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17匹目:人の話を聞かないくせに手土産すら持って来ない阿呆 1

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気付いたら1日1000PV達成している日がたくさんある!嬉しい~!ありがとう~!!





ジェマは喧嘩を売られても正面切って殴り返すことはない。のらりくらりと交わして逃げ回った挙句相手の隙を突いて足を引っ掛け転ばせようとするタイプである。


ジェマだって怒るときは怒る。避けられないのであれば武器を持って応戦してやる。


表向き怒りを顕にすることが少ないゆえに勘違いされやすいが、ジェマは1度怒ると結構根に持つ方だった。


何が言いたいかというと、ジェマはリリアンを調子に乗らせているエリオットにもちょっと怒っているということだ。



「リリアンがお前のせいで泣いているのだが、何か申し開きはあるか」



ふんぞり返って茶を要求しながらそう宣ったエリオットに、ジェマは紅茶用に沸かしているお湯をぶっかけてやろうかと思った。


もし彼が大公令息でなかったら、確実に足が滑ったフリをしてティーポットごと投げつけている。


【幸運の猫】の客層は、夏季休暇前は圧倒的に高位貴族令嬢が多かった。なのでティーセットも顰蹙を買わないくらいには良いものを使っているのだが、わざわざ割れても良い安物を探そうとしたくらい腹が立っている。



リリアンなんて何もしていなくても泣くし、1人で勝手に泣いて他人に罪を擦り付けて慰めてもらおうとまでする。何もしていないアンジェリカにクッキーを踏み潰されたと泣いてエリオットに泣きついたのはどこの誰だったか。


購買で1番安い茶葉を使い、ついでに1番安いマドレーヌを割れても良い安い皿に並べる。


アンジェリカの作ったアップルパイのようにひっくり返されたりでもしたら困るからなと心の中で舌を出して、何食わぬ顔で大公令息の前に置いた。


これまた安く購入したティーカップを出して、一応ちゃんと入れた紅茶を注ぐ。



「その前に、『お前のせいで』の詳細をお伺いしたいのですが」


「心当たりがないとでも?」


「彼女は貴族令嬢にしては涙腺が弱いでしょう?」



実際には弱いどころではない。おそらくいつでもどこでも泣けるに違いない。素でも演技でも、とにかく奴はすぐに泣く。貴族令嬢でなくたって、15歳にしては異常なほど泣く。


それに気付いていないとしたら相当な阿呆かリリアンに興味がないかだ。しかしエリオットは握った拳をわなわなと震わせながら、ジェマを睨む目に力を入れた。


エリオットの恋心を端から疑ってかかっているジェマは、怒りに震えるエリオットを冷めた目で見返した。



「何が言いたい」


「まずその事実を正しく認識していただきたいですね。あの方よりよく泣く貴族令嬢なんてこの学園にはいませんよ。例え泣きたいくらい辛いことがあったとしても人前では絶対に泣かないようにって礼儀作法の講義でも教わりますから」



顔を真っ赤にしてジェマを睨みつけていたエリオットだが、思い当たることがあったらしい。「いやしかし」などともごもご言い訳をしながら視線を逸らす。


相変わらずかっこいいのは顔だけだ。


平民が大公令息より先に紅茶に口を付けることもできず、イライラと尻尾を椅子に叩きつけた。



貴族であれば内心を悟らせないようにポーカーフェイスを維持するのは基本中の基本である。ジェマは尻尾も耳も素直に振って垂らして感情を出しているが、貴族の獣人は尻尾でさえも完全に制御できるよう訓練するものらしい。


エリオット自身もだいぶ感情が出るタイプだが、リリアンは比べものにならないくらい酷い。あれはきちんとアルカイックスマイルを浮かべる令嬢たちを馬鹿にすらしている。



エリオットはカップに3つも角砂糖を入れて、やっと紅茶に口をつけた。



「リリアンには茶の一杯も出さず、リリアンがわざわざお前のために作ってきたクッキーも頑なに食べないそうだな。先日は『お前のクッキーなんて食えるか』とまで罵ったそうじゃないか。そこまで虐げておいて、貴族令嬢が泣くなんてはしたないとまた蔑むつもりか?」



平民の分際でとでも言いたげな顔でエリオットはまたふんぞり返った。ジェマも背筋を伸ばして対抗する。



()()虐められる相手のところへわざわざ通い続けるのもおかしいと思いますけれど。そのランズベリー嬢の発言にどれだけの信憑性があるとお思いですか?」


「リリアンが嘘を吐いているとでも?」


「一方の話だけを鵜呑みにしてろくに事実確認もしていない件で、何も関係していない大公令息が抗議に来ることが正しいことだと? あなたはランズベリー嬢の後見人にでもなったおつもりですか?」



エリオットは目を見開いた。はくはくと口を動かしているが、意味のある音は何も出てこない。一瞬真っ赤になった顔は時間が経つにつれどんどんと白くなっていく。


とうとう殴って来るかと身構えていたのに、心底つまらない男だ。殴ってきたら殴り返す口実ができたというのに。


ジェマはため息を堪えてミルクティーを飲んだ。




正直なところ、今回のリリアンの話にたいした嘘はない。直接罵った覚えはないがずっとそう思っていたし、気付かないうちに口に出ていたと言われれば否定しきれない。


それにジェマはもう半年弱リリアンを無視し続けている。全部を無視しているわけではないが、お茶は出していないしお菓子は食べないどころか目の前で吐き出したし、どれだけ泣いていてもひとつも慰めたことはない。


先日のゲロマズクッキーのときにも思ったが、そろそろ爆発してもおかしくないとは考えていた。


しかしまさか本当にエリオットが代わりに殴り込みにくるとは。



ジェマがリリアンに酷い扱いをしているのは事実でも、リリアンがジェマに薬入りクッキーを食べさせたことの方が罪が重い。だから現状リリアン側には大義名分はないのだ。大義名分のない状態で大公令息を動かすとは、随分自体は進行しているらしい。



「あなたはいったい何がしたいのです? このまま卒業してアンジェリカ様に婿入りして、それからもアンジェリカ様と仲の悪いランズベリー嬢の面倒を見続けるなんてことが可能だとお思いですか? それともランプリング公爵家に婿入りする安定した将来を捨てて、貴族になったばかりのランズベリー男爵家に婿入りできるんですか?」





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