7匹目:ごろごろナッツのブラウニーは情報屋への賄賂に消える 3
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評価してくれた方もありがとう!目標の100ポイントももうすぐになってきたよ!
『3匹目:思い出のアップルパイはもういらない 3』に自作挿絵を追加したので、お暇な方ちょっと戻ってみてね♪
「まぁ何にせよさぁ、『俺はアンジェリカ様のことが好きじゃない!』とは言って回れないでしょ? だから助けてあげようと思ってね。何か良い方法教えてクロエ」
「なぁにジェマ。あなたベルノルト様みたいな方が好みだったの?」
ふしゃーっと鳴き声が出そうなほど、ジェマは思い切り顔を顰めた。さすがのクロエも思わずびくりと肩を揺らす。
過剰反応し過ぎたことに気が付き、紅茶で一息吐いて顔を戻した。
「……違うのね。ごめんなさいね」
「いやまぁ良いけどね。わたしはわたしの面倒をきっちり見てくれる人と結婚するって決めてるの。わたしがお世話してあげなきゃいけない人はいや!」
「じゃあうちのお兄様はどう? 面倒見はすごく良いわよ」
「だめ。伯爵家の嫡男様じゃん。むりむり」
1度クロエの家にお呼ばれしたときに、噂の兄にも会ったことがある。外見も中身もクロエにそっくりだったので、正直結婚相手としては結構アリだ。
でも平民生まれ平民育ちのジェマは、きっといつか伯爵家での暮らしに息が詰まる。
べぇっと舌を出したジェマにその気持ちを察したのか、クロエはちょっと寂しそうに笑った。
ぽつりと「やっぱり野良猫を飼うのは無理か……」と呟かれたような気がしたが、きっと気のせいである。
「それはともかくとして! 全部食べていいとは言われたんだけど、やっぱりちょっとお菓子貰いすぎな気がしてね?」
「お馬鹿ねぇ。食い意地を張るからそんなことになるのよ」
「だって《うさぎのエプロン》のシュークリームと焼き菓子の詰め合わせだったんだもん」
「……あそこ、結構いいお値段だったと思うのだけど」
「食べ過ぎたって反省はしてる」
実は昨日の時点ではジェマも値段までは知らなかった。ただちょっと背伸びをして店に行った友人が、小袋2つしか買えなかったと落ち込んで早々に寮へ戻ってきたことを知っていただけだ。
しかし休日によく《うさぎのエプロン》でおやつを補充している令嬢を捕まえて話を聞いてみたら、予想以上のお値段だったのだ。
なんと1番安い焼き菓子の小袋で銀貨1枚。学食の低価格ランチが1食大銅貨1枚で、大銅貨4枚で銀貨1枚だ。つまりは学食4日分である。ジェマがさくさく食べてしまったあの小さいクッキーが。
しかもシュークリームに至っては、1個で銀貨3枚。
なぜそんなにも高いのだ。材料をこだわり抜いているからだ。
卵1つで昼食代が消えるような高級食材をふんだんに使用して、元公爵家のお抱えシェフが作ったお菓子だ。高いに決まっておろう。
ぐるぐるとそんなことを考えながら、反射的に情けない鳴き声が出てしまったのは許して欲しい。さすがのジェマでも反省はするのだ。
「まぁ反省しているなら良いわ。ベルノルト様は言わないだろうけど、あんなに奢ってやったのにとか言われると対処が面倒になるから気をつけるのよ」
クロエにもさっくり叱られて、ジェマはしょんぼりと頷いた。
「ま、それはともかくとして。現段階では、そもそも『悲恋の騎士』の噂はそこまで出回っていないわ。むしろランズベリー嬢が現実と物語を混同してるって話の方が多いわね。つまりは馬鹿にされているのだけど」
「それくらい持て囃されるべきじゃない話ってことね」
そういうこと、とクロエはブラウニーを刺したフォークを咥えた。いつもは取り澄ましているクロエの微笑みがゆるりと崩れる。
満足げに振られたジェマの尻尾を見てすぐに戻ってしまったが。
「ついでに、あのベルノルト様が恋をしていて、かつそれを完璧に隠すことなんてできるのかっていう根本的な話もあるわね」
「それはわたしも思った。あのお花畑はどうして『悲恋の騎士』なんて言い始めたんだろうね?」
「あなた聞いてないの?」
「いやなんとなくはわかるんだけど、理解はできないんだよね」
「何よそれ。わかるの? わからないの?」
ジェマはぬるくなった紅茶をこくこくと飲み干し、そのまま首を傾げた。
「ほら、わたしあれが来てもお茶すら出してないからね。話も聴いてはいるけど、理解するためにちゃんと聞いたことはないんだよ。だから、言ってたことをそのまま繰り返すだけならできるけど、理解はできてないんだよね。訳がわからなさすぎてね?」
「とりあえず言ってみなさいよ。協力してあげるから」
「ありがとクロエ。だいすき」
「っつ、都合の良いこと言ってないでさっさと白状なさい!」
クロエは好きだ。もちろん恋愛的な意味ではないが、第三夫人くらいならクロエの兄からの求婚を受けても良いと思えるくらいには居心地が良い。
クロエの兄はとても妹を可愛がっていて、外に嫁がせる予定もないらしい。クロエもクロエですでに手伝いを始めている領地の事業にとても入れ込んでいるらしく、家に残ることに関しては不満はないそうだ。妹の方もそれなり以上のブラコンでもあると思う。
魔力結晶作りだけでも生計を立てられるジェマは、あまり就職する気がない。勉強は好きなので、後見の話も王都にある学園の寮に入ることも喜んで積極的に決めた。
けれど実際に入学してみると、想像していた何倍も貴族との生活が向いていなかった。
ジェマの魔力結晶は質が良すぎるため、平民の生活ではむしろ使いづらい。しかし貴族には大人気で、どこの家でもジェマを囲いたいと思うほど利用価値があるらしいと聞いた。貴族に後見してもらって学園に入った以上、卒業後実家に帰ってのんびりするのは難しいだろう。
後見をしてくれているアシュダートン伯爵は善い人だ。卒業後のことはそのうちちゃんと考えて決めなければいけないが、もし誰かを頼るとしたらきっと1番にクロエに相談するだろう。そのくらいクロエが好きで信頼している。
少し尖った耳を真っ赤に染めたクロエをつまみに、1つブラウニーを摘まんだら早く説明しろと叱られた。
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