17匹目:人の話を聞かないくせに手土産すら持って来ない阿呆 5
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リリアちゃんバースデーSSR2枚来ました!!!
「あー……。じゃあまぁとりあえず、話したいことがあるなら、一旦手紙を送ってはいかがでしょうか。ぶっきらぼうな返事が届いたら、それはアンジェリカ様が婚約者を蔑ろにしている証拠になりますし。ちゃんとした返事が返ってきたらそれはそれで良いでしょう?」
「…………俺が手紙を書くのか。アンジェリカに」
「……わたしは別に話したいことなんてありませんから書きませんよ。アンジェリカ様と話したい人が書けばいいんです。あなたも別に話したいことがなければ書かなくてもいいんじゃないですか」
そこでじっと見つめられても困る。そうして大公令息が困った顔をしていれば、たいていの人間は「私めにやらせてください」と声をかけるだろうが、知ったことではない。
何度でも言うが、22歳の大公令息が15歳の平民の小娘に頼り切るんじゃない。しっかりしろ。
まるで初めてお友だちと喧嘩してしまったあとに「一緒に謝りに行って」と泣きべそをかいている5歳児である。なぜジェマがそこまで面倒を見てやらなければならないのか。そこまで望むのなら、せめてお茶菓子のひとつでも持ってくるべき。
ジェマの知らないところで誰かが勝手に作った『お菓子を対価に話を聴く』というルールがすっかり身についていたらしい。エリオットを認識したあと、実はちょっとだけ高級スイーツを期待したジェマは、今とても落胆している。
正式なマナーでもなんでもない、ただお互い気楽に話をするための暗黙の了解のようなものだ。
ジェマはちょっと話を聴くだけで美味しいお菓子が貰えてラッキー。客たちは口止め料を支払っているから他では話しにくいことでも安心して話せる。お互いにメリットがあるからこそ成立していただけだとは、ジェマも理解している。
エリオットは、ジェマなら他人にペラペラ話さないと信用してくれているのだろうか。それとも誰に聞かれても構わないと思っているのだろうか。
「あなたは何がしたいのですか?」
ああだこうだと言ってはみたが、結局のところジェマは本質的にエリオットという人物を理解していない。だから初めからそう訊ねている。エリオットが答えないのでずっとわからないままなのだ。
アンジェリカの小言が無くなって残り少ない自由時間を謳歌しているものとばかり思っていたが。そこまで割り切ることも振り切ることもできなくて、中途半端なところで迷子になっているらしい。
ジェマはエリオットの置かれた状況をぼんやりとしか知らない。相談されても何も言うことはできないし、無責任に慰めるつもりも、あえて厳しく正論を叩きつけるつもりもない。
つまりはこれ以上何もする気がない。
質問してはいるが、それは自分で考えて答えを出せと促しているだけである。ジェマの頭の中は今、寒いから帰りたいという気持ちでいっぱいだ。
「アンジェリカ様と話すのがお嫌いなら、アンジェリカ様が近づいてこない現状はとても良いのでは?もうすぐ卒業なのですし、この間にランズベリー嬢とのお喋りを心ゆくまで楽しまれてはいかがでしょうか」
エリオットがそうしているからそのまま言葉にしただけなのに、そんなに傷付いた顔をするのか。
思わず息を呑んでしまったほど悲しげに顔を歪めたエリオットの反応はまったく予想外だった。また怒り出すか黙るかの2択だと思っていただけに、とてつもない罪悪感に襲われそうになって小さく首を振った。
そんなにもリリアンと離れることが嫌なのか、それとも――。
(……本当に1発殴ったら解決するような気がしてきたなぁ)
誰かが無理やり背中を押してやったら普通に解決するような気がしなくもない。ついでにジェマにはもう何度もそのチャンスがあったような気もする。もちろん今も絶賛チャンスタイム中な気がしている。
でもなぁ、と悄げるエリオットを見ながら首を捻る。
エリオットとアンジェリカの仲を取り持ったして、ジェマに何か得があるかと聞かれたらそれは否だ。リリアンがリリアン物語にジェマを登場させたから巻き込まれているだけで、それ以外ではただの観客すぎない。ハッピーエンドを迎えようがバッドエンドを迎えようが、正直どうでもいいと思っている。アンジェリカのことは好きではあるが、予定通りエリオットと結婚することが今後のアンジェリカの人生にとっての必須事項だとは思っていないのだ。
少々アンジェリカのことを唆した自覚はあるが、それもただ野次を飛ばしたようなもの。わざと引っ掻き回して愉快に踊らせてやろうと暗躍したかった訳ではない。むしろ無視してしまえ作戦が通ってしまったのが想定外とも言える。
だから余計なことは言わず、黙って菓子でも食っていれば良いというのにこのダメ猫は。他人の秘密は黙っておけるのになぜ自分の危機となると口が軽いのか。
ジェマは自分の迂闊な発言を振り返り、現在進行形でトラブルの火種にせっせと風を送っている自分にため息を吐いた。
「ご自分のなさりたいようになさればよろしいのではありませんか。アンジェリカ様を傷付けランズベリー嬢を泣かせても、あなたがそれで良いと思うのならそれで良いのです。あなた以外の誰かが決めるものではありません。ご自分でよく考えて行動なされればよろしいかと愚考いたします」
ただし、この猶予期間中にエリオットが行動を起こさなかった場合、おそらくお上から何がしかのテコ入れが入るだろうが。
エリオットに残された時間は短い。もう本格的な冬も始まり、建国祭もすぐそこまで迫っている。新年を迎え冬季休暇が終わったら、暖かくなり始める頃には彼らは卒業だ。
「まずは建国祭のパートナーをどうするかを考えてはいかがですか」
そしてアンジェリカが自分の手を取らない可能性に気付くと良い。
もこもこしたボリューミーなマフラーの中で舌を出して、腹が立つほど端正なエリオットの憂い顔から視線を逸らした。




