26匹目:あの日のアップルパイをもう1度 7
キリが悪かったのでちょっと短いです。
――何が主人公だ、馬鹿野郎。
ジェマは久しぶりに全力の威嚇を披露しながら、心の中でヒロインヒロインと謎設定にこだわっていたリリアンを罵倒した。
リリアンはジェマが本来の主人公だと言っていた。そしてエリオットはそんな主人公の恋人候補であり、彼らと恋愛をするゲームだと。しかしエリオットはジェマには見向きもしない。結局彼が見ているのは初めからずっとアンジェリカのことだけ。
婚約者の好みさえ知らず、不貞相手の好みの贈り物で機嫌を取ろうとしたナチュラル傲慢男が成長したことを喜ぶべきか、それともやっぱり話を聞いていないことに対してキレ散らかすべきか。
エリオットの気持ちがどうであれ、彼がジェマのことをまったく気にもかけていないことだけは確かだ。どこの物語でジェマが主人公だったか知らないが、現実では平民に遠慮する高位貴族なんてごくごく少数だいうことを知らなかったのだろうか。
ジェマはリリアン物語にも主人公にも興味はないけれど、ここまで都合よく利用されれば腹も立つ。完全に蚊帳の外に置かれて不貞腐れながら、甘い雰囲気を漂わせ始めた2人を睨みつけた。
「もー! なんなんだよ! 子どもの喧嘩をここまで拗らせたの!? ただの馬鹿では!? どれだけの人を巻き込んだと思ってるんだ! 責任取ってよ!」
「それを言われると耳が痛いわ……」
「だから大人しく殴られてやっただろう」
「あなたは勝手に割って入ってきただけですぅ!」
いーっと歯をむき出しにして眉を吊り上げる。
アンジェリカの微笑みがおもちゃにじゃれている子猫を見るかのように生暖かい。眉を顰めて馬鹿正直に対応してくれるエリオットと子猫を交互に見て、ほっこりと目を細めているのが気に入らない。
「なぁにが『アンジェリカは、悪くない。私が悪かったのだ。殴るなら私を――』か! あなたが悪いなんてこたぁもう何か月も前からみんな知ってますよ!」
「な、なんなんだこいつは! アンジェリカ、付き合う友人は選べ!」
「アンジェリカ様もあなたには言われたくないでしょうよ! リリアンといちゃこらしてた人にそれを言う資格はありませんね!」
べっしべっしと勢いよく尻尾を振りながら、エリオットに噛みついた。
もう開き直って言いたいことを全部言ってしまおうなんて思っていない。どうせならスッキリさせたいなんてことも思っていない。ただちょっと気に入らないだけだ。
「そもそもあなたがこんな時期まで誰と建国祭に出るかすらハッキリさせないからこんな茶番みたいなお茶会を開く羽目になったのに! でもアンジェリカ様はわたしたちと行くんですもんね?」
「なぜだ。婚約は継続なのだから私と行くべきだろうが」
「あなたがリリアンと遊んでる間にもう約束したのでね! 恨むなら過去の自分を恨むと良いですよ!」
腕を組んで踏ん反り返り、鼻息荒くエリオットを見下した。
先ほどまでは1発引っぱたいて手打ちにしてやろうと思っていたが、2人の態度で気が変わった。どうしてもアンジェリカと一緒にパーティーに行きたいわけでもないけれど、最後に何か一矢報いたい気分なのである。
アンジェリカとエリオットがあまりにも好き勝手するからいけないのだ。
今日はジェマが主催する初めてのお茶会なのに。
少し冷静になったらじわじわとそんな気持ちが強くなってきた。八つ当たりくらいはさせてほしい。
「ね、アンジェリカ様! わたしと一緒に行きたいですよね?」
「婚約者がいるのに子猫の子守をする気か?」
「仲良しなのでね!」
特に仲良しではないけれどと心の中で付け足して、アンジェリカに抱き着きべっと舌を出す。
唸りながら手を彷徨わせるエリオットに少し気が晴れた。むふんっと鼻を鳴らして、機嫌よく尻尾を揺らした。




