15匹目:だからそのチョコを好きなのはリリアンだってば 3
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何日か1日に1000PV達成してました~!!
毎日読みに来てくれている人も、今日ここまで追いついた人もみんなありがとう!!!!
お暇なときに評価とかブクマとか感想とかしてくれたら嬉しいな!
「どうして香水にまで先生に口出しされなきゃいけないのよ……!」
綺麗に波打つピンク色の髪を靡かせながら、リリアン・ランズベリーは怒りに任せて廊下を走っていた。
わざわざ貴重な昼休みに教員室に呼びされたと思ったら、その内容はまさかの「香水を変えろ」だった。夏季休暇中の誕生日に貰った、今1番お気に入りの香水を一方的に貶されたことにリリアンはとても怒っていた。
リリアンの使っている香水に、媚薬や魅了系の精神誘導薬にも使われる成分が含まれているから教育の場で使用するのはふさわしくないという忠告だった。
その成分自体には違法性はまったくなく効果もほとんどない。ただそんな香りをさせていればそう勘違いされても文句は言えない、と。
実はフィリアの花蜜に関することは、治癒科なら2年生で習うことだった。1年生でもう習っている他学科もあるが、リリアンはまだ知らなかったのだ。
リリアンはそんな意図で使っているわけではない。
そのためリリアンはただ理不尽に叱られただけとしか思えず、ぶつぶつと怒りを吐き散らしていた。
(はぁ? だからなんなの? そんな効果ないんだったら別にいいじゃん。勘違いってなんなわけ? ホシツカのアイテムに似てる瓶だから使ってるだけなのに!)
マグワイア魔導学園は難易度も倍率も高い。そのため入学したからには将来を考えて努力をする生徒がほとんどであるが、中には全力で嫁ぎ先を探す生徒もいる。明け透けに言えば、愛人や側室狙いでハニートラップをしかける者もいるということだ。
もちろん人生をかけて必死に勉学や社交に勤しむ生徒の方が多いので、あまりにもあからさまにそういうことをするとイメージは悪い。評判が悪すぎると、最悪仕掛けた方も引っかかった方も、まとめて勘当されて放逐されることになる。
フィリアの花蜜は獣人の女性が過敏に反応するためとてもバレやすい。
わざわざバレやすくリスクの高いものを香水として毎日身に着けていれば、そういう風に勘違いされても仕方がない。
アシュダートン伯爵家が抗議した結果された注意だが、教師はそれでもだいぶ優しい言い方をしてくれていた。
けれどリリアンはそんなことは知らない。自分のお気に入りの香水にそんな効果があるとも知らないのだ。ジェマにバレたことも、そのせいでシリルとフランツから軽蔑されたうえ本格的に怒りを買ったことも知らない。
無知は罪とも言う。問題の本質を一切理解していないリリアンは、悔しさで目に涙まで浮かべた。すれ違った女子生徒が「またはしたないことを」と眉を顰めるのも気に留めず、ぱたぱたと足音を立てて走っていた。
リリアンが目指していたのは、いつもジェマがいるところ。つまりはヒロインのお気に入りスポットであるあの湖だ。
『星降る夜に捕まえて』では、あの湖の畔に生えている大樹がお気に入りだった。
寮でも4人部屋のため、王都に来てからジェマが本当に1人になれる場所はほとんどない。そんな猫ちゃんが見つけた1人になれる休憩スポットが、あの大樹の枝の上だったのだ。
平民のジェマは貴族令嬢たちのように、お茶会や社交に時間を取られることはない。そのため晴れた日の授業の空きコマはほとんどあの湖にいた――物語では。
現実には、ジェマは大樹には登るなという言いつけをしっかり守っているし、昼休みや空き時間とて毎回湖に通っているわけではない。貴族令嬢たちのお茶会に混ざったりもしている。それに加えて、ジェマは晴れの日だけでなく雨の日でも風の日でも、気分が乗れば縄張りへ向かう。
「なんでよ! どうして今日に限っていないの!? ひどい!!」
自分のことで忙しいリリアンは、現実のジェマのことなど調べてすらいなかった。
約束しているわけではないので酷くもなんともない。リリアンはジェマの予定も確認せずに勝手にやって来た自分のことを棚に上げて、すべてをジェマのせいにして叫んだ。
ホシツカのヒロインに成り代わりたかったリリアンもこの湖に通うべきではあるが、リリアンには時間がなかった。
最推しはシリルでも、他のお気に入りのキャラも攻略できるならしたかったからだ。昼休みから午後の空きコマの時間は色んなところでイベントがある。そのためリリアンはたまに授業をサボりつつ、可能な限りイベントをこなしていた。それがうまくいっているかどうかは別として。
悲劇のヒロインのように湖の淵で泣き崩れ、寒さも相まって体を震わせる。
教員室に行くだけの予定だったリリアンは、マフラーも手袋も付けていない。冗談抜きでとても寒く、ジェマに会ったら防寒着やブランケットを借りようと思ってそのまま走って来た。それが完全に裏目に出ていた。
これまで半年以上もずっと現実のジェマと物語の主人公を混同してきたリリアンは、まさかジェマがいないとは思ってもみなかったのだ。
それが他人からどう見られているかなんて、もっと考えたことがない。
(なんだあれ……)
そんなリリアンを目撃してしまった、たまたま植物採集に来ていたフランツは絶句していた。万が一にも見つからないようにと息を殺して木の陰に身を潜めている。
フランツ個人としてはリリアンにはもう関わり合いになりたくないのだ。シリルからもアシュダートン伯爵からもジェマのことは頼まれている。そのジェマに危害を加えたリリアンは、フランツの中でも要注意人物だ。けれど個人的な感情としてはわざわざ出て行ってまでリリアンを慰めてやりたくはない。
しかし教職に就く者として、冬に薄着で泣き崩れる女子生徒を放置し続けることもできない。
無視もできない厄介なジレンマに陥り、フランツは柳眉を顰めてため息を吐いた。




