傾けてそっと手で口元を隠した。



「だって、貴族の結婚ってたいていは家の都合で決まるものでしょう? 家を通さずにいきなり人前でプロポーズなんてされても困るだけなのよ」


「ロマンスの欠片もないね」


「まぁ貴族の結婚なんてそんなものよ」


「自由に相手を選んでいいなんて言われていたって、いざ紹介したら『派閥が~』なんて反対されたって話はよく聞くものね」


「家を捨ててまで恋愛をする勇気もないものねぇ」



もっくもっくと甘ったるいドーナツを口に詰め込みながら、ジェマはつまらん話だと尻尾を垂れさせた。リリアンほど好き勝手にしろとは言わないが、もう少し青春を楽しんでも良いのではなかろうか。


理屈はわかるがあまりにもつまらない。


しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()。これがすべてだろう。



「んじゃぁさ、もし学園のパーティーでトラブルが起きたら、そのあとの建国祭週間はどうするの?」


「そうねぇ……」



コーヒーカップを静かに置いたクロエは、またジェマの口元を拭いながら皮肉気に口元を歪めた。



「建国祭どころじゃないわ。たいていは自主退学するって話よ」






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