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そこから聴こえる……聲。  作者: 珀武真由
2/2

後編

ご拝読ありがとうございます。

これで終わりです。

すみません。間違えてしまい、反省しかありませんがよろしくです。



 ギターの音色とともに歌がする。


 カナリアの唄聲とはこういうものかなと考え、ふと眼を開け──。

 愕いた!

 なんてことだろう。夜な夜な悩まされたあの物体が、銀物が真ん前にあるではないか。

 

 私は口をぱくぱくと金魚のように開け、呼吸を乱す。

 ひゅっと息を吸いこむと、咳き込み始めた。


「おおい、ゆっくりいこか」

 

 聴き慣れた声がし、背中を優しく撫でる手の感触に私は落ち着き、息を吸う。

 後ろには友が胡坐をかき、止めた煙草を手に白い煙を焚かせ、ふうと靄を吐いた。

 口にある丸い白包みは歯がカチカチ、唇と同時に上下に揺れていた。

 友は「あーもうぅ」と呻り、髪を振り乱し、アー……と一声出した後に銀の箇体にポンと手を乗せた。


「あのな」


 話しだすも声は、一言だけ、だった。

 口にあるモノをカシカシと動かせ、灰をパラパラ散らしている。

 灰黒い粉が落ちたことに気づいた友は、皿を手にした。

 なかなか切り出さないあいつに代わり、私が言う。


「それ、どうしたんだ?」 

「ああ、コレな」


 友の眼があちこちと泳ぎ出す。

 私を見て、天井を視て、柱を眺め、クルクル廻り。私に戻ってきた視線は落ち着くことを知らず、また上を見た。

 一拍置き、はぁあと長い息を吐き捨てた途端、


「眼が覚めたらあった」

「は?」

「だから、枕元にあったんだよ。コレが」


 気がついたときには友が手にしていた煙太(いんた)はなくなっていた。一本も。


「いやいや、どういうことなんだ」


 空箱をくしゃっと握り絞め、おずおずと話しだす。

 私が相談した日の夜から起き出した彼の夢。


 あいつと別れてから、会うのは三日ぶりだった。


 そして朝──、気がつけば枕元に。

 こいつはこいつで悩んだらしい。

 眼の前にある顔も私とは違い血色は良く、悩みがあるようには見えないが、今回は悩んだのだろう。

 眉間に深く刻まれたシワとくしゃくしゃになった箱が、物語っていた。

 私と同じで夢に現れ、ラジオは歌い出す。ラジオの横で音を奏でるのは友のギターだが、弾いているのは友ではない。

 ラジオのダイヤルが廻されたところで眼が覚めるんだ、

 とぼやいた。


「……どうするよ、コレ」

「ん~~~。困った」


 盗んだ訳ではない。しかしそんな理屈が通るだろうか。

 商品が店から消えていることだろう。

 持って行き、


 「商品が枕元にありました」


 こんな言葉が許されるだろうか、いや訳ないだろう?

 私は悩んだがあいつも悩んだであろう。なんて言っても商品が手元にあるんだ。

 本人の意思とは反し。しかし戻すしかないのだ。

 買った商品ではないのだから……。

 

 二人、顔を見合わせ首を縦に振り、指し示したかのように足を上げ玄関に向かった。

 例の銀色を手にして。


 店は変わらず色々な品で溢れていた。オーディオ機器、楽器、食器に工具類。雑に置かれている訳ではなく、綺麗に並ぶ商品の中にポツンと空いた場所が目に見えた。


「実はこれが初めてのことではないんだ」


 店主は顔を歪め渋々、話し始めた。

 黙って聞き入る私たちに、店主は願う。


「こう度々抜け出されると困るんだよね、どうだろう?」


 こうしてまた、私たちの手元に銀のラジオがある。


「どうするよ? コレ」

「困ったね。まさか譲られるとは」

「ふぅん」


 私たちは考えた。


「なぁ、コレっていつもカセットを巻いているが流れてるのを耳にしたことあるか?」

「云われてみれば」

「だろう?」


 友人はラジオのダイヤルや可愛い小鳥の聲よりキュルキュルと音を立てる方を気にしだした。

 

 その夜──。


 友はライブに物を持ってくるように言う。中にダビング用のカセットを入れて来いと。

 しかし今の時代にそんなモノはなく、私は父の私物を思い出した。

 父から一本分けてもらい、カセットを入れ、いつもの喫茶店に赴いた。


 うまく起動するのか?


