19匹目:美味しいところだけかっさらう野良猫 5
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「おい馬鹿猫。何か申し開きがあるなら聞いてやろう」
貴族の屋敷で少女が床に座らされているのはかなりの異常事態である。その少女が平民で、床にはふかふかの綺麗な絨毯が敷かれていたとしても大問題だ。
こんな場面を見られたら、そんなことをさせているシリルは社会的に死ぬ。しかしこの光景を見てもアシュダートン伯爵夫妻は何も言わなかった。シリルと同じく難しい顔をして、しょんぼりと小さくなっているジェマを皆で見下ろしていた。
まるで罪人である。
そしてジェマも保護者に叱られてしかるべきことをしたという自覚があるからこそ、大人しく縮こまっていた。
あのあと、フランツの連れてきた教員たちによってリリアンは回収されていった。割れた食器と攻撃魔法の痕跡もきっちり記録を取られた。
学園内でも街中でも、許可された場所以外での攻撃魔法の使用は原則禁じられている。それに加えて貴族の私闘も禁じられている。秘密の部屋の使用や物の持ち込みも申請が必要なくらいだ。癇癪を起こして他人に向かって思い切り攻撃を加えたとなると、最低でも自宅謹慎、最悪は退学だ。
こういう形でぶん殴りたかったわけではないのに。
俯きながら頬を膨らませたら、シリルからの圧が強くなった。魔力まで使って本気で圧をかけてきている。本当に反省している姿勢を見せないと叱られるどころじゃない。
ぷるぷるっと耳と尻尾が震えて、ジェマはちらりとシリルを見上げた。
「もうちょっとちゃんと話ができると思ったから…………」
「は? 薬入りのクッキーを無理やり食わせようとしてくる妄想癖を抱えた馬鹿だって初めからわかってたよな? どうしていけると思った?」
「今日はいつもより会話成立してたもん……」
「何か言ったか?」
「警戒心が足りなかったです……」
ぎろりと睨まれてジェマはさらに肩を縮こまらせた。伯爵夫妻の座る方向から何度も咳払いが聴こえてくる。学費も援助してもらって、魔力結晶も買い取ってもらっている。あまり失礼をしすぎるわけにはいかない。
垂れた耳と同じようにちょこりと頭を下げて、小さな声で呟く。
「ごめんなさい」
「よし。立って良いぞ」
立ち上がってぐぐーっと背伸びをしたら、シリルにすぱんと頭を叩かれた。しょんぼりと尻尾を振ってぷくと頬を膨らませる。阿呆かこいつはとでも言いたげな呆れ顔なのでこれはセーフのようだ。
「ジェマちゃん」
手招きをされ伯爵夫人たちの傍へ行くと、そのまま膝に乗せられてぎゅっと抱きしめられた。柔らかくて温かくて、とても良い香りがする。思わず肩に頬をすり寄せると、優しく頭を撫でられた。
「今日はたまたま王都にいたからすぐに会えたけれど、前回のこともとっても心配したのよ?」
「もう少し好奇心より自分の体を大事にしてほしいわ」
「んぅ。はぁい」
ごろごろと喉を鳴らして頭を撫でる手にすり寄る。
余談だが、アシュダートン伯爵の夫人は2人いる。貴族としては珍しく仲が良く、旦那様を置き去りにしてよく女子会を開いているらしい。
孫のシリルの鋭さはどこから遺伝してきたのかと不思議になるくらい、伯爵夫妻は3人とも穏やかでおっとりした人たちだ。アシュダートン伯爵家は男子ばかりだからと、ジェマのことを猫可愛がりしてくれている。
「本物の猫じゃないんだから。甘やかしすぎですよ、婆様方。これはちょっと厳しく言いつけておいたって好奇心で危ないことに首を突っ込むんですから」
「もぅしないです」
「つい先日も似たような誓約を聞いたが?」
「もうシリル。ジェマちゃんは大丈夫よ。本当に危ないときはちゃんと逃げられる賢い子よ」
「いやその前に不用意に危ないことをするのをやめさせたいんですよ」
「あらあらそんなに心配しちゃって。揉めた相手は男爵令嬢なのでしょう? 相手を選べているのなら大丈夫よ。ねぇジェマちゃん」
こくこくと頷いてシリルを見上げる。シリルは夫人たちにはちょっと弱い。おば様たちにぎゅーっと抱き着いて尻尾を巻き付けると、これでもかと眉根を寄せたシリルが重いため息を吐き出した。
促されて口を大きく開けると、一口サイズの小さなチーズタルトが入って来た。本日初めての満面の笑みを浮かべただけで褒めてもらえて、猫はご満悦である。
どかりと座り込んだシリルに伯爵が苦笑し、舌打ちが響いた。
「ところでジェマちゃん。公爵令嬢に大公令息をぶん殴ってしまえと唆したんだって?」
「ごふっ」




