17匹目:人の話を聞かないくせに手土産すら持って来ない阿呆 2
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計算間違えで1話増えました!
ある意味タイトル回収な回。
ジェマは貴族の事情なんて知らない。
以前クロエからざっくりと教えてもらったことはあるが、実際のところ、エリオットがどれだけの重要人物でどう扱われるべき人間なのかはよくわかっていない。
平民のジェマに血筋だのなんだのと言われても実感なんぞできるわけがないのだ。
これからのエリオットが選べる道がどれだけあるのか、エリオットに自分の道を切り拓く力があるのか、それすらも知らない。
どうだっていい。
「抗議はまずご自分の立場を明確にして、目的と要求をきちんと定めてから来てください。あなたは今どの立場で発言なさっているんですか? 『ランズベリー嬢に不敬を働いて申し訳ありません』とあなたに謝罪すれば解決するのでしょうか? なぜあなたに? あなたはランズベリー嬢の何ですか?」
ジェマは意地でもリリアンに謝罪するつもりはない。これはシリルを通じてアシュダートン伯爵にも許可を貰っている。
異物の混入したクッキーを吐き出すことはともかくとして、ブランケットで包んで転がしたり蹴り飛ばしたりしたのはちょっとだけ問題ではあるのだが、そこは歴史もお金もツテもある伯爵家の力でなんとかしてくれるそうだ。
改めて優しい後見人に感謝して、紅茶で唇を湿らす。
しかし考えるまでもなく大公令息に対してボロクソに反論しているのは不敬だ。これは確実にシリルからめちゃくちゃにお叱りを受ける問題行動である。
後のことは後で考えよう。無表情でマドレーヌを齧りながら、内心ではどう収拾を付けようかと急いで思考を巡らせていたが、
(アンジェリカ様、本気でこいつのことグーでぶん殴ってくれないかな……)
最終的に行き着いた先がこれだった。なんとかため息を堪えてぐっと紅茶で飲み込む。
ジェマが考えすぎてシンプルすぎる結論に至ってしまった間、エリオットはずっと黙ったままカップを睨みつけていた。もちろん安物だということに怒っているわけではないだろう。
腐っても大公令息だ。そこまで愚かではないだろうとは高く見積もりすぎていたのかもしれない。
(論点をすり替えてわたしの罪をうやむやにしよう作戦が順調すぎて怖いんだが)
逆にちょろすぎて可哀想になってきた。これを問題なく支え続けてきたアンジェリカに頭が上がらない。
思い返せば、今日のエリオットは初めから少し大人しかった。前回のエリオットならば開口1番にもっと盛大に罵っただろうし、平民の言い訳なんて聞く耳すら持たなかっただろう。そもそも、エリオットが自分に都合の悪い話を黙って聞けるとは思わなかった。途中で絶対に反論してくるだろうから、そうしたらそれに対して謝って話を終わらせようという計画だったのに。もしかしたら何一つ謝罪せずに済ませられるかもしれない。
まだ黙り込んだままのエリオットを眺める。
(そういえば……)
最近エリオットの方からアンジェリカに声をかけている姿がちょくちょく目撃されているらしい。
声をかけると言ってもいつもの高圧的で独善的な態度はそのままらしいが、それでもこれまでアンジェリカからの誘いを一蹴してきた男が自ら声をかけに行っていると聞いた。そのほとんどがリリアンを引き合いに出した当て擦りだというのがなんとも言えないが。
しかしもう、今更ちょっとだけ態度を改めても遅かった。アンジェリカが完全にエリオットを見限ったかどうかはわからないけれど、とりあえず今のところはすべて素気無くあしらわれているらしい。
それでイライラしてジェマに相談しにきたのかもしれない。
素朴なマドレーヌを頬張って、今日の放課後は少し運動をしなければとまたため息を吞み込んだ。
「……アンジェリカとの婚約はどうにもできない。学園にいる間くらい、息抜きをしたっていいだろう」
散々悩んでおいてそれか。
口にいっぱいにマドレーヌが入っていなければ、きっとため息が零れていただろう。代わりにぐっと眉根が寄って、尻尾がてしーんと思い切り椅子の背を打った。
「それはわたしには関係ありませんし、質問の答えにもなっていません」
今更そんな捻りのない回答をもらってもつまらない。他人の時間を浪費するなら、せめてもう少し面白味のある言い訳を考えてこい。
今日は菓子も貰っていないのに、図体だけ成長したわがまま坊ちゃんの言い訳まで聞いてられるか。




