27匹目:ラストダンスはお菓子を食べながら見守る所存 1
エピローグ始まります!
最後までお付き合いください~!!
舞踏会と言えば夜というイメージがあるが、真昼間のダンスパーティーもなかなか乙なものである。
1曲も踊らずに真っすぐにスイーツコーナーへ向かったジェマに、クロエとシェリーは呆れと笑いと零した。
建国祭のパーティーと言っても学校行事だ。あくまで社交の練習であって本番ではないということで、衣装は学園の貸し出し衣装か制服のみと決まっている。けれど衣装は誰でも借りられるが事前に予約しておかなければならない。事前に衣装選びをしておき、当日に頼んだところで借りられない決まりになっている。
素晴らしいスイーツに舌鼓を打ちながら、ジェマはスイーツをぎっちりと並べたお皿越しに自分の衣装を見下ろした。
ジェマはダンスがあまり得意ではない。貴族が幼いころから習っているものに数か月で追いつけるわけがないのだ。それに親しくもない男性と密着して数分間を過ごさなければならないというのが少し嫌だったということもあり、練習にも身が入らなかった。明け透けに言えばやる気もなかった。
本日のジェマの目的は、その話を聞いたときからずっと決まっていた。そう、用意されたスイーツを全種類制覇することである。
もちろんやる気のないダンスパーティーのために着飾る必要性など微塵も感じておらず、むしろコルセットのせいで食べられる量が減りそうなドレスは着たくなかった。
光に反射すると銀にも見える淡い水色のドレスを見下ろして、ジェマは甘い息を吐き出した。事前に予約して衣装合わせをしておかなければならないはずの貸し衣装だが、なぜか今朝早くに一式セットでジェマの元まで届いた。
裾にたっぷりと付けられたフリルが可愛らしい、けれどシンプルなAラインドレスだ。これを着てくるくるとダンスを踊れば、さぞや綺麗に裾が舞うのだろう。控えめに付けられたビジュ―が日光を反射して煌めき、共布の大きなリボンが尻尾と一緒に揺らめいている。
またアシュダートン伯爵家で磨かれて艶々になった髪を後頭部で結わえ上げ、スッキリした首元には透明な石で飾られたネックレスが付けられた。
まぁとても好みではある、とチーズケーキを呑み込みながら頷いた。
もし細くて高いピンヒールを履けと強要されたら全部断ろうと思っていたが、用意されていた靴はリボンが可愛いローヒールの靴だった。
つまりはちょっとテンションが上がってしまってドレスを着てきてしまったわけだ。
ジェマの想像以上に用意されていた数々のスイーツを見遣って、またぱくりとチョコケーキを頬張る。
ミニチュアのように小さくカットされたケーキに、一口サイズのタルト、マカロンやプリン、おしゃれなカップケーキとチョコレート。
コルセットの締められた固い腹では全部食べられるか不安だ。余裕があれば料理コーナーにあるキッシュも食べたいし、美味しかったチーズケーキは何個でも食べたい。計算をしながらゆらゆらと尻尾を揺らした。
「美味しいの? よかったわねぇ」
「せっかく貸しドレスを申し込んでおいたのに、結局やってることはいつもと変わらないじゃない」
ずっと呆れたような苦笑を浮かべているクロエだが、彼女の手にもしっかりとスイーツの乗ったお皿とフォークがある。情報収集が趣味と豪語する彼女はきっとこの後フロアに繰り出して行くのだろうが、「まずは腹ごしらえしなきゃね」と呟いていたことを知っている。
穏やかに微笑んだシェリーに零れてきたおくれ毛を払ってもらい、次のタルトを突っつく。
「まぁまぁ。どうせ今日の主役はあの2人なんだから良いでしょ」
「何が良いのよ。あなただって主役級に可愛いわよ」
「やめやめ! 良いの! 今日はいっぱい食べるの! 決めたの!」
主役だなんて言われると嫌なことを思い出してしまう。
あの日から学園を休んでいるというリリアンは、いったいどこまで許されたのだろうか。リリアンだけ停学にさせてアンジェリカとエリオットだけ楽しむと言う可能性は十分にある。けれどある意味リリアンは2人の復縁に一役買ったととも言えるのだから、ある程度は多めに見てもらっても良いのではないかと思っていた。
リリアンに同情するわけではないけれど、バカップルのくだらない揉め事に巻き込まれた同士ではある。何より、あのガッツだけは認めている。いっそ見せしめとして学園に通わせ続けてしまえば良い。
便乗して調子に乗った周りの愚か者どもについては、きっと卒業までにアンジェリカがなんとかしていくだろう。きっと。おそらく。それくらいはやっていくだろう。たぶん。
ホールの真ん中でふにゃりと緩み切った微笑みを浮かべながら幸せそうに踊っているアンジェリカを遠目に眺めて、ジェマは一振りだけ大きく尻尾を振った。




