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19匹目:美味しいところだけかっさらう野良猫 4

4/5







この防犯用魔導具はかなり高価で高性能なものである。


アシュダートン伯爵が貴族が使うランクのものを用意してくれたので、物を投げられたくらいでは揺らがないし魔法を打たれても耐え抜いてくれる。毒や薬への耐性も優れていて、クロエによると高位貴族令嬢たちの8割は似たようなものを持っているらしい。


大災害でも起きなければ平民では使う機会がないほどの防犯具だ。アシュダートン伯爵夫妻がジェマの秘密の部屋(シークレットルーム)に大量の防犯具を詰め込ませていたとき、ジェマは「ただの後見人なのにこんなに心配してくれるなんて良い人たちだなぁ」とにこにこしながら美味しいお菓子を食べていた。


それがまさかこんな形で大活躍するなんて。



手当り次第に机の上の物を投げつけ攻撃魔法まで打ち込み始めたリリアンを見ながら、ジェマは現実逃避していた。


ちょっと口を滑らせたらキャットファイトに突入するなんてものではなかった。普通に言い過ぎて本気で仕留めに来られている。殴られたら流れで殴り返せてラッキーなんてレベルではない。確実にどちらかが重傷を負う。



(でもこの攻撃魔法しょぼいな……。一瞬焦ったけど実はたいしたことないぞ)



まぁ治癒科のリリアンが攻撃魔法が得意でも意外すぎる。張り詰めていた息を吐いて、また飴を1つ口に入れた。



先日エリオットに対する話題逸らしと責任逃れがとても綺麗にうまくいって、アンジェリカもジェマの屁理屈を受け入れてくれたので思いのほか調子に乗っていたらしい。リリアン相手にもうまく怒りの矛先を逸らして逃げられると思っていたのだが、他人の話を聞かないリリアンにはまったく通じなかった。ある意味最強だ。


そういう観点で見ると、エリオットは他人の話を理解しようとする土台はあったようだ。ものすごく傲慢ではあるけれど、アンジェリカに拒否されたことで彼の自尊心がちょっと揺らいでいるというのもあるだろう。


エリオットの場合は他人が自分に合わせるのが普通だから気にしなくて良いというのが根底にあるので納得ができる。どれだけ頼りなくても彼は大公令息なので。


けれどリリアンの傲慢さはどこから来ているのかよくわからなかった。だからただの頭のイかれた人だと思っていた。



しかし今日でその謎が少し解けた。


リリアンの中で()()()()というのは絶対的な立場なのだ。ただの男爵令嬢でも、大公令息と普通に結婚できると信じて疑わないし、本気で公爵令嬢を蹴落とせると思い込んでいるほどに。



個人的な感情面だけを言えばエリオットの心からアンジェリカを追い出すことはできるかもしれないが、それだけでは他の問題は解決しない。一般庶民にはわからない雲上人たちの面倒くさい柵や事情があって結ばれた()()だ。本来リリアンが引っ掻き回すことなんてできないはずなのに、エリオットがちょっとお馬鹿でアンジェリカがちょっと卑屈だったお陰で、奇跡的にリリアンにもチャンスが回って来てしまった。


一度くらいきちんと順序だててリリアン物語を話させておけばよかったなと、投げつけるものが無くなって大人しくなったリリアンを見やる。


「相手が力尽きたので大丈夫になりました」と舐め腐った手紙を追加で送り、ほっと息を吐いた。



「……なんでよぉ。あたしだって頑張ってるのになんでぇ」



努力の方向性を間違えているとしか言いようがない。子どものように泣きじゃくるリリアンから覚めた目を逸らす。



もう自棄になるしかないくらいに攻略はうまくいっていないのだろう。


それもそのはずだ。リリアンのマナーも礼節も無視した言動は可愛くない。


自身より身分が高く、容姿も良くて優秀で将来有望とされている人気の男性たちに見境なく擦り寄る行為に可愛げなど感じるものか。これがまだ1人に絞っていたなら印象もまた違っただろうが、リリアンは欲張ってあちこちに手を出したせいで学園中で色んな男に媚びを売る姿が目撃されている。


マグワイア魔導学園は準王族のエリオットですら1度落とされたくらい、厳格な入学試験を行っている歴史ある難関校だ。今の国王もエリオットの父である大公もこの学園の卒業生で、高位貴族の中にはマグワイア魔導学園以外は認めないと何年も浪人する人もいる。


そんな学園に15歳で入学しておきながら、せっせと男に媚びを売って学園中を走り回るリリアンのどこに人に好かれる要素があるというのか。



「そうやってあたしのこと馬鹿にして楽しい!?」


「別に楽しくはないね」


「なんなのよもぉ……!! いい加減にしてよぉ!!」



もうすでにリリアンから興味を失ったジェマは、割れて散乱した食器を見てため息を吐いた。


アンジェリカやクリスティーナ相手に使うほど高価なものではないけれど、そこそこ良くて気に入っているものだったのにすっかり割れてしまった。



(あ、返事来た)



ふわりと紫と翠の光が結界をすり抜けてきた。手紙鳥の返信が届いたようだ。



『今からフランツに行かせる。余計なことを言わず大人しく待っていろ。今日はうちへ来い。迎えに行く。   シリル』


『透水花に影響が出るから大人しくしていろ。くれぐれもこれ以上余計なことはしないように。   フランツ』



やはり今日の説教は確定のようだ。バンバンと机を叩きながら駄々を捏ねるリリアンをじとーっと睨みつけながら、ジェマはもう1度ため息を吐いた。






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