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27匹目:ラストダンスはお菓子を食べながら見守る所存 2






「そういえば、クリスティーナ様はどなたと参加されるのかしら。ジェマは知ってるの?」


「んー。知ってるけど秘密」


「今度は何を企んでるのよ……」


「なになに? 楽しいこと? 馬鹿なこと?」


「面白いこと!」



本日のメンバーは、最終的にジェマとクロエ、シェリーの3人となった。アンジェリカは言わずもがな、クリスティーナもパートナーが見つかって一緒に遊べなくなったのだ。そう唆したのはジェマであるが、黙っていた方が面白そうなのでクロエたちにはまだ秘密にしている。


貴族だなんだと面倒なことばっかり考えていないで、みんなクリスティーナのように可愛い恋愛をしていれば良いのだ。


これだけ美人な若い娘が集まってもその話題は領地のことや事業のこと、お家のことや婚約のことなどなど、小難しくて七面倒なことばかり。恋愛の話題となっても、誰が誰を好きなんて可愛い話ではなくて、どこの派閥の誰が誰と婚約して事業がどうのこうのなどという方向へ発展していってしまってつまらないことこの上ない。


その点クロエとシェリーはあまりジェマ相手にそういう話はしない。だからこそ長い時間一緒に居て楽しいのだが、貴族令嬢としてはクロエたちの方が珍しいのだとは理解している。



「ルシアン様とベルノルト様はどなたと踊るのかしら」


「わたくしお母様からルシアン様と踊ってきなさいと言われているのだけれど、今年は踊られるのかしら……」


「昨年までは踊られなかったのよね。残念だわ」



すれ違った令嬢たちの会話が聴こえてきて、ついとクロエが視線をやった方へジェマも振り向いた。


脱出に失敗したらしいルシアンとベルノルトが、会場の端の方で令嬢たちにたかられていた。あれはもう人気があって囲んでいるというより、花の蜜にたかる蝶である。いくら綺麗に着飾ってもあれだけギラギラとした目で迫られたら怖がる人の方が多い気がする。


令嬢たちにみっちりと囲まれているせいでルシアンは全然見えないが、1つだけ突き抜けて見えるベルノルトの顔ですら若干引きつっている。ベルノルトはなぜかルシアンを庇うように半歩前に立っているし、風に乗って聞こえてくる会話から察するにルシアンがベルノルトのジャケットの裾を掴んでいて可愛いらしい。おそらく怖がっているのではなくて不機嫌になっているのだろう。きゃっきゃと楽しそうに周りを囲んでいないで解放してやってほしいものだ。


同じ話が聴こえたらしいクロエがまた苦笑した。


きっと明日には彼らが誰と踊ったのかと噂が出回るのだろう。今日のジェマはアシュダートン伯爵から男子生徒とは踊らないようにと言いつけられている。それを言い訳に全部を断れば良いので楽だが、様々な柵と自分の好みを天秤にかけて相手を選ばなければならない貴族は大変だ。


シロップで艶々に飾られたフルーツのタルトを小さく切り分けて口に運ぶ。甘酸っぱいフルーツと滑らかなカスタードの甘みが合わさって、素晴らしく幸せな味がする。


ふと目が合ったシェリーにふにゃりと笑いかけると、シェリーは黙って同じタルトを取りに行った。



「そういえばと言えば。先日のお茶会、どうしてシェリーは呼ばなかったの?」


「まぁ深い理由があるわけじゃないんだけど……」



シェリーの背中を見送りながら、クロエが首を傾げた。楽しみにしていたのにどうして呼んでくれなかったのだと騒ぐシェリーに、一から詳しく説明してくれたのはクロエである。きちんと説明せずとも助けてくれる良い友人だ。


ゆっくりと噛み締めて味わっていたタルトを呑み込み、クロエに向き直る。



「あそこにシェリーを混ぜたらさすがにカオスすぎると思ってね。シェリーにはパートナー必須ですぅって言って断ったの」


「……十分カオスに仕立て上げてた犯人が何を言ってるの?」


「まぁまぁまぁ。落ち着きたまえよ。あれは違うんだよ。だってあのまま放っておいたらどんな結果になるかわからない暴走具合だったでしょ。結果的に誰も損をしないすごく良い結果になったんだから良いでしょ」


「あなたが落ち着きなさいよ。あれだけ妙な煽り方して適当に収めたのは素直にすごいと思ったけど。でもジェマ、あなた途中から完全に自分の私情で殴りに行ってたわよね?」



ぷいと顔を背けて尻尾でぺしぺしとクロエのスカートを叩いた。その尻尾をするりと撫でられて、すぐに顔を戻す。


あの後すぐにアンジェリカとエリオットは帰宅し、何を見せられたんだと怒るルシアンと何の説明もしてなかったせいで困惑しきりのベルノルトへ説明をさせられ、その役目もクロエへ押し付けて、ジェマは黙々と残ったスイーツを平らげた。


シリルに叱られなかったのを良いことに好き勝手したうえ、クロエに1番面倒なところを押し付けた自覚はある。ぷにぷにと頬を突かれてもなされるがままになっていた。



「話を戻すとね。シェリーを呼ばなかったのは、シェリーがリリアンに怒ってるポイントがちょっとズレてて話がズレるかなってことでやめたんだよ」



シェリーは真面目に治癒師を目指して治癒科に通っているごくごく一般的な生徒だ。それゆえに勉強を放り出して男漁りをするためだけに学園に入学したとも取れる行動をするリリアンに至極真っ当な怒りを覚えていた。


政治的な理由も貴族としての立場も全く関係なく、ただ真剣に学ぶ自分たちの邪魔をしないでほしいと。


リリアンに怒っていると言う意味では同じでも、あれ以上話題を増やすのは危険だと判断した。あそこにシェリーを放り込めば話の流れも一切関係なくリリアンを殴りに行っていた可能性もある。ただでさえジェマが引っ掻き回しているのに、さらにトラブルの種を突っ込んだら本当に大変なことになっただろう。



「まぁシェリーも真っすぐな子だものね……」



つまりはリリアンやエリオットと相性が悪そうなタイプだということだ。


今回の件で最も風紀が乱れたのは治癒科だと聞く。リリアンが退学にならなければ、この先1番苦労するのはシェリーだろう。


けれどあれに真っ当に怒ることができるシェリーの性根は貴族社会では貴重な気がする。ぜひともシェリーにはそのままでいてほしいものだと、戻って来たシェリーの顔を見つめてにっこりと微笑んだ。




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