 珈琲を一杯飲みつつ、自分以外の席を見渡す。

 そこそこ、人が入るようになったあいつのサークルバンド。

 演奏が始まり、不安に包まれながらセットしたボタンを押した。


─キュル……──。


 うまく録音を開始した途端、私は眠りに落ちた。

 ……いつもの夢だが少し違った。



「明日は晴れだよ。野外ライブ成功すると良いね」

「……」

「どんだけ確認するのかって? だって、気になるじゃない」

「……」

「ふふふ」


 ダイヤルを捻る音がするたびに流れる、天気予報。小鳥のように響く可愛い少女の聲。

 相手の聲はしないが話す相手はギターを奏でている恋人、であろう。

 明るい会話が続いていた後、いきなり強烈なブレーキの劈き音が響いた。

 閑かに──カセットが空回りしていた。


(? あっ)

 

 夢は続く。


 哀しく行われる葬送。

 名字は違うが二つ同じ刻、同じ場所、並ぶご遺体。

 二人の指に光る円い輪が、これからの互いの将来を語っていた。


(ああ、そういう……)


「おいっ」

 いきなり耳に大きく喚く友の()に私は──。


「大丈夫か……寝息も。息も立てずだから死んだと思った」

「ごめん、寝ていた?」


 気がつくとバンドの演奏はすべて終わっていた。


「どれどれ」


 なぜか得意気にデッキを触る友人に私の顔がクスッと、綻んだ。


「よくカセットがあったな」

「おまえ、無茶振りをしておいてよく言うね」

「ああ、わりぃ、おまえのおとさんが持っていた気がして」


 巻かれた後、友がボタンをカチッと。そしてコツンと銀の端を叩いたタイミングで音が出た。

 友のいつもの挨拶からだ。


「このご時世。あってもすぐ手には出来ないだろう?」

「だからっておまえ」


(父が居なかったらどうしたんだよ……)


 順調に音色を放出するカセットに、得意気な表情をさすコイツを見ていて、飽きない私がいた。

 演奏の最中、一曲だけコイツのギターソロがある。

 そこの部分を私と友は聴き、耳を疑った。


「─女の子の聲だ」

「よく訊け! もう一つギター音がする」


 まるでピントを合わせた、最初から存在していた音のように奏でる三重奏。


「ええと……アマだが冥利に尽きると受け取っても?」

「良いんじゃない?」


 気味悪そうに話す友人の顔は、照れていた。


 まあ、確かに不気味だがコレはこれでいいんじゃないか?


 テープを自慢したコイツは周りに『霊に取り憑かれた男』としてしばらく囃子立てられた。

 バンドの方では噂が元で、人が増えた。


(良いのか悪いのか。分からないが物好きが多いことには変わりない)


 私はそう納得し、今も変わらず珈琲のお伴に、あいつの演奏を楽しんでいる。


 あれからラジカセは静まったかというとそうではない。

 時折音声として顕れ、危険を告知してくれた。

 まあ、稀にだけど。

 友は「毎回告知しろよ」とぼやいていたがそのとき、私は訊いてしまった。


「悪かったわね、毎回出てこられないわ」


 少女の聲を訊いたのは後にも先にもこれが最後。

 危険を告げる、機械音が時々するのみ。


 彼等が偶然、重ねた音源は友の宝となり、私の厭な記憶は塗り替えられた。

 こんなふうに、訊ね来る怪異も在るのだなとあいつとは良い思い出話として、今も語り合っている。



お疲れ様でした。

 ご拝読ありがとうございます。

 ただただお礼しか言葉にないです。

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